性別・年代に関係ない。サル痘の正しい知識とセックスライフについて。

サル痘について話す医師の齋藤智也

欧米でMSM(男性間で性交渉を行う者)を中心に感染が拡大し、WHOが緊急事態宣言を発した「サル痘」。8月12日時点での感染者数は世界で3万人を超え、国内では4名が確認されている。

そんな脅威へと発展したサル痘だが、国立感染症研究所感染症危機管理研究センター長・齋藤智也先生によると、国内感染が猛威をふるっている状況ではなく、不安になる必要はないと説明。正しい知識を得ることと、安全なセックスライフを心がけることが今は大切だと教えてくれた。

ーーまずサル痘とはどんな感染症でしょうか? また今回の感染症状にはどのような特徴があるのでしょうか?

サル痘は、サル痘ウイルスに感染することによる急性発疹性疾患です。通常7~14日の潜伏期間(感染してから症状があらわれるまでの期間)の後、風邪に似た症状で、発熱、倦怠感、リンパ節の腫れや、特徴的な発疹が現れます。
多くは 2~4週間ほど症状が続いた後に発疹はかさぶたになって落ちて自然に回復します。

これまでの感染経路は「動物から人」でしたが、今回は「人から人」性的接触での流行が大きな特徴だと言えます。また性器や肛門、口の周辺への発疹が現れる傾向が強く(人によっては痛みを伴うことも報告されている)、MSMを中心とした感染者報告数が多いことから、アナルセックスやオーラルセックスによる経路が主体だと考えられています。

サル痘の症状

ーーもし感染してしまった場合の治療法や、重症化などについて教えてください。

サル痘感染の疑いがある場合は、最寄りの医療機関や保健所にまずご相談ください。
ただし多くの場合は自然治癒になり、長期的に体内に潜伏するものではないと考えられています。また重症化しにくい感染症です。まれに重症化した場合は、皮膚の潰瘍部分に細菌感染して重篤になるケースや、気管支肺炎、脳炎を起こすことがありますが、致死率は低く、命を脅かすような病気ではありません。

国内では、天然痘ワクチンがサル痘に効果があるとされていますが、医療従事者やサル痘感染者との接触者を対象とした臨床研究での接種のみで、予防を目的とした接種は一般的にされていません。
今後は流行状況などをみて必要がある場合に限り、適宜対応になっていくかと思います。

ーーMSMを中心とした感染が多いことから、「ゲイの病気」と偏見を持つ方も。今一番大切なこととは何なのでしょうか?

MSMの感染者数が9割(平均30代)を占めていますが、女性や子ども、性的接触に限らず感染しています。誰でも感染し得るので、ゲイに限った病気ではありません。また、サル痘は原因不明の不治の病でも何でもなく、原因も判明しており治療法もしっかり確立されています。正しい知識を知ることで、差別や偏見への払拭が大切なのではないでしょうか。

性的接触による感染の予防対策としては、リスクのある行為をなるべく避けることが大切です。サル痘に限らずセクシュアルヘルスの観点から言えば、体調が悪い、疑わしい症状がある場合はもちろん、不特定多数の人との性交を避けたり、コンドームの使用をするなど、セーファーセックスを心掛けていただけたらと思っています。

■国立感染症研究所(サル痘について)
詳しい症状や感染経路、国内の状況についてはこちら
>複数国で報告されているサル痘Q&A(第1版)

■国立感染症研究所感染症危機管理研究センター長 ・齋藤智也
医師、医学博士、公衆衛生学修士。慶應義塾大学医学部熱帯医学・寄生虫学教室助手・助教、同大グローバルセキュリティ研究所研究員を経て、2011年4月より厚生労働省厚生科学課健康危機管理対策室で公衆衛生危機管理を担当、結核感染症課で、新興感染症・バイオテロ・新型インフルエンザ対策に従事。2014年4月より国立保健医療科学院上席主任研究官、2020年1月より部長、2021年1月より現職。専門分野は公衆衛生危機管理、バイオセキュリティ。 

※2022年8月12日現在の情報に基づいたインタビュー内容となっております。状況によっては変更になっている場合もございます。最新の情報をご確認ください。

取材協力/国立感染症研究所、ぷれいす東京
写真提供/齋藤智也(1枚目)
記事掲載/newTOKYO