12月3日(金)公開映画「彼女が好きなものは」が問いかける、“ふつう”という無意識の危うさ

ゲイであることを隠して生きる高校生・安藤純(神尾楓珠)と、秘密裏にボーイズラブマンガを愛読している安藤のクラスメイト・三浦紗枝(山田杏奈)が、不確かで曖昧な“ふつう”という言葉に振り回されながらも、懸命に自分の生き方を模索する様子を描いた映画『彼女が好きなものは』。

接点がほとんどなかった純と紗枝は秘密を共有することで次第に距離を縮めていきーー。

ーー“ふつう”という価値観の膨張を止めるのは、目の前にいる人を想像したいという気持ちかもしれない

ゲイであることを自覚しながら、異性との結婚を経て子どもを授かり家庭を築くという、長らく言われ続けてきた“幸せのかたち”を諦められない純。

自身のセクシュアリティが悟られないよう一歩引いた位置ではあるものの、クラスメイトの男子とは良好な関係を築いている。純と同じクラスの紗枝もまた、過去にあった出来事からBLマンガ好きの腐女子であることを隠して学校生活を送っている。

自分そして平穏な日常を崩さないために普通であろうとする2人だったが、書店でBL本を購入する紗枝に純がたまたま遭遇してしまう。
「BL好きであることを隠してほしい」と懇願されたことをきっかけに、それまで接点のなかった2人だったが、共に時間を過ごすうちに距離を縮めていく。

デートで訪れた遊園地の観覧車で紗枝から告白を受けた純は「“ふつう”に⼥性と付き合い、“ふつう”の人生を歩めるのではないか?」と一縷の望みをかけ、付き合うことを決めるがーー。

日常生活で何気なく口にしてしまう“ふつう”の曖昧さや過大化したレッテルの危うさ・攻撃性を、その言葉の陰に潜み生きる純と紗枝の2人を通して問いかける本作。ゲイであることやBLが好きであることは、意識的に変えられることでも変える必要もないことだが、ふつうという価値観のもとでは疎まれてしまう場合が現状として確かにある。

だからこそ2021年現在、SDGsの名のもとに社会全体でダイバーシティ&インクルージョンの動きが加速しているわけだが、その流れの表面的かつ都合の良い部分ではなく、個人の力ではどうしようもない現実として真正面から描くことで生まれるリアリティが、強く心に訴えかけてくる。

では、現代におけるふつうとは一体何なのか。そう問われたらマジョリティの無意識の中で生まれ継承されてきた価値観ではないだろうか。無論、社会的にマイノリティとされていても、そのふつうという価値観に囲われて育ったがゆえに、自身を受け入れられないという人も多いはず。

純もそのうちの1人だ。父、母、子どもの現代社会の授業で習ったような典型的な核家族が描かれた電車の中吊り広告や「好きなAV女優は?」というクラスメイトからの言葉、「彼女でもできたの?」と思春期の息子に対する母親からの何気ない一言も、“男性の性的・恋愛指向は女性である”という多数派の無意識かつ攻撃性を孕んだコミュニケーションであって、その度に傷つき自分を隠し生きている。

そんな風にして、ふつうという枠から疎外される日常が続けば、枠の中での生活に憧れを抱くことはあるだろう。
ヘテロセクシュアル男性向けのアダルトビデオを見てみたり、女性と付き合ってみたり…「ふつう」に憧れ、迎合しようと言動に注意を払い行動をする純の姿は、自然であると捉えることもできる。

では、これが正しい社会のあり方なのか。見えているものが全てで見えないものは想像しない、摩擦のない社会が健全なのか。

人には知られたくない秘密を抱えた高校生2人の「理解したい」「想像したい」という気持ちが半径1mの距離にいる人々を変えていく、決して忘れることのできない青春の1ページ。

観た人の“ふつう”という価値観を変え、変わるきっかけを与えてくれる本作をぜひ劇場でチェックしてみて。

◆ 彼女が好きなものは
2021年11月26日(金)よりTOHOシネマズ日比谷、新宿、梅田、セブンパーク天美にて先行上映決定、2021年12月3日(金)よりほか全国ロードショー
http://kanosuki.jp
Twitter@kanosuki2021

配給/バンダイナムコアーツ、アニモプロデュース
©️2021「彼女が好きなものは」製作委員会 PG12

記事制作/newTOKYO