80年代アメリカ映画史上屈指の問題作で、再評価の機運が高まっている『クルージング』(1980)が11 月 8 日(金)より、日本で43年ぶりに劇場公開されることが決まった。本作は70年代のニューヨークで実際に発生したゲイの男たちを狙った猟奇連続殺人事件を基にしたクライム・サスペンスで、監督は『エクソシスト』(1973)の世界的大ヒットでオカルト・ブー ムを巻き起こした巨匠ウィリアム・フリードキン。
当時、ハリウッ ド映画史上初めて男同士のSMセックスを正面から描いたことにより、同性愛差別を助⻑するとして製作発表時から公開後まで全米各地で猛烈な抗議活動を受けた。しかし、近年各国のクィア映画祭では、HIVウイルスが世界に蔓延する前のゲイ・カルチャーを記録した貴重な作品として再上映/再評価される機会が増えている。
ーーサディズムとマゾヒズムが渦巻く男だけの聖域で彼は何を見たのか
⻘と黒のトーンで統一された、あやしく退廃的な雰囲気が立ち込める映像の舞台は夜のニューヨーク。ゲイの男性ばかりが狙われる連続殺人事件を探るため、NY市警のバーンズは SMクラブでの潜入捜査を開始する。
そこで彼が目撃するのは、レザ ージャケットや黑のタンクトップ、鋲打ちのベルトやデニム、レザーハットにそろって身をつつんだ大勢の男たち。
彼らが互いを見定め、踊り狂うSMクラブでの様子は、汗や煙の匂いも伝わるほどの熱気と凄まじさに満ちている。
フリードキンが警察やゲイ・コミュニティの人々と交流を重ね、当時、ロウアー・ イーストサイドに実在していた「マインシャフト」や「アンヴィル」という、ゲイのサディストとマゾヒスト以外は立入禁止のSMクラブ内での撮影が許可されたからこその迫力だ。
ちなみに、SM クラブ内の男たちは実際の常連たちが演じている。
そんなサディズムとマゾヒズムが渦巻く男だけの世界に潜入する 主人公バーンズを演じるのは、当時すでに大スターだったアル・パチーノ。
最初は当惑するバーンズだったが、やがてその世界に身も心も浸されてゆき…。
後の『羊たちの沈黙』や『セブン』などに先駆けた、80 年代サイコ・サスペンスの重要作であり、SM ゲイ・カルチャーの洗礼を受けて揺らぐ男の性的アイデンティティと精神の闇に迫った、今なお先鋭的な野心作 『クルージング』。
性の多様性が謳われる 21 世紀の日本で、この作品はどのように受け止められるだろうか。
◆クルージング 11月8日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次ロードショー
https://cruising2024.com
STORY/夜のニューヨーク。ゲイ男性ばかりが狙われる連続殺人事件が発生。密命を受けた市警のバーンズ(アル・パチ ーノ)は、同性愛者を装い、“ストレート”立入禁止のSMクラブへの潜入捜査を開始する。毎夜、男たちの性の 深淵を彷徨い、身も心も擦り減らすバーンズは、遂に犯人の手がかりをつかむが―。
出演:アル・パチーノ ポール・ソルヴィーノ カレン・アレン|脚本・監督:ウィリアム・フリードキン|製作:ジェリー・ワイントロ ーブ|原作:ジェラルド・ウォーカー|音楽:ジャック・ニッチェ|サントラ参加アーティスト:ウィリー・デヴィル ザ・クリップルズ ジョン・ハイアット マデリン・フォ ン・リッツ ミューティニー ラフ・トレード ジャームス
1980 年|アメリカ|カラー|ヴィスタ|DCP|原題:WILLIAM FRIEDKIN‘S CRUISING|上映時間:102 分| 北米初公開 1980 年 2 月 15 日(ユナイト配給)、日本初公開 1981 年 1 月 24 日(東映洋画配給) |キングレコード提供 コピアポア・フィルム配給 © 2024 WBEI
記事制作/newTOKYO