5人だから見られる景色、5人と一緒に見る景色ーー
嵐を知り尽くしたスタッフが集結!
映画を撮影するために1日限りで開催された125台のカメラによる「シューティング・ライブ」
たった2年前なのに、目の前に広がる光景は遠い日の花火のような錯覚に陥る。
そして、そうそう!こういうのが実は見たかったんだという思いに駆られた。
以前からジャニーズのライブは凄いと聞いていたし、実際にライブを見に行った女友だちからは、機会があれば一度は見るべきだと言われた。だけどハナから諦めていた。だって、兎にも角にもチケットが手に入らないもの。
発売される前からプラチナチケットであることは百も承知。ならと、先の女友だちにお願いしてみると「私も友だちに頼んでやっとチケットを取ってもらった」と言われやんわり断られた。とはいうものの、勢いファンクラブに入ってまでの情熱は持ち合わせていない。
たとえ、万が一ライブに行けたとしても、きっと場内のほとんどが女性で埋め尽くされている中に、おっさん、おまけにゲイが混じって見ることを想像するだけで、いつの間にか図々しさが身についていたとしても、さすがに怖気付いてしまうだろう。多様性と言われる時代だけど、ここはサンクチュアリだから入ってこないでねという空気がジャニーズ系ライブには漂っているはずだと、行けない理由に考えてカウントし、ジャニーズ事務所所属のタレントたちのライブを見ることなんて夢のまた夢だと納得して日々を過ごしてきた。
そんなジャニーズのライブをついに!見ることができた。それも嵐!とはいえ、2020年に彼らは活動を休止しているので、生のライブでは当然ない。
2018年11月から2019年12月まで1年以上に渡り公演され、2019年12月23日に撮影だけのために行われた、結成20周年ライブツアーの1日を収録した『ARASHI Anniversary Tour 5×20 FILM “Record of Memories”』だ。
ここ最近は「滝沢歌舞伎ZERO2020 The Movie」や「少年たち」などの舞台を、映画的なアプローチで劇場公開してきているけれど、今作は嵐のライブというものを余すところなく押さえまくり、まさに純然たる“アイドルのライブ”を見せてくれる。
しかもバックステージでの素顔や、観客が会場に入っていく様子と言ったライブフィルムあるあるシーンをほぼ排除し、オープニングからフィナーレまで、“ステージ”での姿が繰り広げられる、これはある意味斬新。
この収録のために用意された1日を、125台のカメラ、そして日本中の名カメラマンを招聘して撮影。固定、手持ち、360℃カメラ、ドローンなどありとあらゆる機材を駆使していて、その膨大な映像量を編集するだけでも気が遠くなりそうだが、結果その量こそが傑作たらしめたとも言える。
オープニングの「感謝カンゲキ雨嵐」からの始まるせり上がりからして全然違う。緊張とはまるで無縁なリラックスした表情と余裕のある佇まい。そこから感じられたのは、少年の頃から見られていることが日常な人たちは映されることへの地肩が違うなと。
MCなんていらないとばかり、煽りと盛り上げコールで進めつつ、次々と自分たちの曲を歌っていく。これってやっぱり凄い。
20年という歴史が膨大な曲を確実に生んできた。しかも門外漢の自分でも聴いたことのある曲ばかり。それだけヒットした曲が嵐には多かったのだなと改めて、このグループのモンスターアイドルぶりを実感する。なんせ計50公演して行われたこのツアーの観客は累計237万5000人を動員しているのだ!
すでに11月3日(水)より、ドルビーシネマで限定公開されているのだけど、11月26日(金)からは通常の映画館でもついに全国公開される。とにかく見どころは初めから終わりまでとしか言いようがない。
曲のバラエティさは言わずもがなだけど、ステージの素晴らしさは日本のどんなアーティストよりも最先端かもしれない(2019年時点でだが)。
照明の進化。映像の尖感。ムービングステージを使った舞台機構の秀逸。音響の深淵、ブレない衣装の華美(篠原ともえも参加!)……。アイドルのライブだから、アイドルが歌い踊る姿だけ見せればいいなんて時代があったことを完全払拭してくれるほどのステージングを見せてくれる。さらに凄いのは嵐がそう言ったステージング効果の上をいくパフォーマンスを見せてくれること。
正直、アイドルといっても実年齢はアラフォーな面々、体力的にも大変だろうと思うのだけど、そんな姿を微塵も感じさせず、オープニングからひたすら歌い踊り、なんなら個人フィーチャリングなコーナーもしっかりある。松本潤がライブの総合演出を担当しているだけに嵐の何を見せればいいかということがしっかり行き届いているのが素晴らしい。
櫻井翔の「アオゾラペダル」でのピアノソロ(ここの編集は絶品)、松本潤のオーケストラを従えてのコンダクターパート。大野智のコンテンポラリーダンスなど、普段でもテレビや映画、ドラマ撮影などで忙しいのにこれだけの見せ場の練習をしっかりやってる姿を思うだけで、20年以上、一線で戦ってきた彼らの“本物”を実感する。
終盤、嵐のこれまでの軌跡を堪能できる楽曲集「5×20」は、編集の素晴らしさもあってただただ圧巻。ここだけでも一つの映画のようにも思えるほど凝縮されている。これこそ映画館のスクリーンでしか味わえない、映画館だからこそ味わえる醍醐味と没入感。
ーージャニーズ系が好きなゲイはもちろんだけど、これまでジャニーズ系に見向きもしなかったゲイもぜひこのライブフィルムを見ていろんな意味で刺激を受けてほしい。
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◆ ARASHI Anniversary Tour 5×20 FILM
“Record of Memories”
2021年11月26日(金)全国公開、ドルビーシネマ限定先行公開中
https://recordofmemories.jp/
配給/松竹 ©️2021 J Storm Inc.
文・レビュー/仲谷暢之(アラスカ社)
記事制作/newTOKYO