母国・香港にてLGBTに対する権利平等と差別禁止を訴える法案が否決されてから間もなく、人気絶頂だった2012年に女性芸能人で初めて同性愛者であることを公表したデニス・ホー。
以前から社会問題へ関心があった彼女は、強まる中国政府・香港政府の市民に対する法の支配へ危機感を示し、香港中心地でのデモへ参加、やがて先導するようになっていく。
今まで築き上げてきた香港ポップス界のスターというキャリア、そして約束されていたも同然だった未来を投げ打ってでも、戦い続けた彼女の行く末はーー。
ーー中国による弾圧で“一国二制度”の均衡が脅かされつつある香港。100万人規模のデモ渦中にあった、デニス・ホーの姿。
本作は2001年のレコードデビュー以来、香港ポップス界を牽引、後に同性愛者であることを公表しつつワールドワイドに活動していた歌手デニス・ホーが、中国政府、香港政府の弾圧に屈せず自由と民主主義を守ろうと奮闘する姿を追ったドキュメンタリー。
2014年に香港の学生たちが中心となって行われた大規模デモ「雨傘運動」での逮捕により、中国のブラックリスト入りをしたほか、世界的コスメブランド『LANCOME』が政府の圧力を受けスポンサーとなっていた彼女のコンサートツアー中止を発表。以降、コンサートはおろかSNSでの発信も制限され、窮地に追いやられる。
歌手としてのキャリアを築いていくには絶望的な状況の中、一筋の光を掴むように10代を過ごした第二の故郷カナダ・モントリオールへ向かうのだったーー。
ーー“同性愛者”というワードにフォーカスし過ぎない内容だからこそ、見えてくるものがある。
本作で彼女のセクシュアリティに触れるシーンは少しだけ。例えば師匠である歌手、アニタ・ムイにドレスを着ないことをやんわりつっつかれたり、歌詞の世界観や容姿からLGBTではないかと疑いの目を向けられることの苦しみ、カミングアウトまでの経緯ぐらい。
LGBT当事者が主人公のドキュメンタリーというと、ほとんどがセクシュアリティにフォーカスした内容(それはそれで面白いのだけど)で、当の本人の全体像が見えてこない場合が多い。一方、本作はデニス・ホーがセクシュアリティに関すること以外で、どのような活動をしているのかに迫る内容のため、彼女の信念や長期密着取材だからこそ捉えることができた本心からの言葉が心に響く。
セクシュアリティというフィルターを一枚目に挟まず彼女の核に迫る映像は、非当事者が彼女に共通点を見出しやすく、ある意味LGBTというセクシュアリティがその人を構成する数十、数百の要素のうちの一つに過ぎないことをより強く感じてもらいやすい。すると、LGBTフレンドリーな社会・雰囲気づくりに一役かっている作品という見方もできるのではないだろうか。
ーー2019年に日本でも大きく取り上げられた、再びの逃亡犯条例改正に反対する香港のデモにも参加、国連やアメリカ議会で香港の機器的状況を訴え、若者のために自由と民主主義を守ろうとしたデニス・ホー。自分自身がどうあるべきなのか、自らの力で道を切り開いていく勇敢な姿は、観る人の背中を押してくれるはず。
■ 映画:デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング
2021年6月より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
http://deniseho-movie2021.com
Twitter@deniseho_movie
配給・宣伝/太秦 ©Aquarian Works, LLC
記事制作/newTOKYO