バカンスを過ごすため海辺の別荘を訪れたのは、快楽的に人生を享受する裕福なカステルヴェッキオ家と、代々漁師の労働者階級のぺターニャ家。
価値観や家族観もまるで対照的な2つの家族を待ち受けていたのは、両家の父親トニとカルロの再婚の知らせだった!
ーーイタリアの映画館376館で43週間ロングランの大ヒットを飛ばした本作の監督・共同原案を手掛けた、シモーネ・ゴーダノがこの映画に込めた想いを語ってくれた。
ーー親、子ども、孫の3世代の視点から同性愛を描くことで、後の世代から学ぶことがあることを伝えたかった。
ーー『泣いたり笑ったり』を拝見させていただきました。トニとカルロだけでなく家族一人ひとりの機微を描いているのが、とても印象的でした。
ありがとう。物語はトニとカルロの結婚を巡り進んでいくんだけど、脚本制作の段階から「他人の立場を受け入れること」をテーマとしているから、家族一人ひとりの感情を丁寧に描く必要があったんだ。
カルロの息子・サンドロは小さな街の漁師として共同体の中で育ってきた環境も影響して、二人の関係を本能的に拒絶してしまう。一方トニの娘・ペネロテもオープンマインドな人々が多い知的階級にいながら、理想の父親像とかけ離れた現実を受け入れることができない。二人の愛情物語に留めるのではなく、いろいろな立場にある周囲の人たちの受け止め方を描くことで「同性愛」を普遍的に表現したかった。
同性愛を受容している人であっても、そうするために乗り越える障壁というのも少なからずあったと思うんですよ。もし、自分の父親がカルロとトニのようにトイレで知らない男とキスしていたら…自分が知らなかった父親の一面を受け入れるために時間は必要ですよね。誰もがその立場に立つ可能性があることを観る人に、一度考えてもらいたかったんだ。
そして孫世代から見た「同性愛」がいかに純粋なものであるか、実際に孫世代へリサーチをして作り上げたシーンを通して、世界には子どもから学ぶことがたくさんあるということも伝わったら嬉しいよ。
ーー監督の周囲には、同性婚やシビル・パートナーシップ制度を結んでいる人たちはいるのでしょうか?
もちろん! 2015年ごろだったと思うんだけど、僕の親友同士がバルセロナで結婚式を挙げたんだ。様々な問題を乗り越えて迎えた日だったと思うから、その光景はとてもエモーショナルで魔法にかけられたような瞬間だったね。イタリアでは、ここ数年で法的効力のあるパートナーシップ制度が認可されたのだけど、それ以来、法の下で結ばれた人たちがたくさんいるよ。正直、政府としてはこの制度を推進したいようではなかったんだけど、社会情勢を鑑みて半ば折れる形で認可した感じだったかな。
私の5歳の息子が通っている幼稚園には二人の母親に育てられている女の子がいるけど、息子にとってそれは当たり前で「母親が二人いて、父親がいないのはなぜ?」という疑問すら持っていない。僕自身、彼から学ぶことがたくさんあるんだ。
ーー最後に「泣いたり笑ったり」のロードショーを待ちどおしにしている方々にメッセージをお願いします。
本作が同性カップルの権利が整備されていない日本で上映されることで、何らかの意味を持って啓発活動に貢献できるのだとしたら嬉しいです。一方で、LGBTQ+コミュニティとの距離感で観る人の反応を2つに分ける予感もしています。
私はイタリアの映画館で100回以上観ていますが、主人公がキスするところで目を覆ったりする人もいます。オープンマインドが多いといわれているイタリアでこのようなことが目の前で起きるのです。newTOKYOの読者にはもちろん気に入ってもらえると思うのですが、目を覆うような反応をしてしまう人にとっては、LGBTQ+を知るためのヒントとなる作品になれば嬉しいです。
■泣いたり笑ったり
2022年12月2日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMA、シネマート新宿、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
https://mimosafilms.com/naitari/
ストーリー/バカンスを過ごすため南イタリアの港町ガエータの別荘を訪れたのは、快楽的に人生を享受する裕福なカステルヴェッキオ家と、代々漁師の労働者階級のぺターニャ家。価値観や家族観もまるで対照的な2つの家族を待ち受けていたのは、両家の父親トニとカルロの再婚の知らせだった。父親にひとかたならぬ思いを抱く、双方の家族は大混乱!元恋人や娘、息子たち、果ては両家の孫まで巻き込んで、バカンスは予測不能な大騒動に。果たして両家の諍い、トニとカルロの恋の行方は――。
監督:シモーネ・ゴーダノ/出演:アレッサンドロ・ガスマン、ジャスミン・トリンカ、ファブリツィオ・ベンティヴォッリオ、フィリッポ・シッキターノ/2019年/イタリア/イタリア語・フランス語/100分/2.35 : 1/5.1ch/原題:Croce e delizia/英題:An Almost Ordinary Summer/字幕:山田香苗/特別協力:イタリア文化会館/後援:イタリア大使館/提供:日本イタリア映画社/配給:ミモザフィルムズ
© 2019 Warner Bros. Entertainment Italia S.r.l. – Picomedia S.r.l. – Groenlandia S.r.l.
取材・インタビュー/芳賀たかし
通訳/椎名敦子
写真/ミモザフィルムズ
記事制作/newTOKYO