200年前以上に書かれた同性愛関係?スキャンダルすぎる歌舞伎狂言「桜姫東文章」がシネマ歌舞伎で上映!

昔、何かの本で映画評論家の淀川長治さんが歌舞伎の「桜姫東文章」について語っていたのを読み、そのあらすじにいっぺんに魅了された。

その後、ゲイバーで隣り合わせた初老のゲイの方と歌舞伎の話になり「桜姫東文章」をいつかは見たいと話したら、1985年に片岡孝夫(現・仁左衛門)さんと坂東玉三郎さんが演じたものを見たという話をしてくれ、いかにこの時の釣鐘権助と桜姫が良かったかを熱心に聞かせてくれ、その方はもうあのコンビの再演は無理なんじゃないかなとも言ってたので、さらに憧れの舞台となっていた。

ーーそんな無理だと言われていた二人の「桜姫東文章」がなんと昨年4月と6月に「上の巻」、「下の巻」として36年ぶりに上演されるというニュースが流れた時は狂喜乱舞。と、同時にこのコロナ禍でチケットはどうだろう、なんとかして行きたいけれどと思ったものの、時すでに遅しで千秋楽まで即完売となり、“あぁこれはもう二度と見ることはできないな”と、諦めていた。
が、今年に入り、“シネマ歌舞伎”として映画館で公開されることが発表され、再び狂喜乱舞した。

これまでにもシネマ歌舞伎は、様々な狂言舞台を映像に収め、映画館で公開し、貴重な映像資料としてもアーカイブしてきたけれど、今作はまさに世紀の収録かもしれない。

そんな「桜姫東文章」という狂言、1817年に四代目鶴屋南北によって書かれたもの。
長谷寺の僧侶・清弦は、稚児の白菊丸と同性愛関係。しかしそれは許されぬ恋、来世で夫婦となろうと誓って心中を図るものの白菊丸だけが死に、躊躇した清弦は生き残ってしまう。

17年後、高僧となった清弦の元に、吉田家の息女、桜姫たちがやってくる。彼女は、ある夜、屋敷に押し入った盗賊に父と弟を殺され、さらに自身はレイプをされ、妊娠。誰が父親かわからぬ子どもを出産してしまう。さらに彼女は生まれつき左手が開かないという奇病にかかっていた。憂いだ彼女は、いっそ尼になろうと寺に来たのだった。

清弦は不憫に思い十念(南無阿弥を10回唱えること)を授けると、あら不思議、左手が開き、その手のひらには香箱の蓋が。しかもそれには“清弦”と名前が……! 香箱は心中をする時に互いに名を記し持っていたものだった。驚く清弦は、桜姫こそ白菊丸の生まれ変わりと確信! 彼女を執拗に追いかけることに。

かたや桜姫は、実は襲ってきた男を忘れられず、腕に見えた釣鐘の刺青を手掛かりに自分の腕にも同じような刺青を彫っていた。しかも偶然、その男、権助と再会したことで尼になることをやめて、身を寄せる。さらに好きが高じて男の言いなりとなって女郎に身を落とす、しかもお姫さん言葉を使う女郎がいると話題となり大人気に。
一方、桜姫を追ってストーカー状態の清弦は、ついに彼女に殺されてしまう。死してなお彼女を思う清弦は幽霊となってまとわりつくが……。

同性愛者の心中から始まって、輪廻転生、レイプ、ストックホルム症候群的な関係、堕ちていく女性、祟りもの、敵討ちなどゲイの琴線に触れるようなキーワードが昔の表現で言うと、ジェットコースタードラマの如く繰り広げられ、ストーリー自体かなりドロドロなのに最後は良かった良かったの大団円で幕を閉じるという、理屈抜きと力技で収束させるのが歌舞伎の持つ大胆さと改めて実感させてくれるストーリー。

4月8日(金)から公開の「上の巻」は、前記した坊さんとお稚児さんのBLから始まり、満艦飾の桜姫が登場し、そこから釣鐘権助の登場、そして清弦と桜姫の堕ちたふたりのすれ違いを描き、あぁ良いとこで~!と身悶えする場面で終わり。

続く4月29日(金)から公開の「下の巻」は、まず「上の巻」のわかりやすい振り返り解説から始まり(片岡千次郎さんの舞台番による10分もの口跡の良い解説は必見!)、さらに堕ちていく桜姫らと清弦、ゲスな釣鐘権助を巡る濃厚たる人間模様の末の、「まずは本日はこれ切り」の大団円で終わる。

「上の巻」では釣鐘権助のことが忘れられない桜姫が、彼と再会した途端、“女”を出していく場面は生々しく、そしてエロティック。「下の巻」では、堕ちた桜姫が覚えたべらんめえの女郎言葉とお姫さん言葉で罵るおかしみと悲哀、そしてあることで一気に覚醒する場面には唸りまくり。

そして恋は盲目な清弦、色悪な釣鐘権助の全く違う二役を早替わりで見事に演じ分けて見せてくれる贅沢さは、玉三郎さんと仁左衛門さんの“これが見たかったんだ”と言う気持ちを十分に満たしてくれる(ナマの舞台もいいけれど、映像はアップでその表情や仕草がしっかり見ることができるのは本当に嬉しい)。

普段、歌舞伎は敷居が高いと思っている人も、今作は見惚れながら、酔いしれながら、舌なめずりしながら楽しめる作品。何より、片岡仁左衛門さんと坂東玉三郎さん現代歌舞伎界の至宝ふたりの名人芸をたっぷりと堪能できるはず。

■シネマ歌舞伎|桜姫東文章
[上の巻]2022年4月8日(金)より[下の巻]4月29日(金)より、東劇・新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマほか全国ロードショー
https://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/

出演/片岡仁左衛門、坂東玉三郎、中村鴈治郎、中村歌六、中村錦之助、上村吉弥、中村福之助、嵐橘三郎、片岡千之助ほか
製作・配給/松竹 ©️松竹

テキスト/仲谷暢之
記事制作/newTOKYO