『母ふたりで“かぞく”はじめました。』で振り返るLGBTsステップファミリーの20年間。「頑張りすぎない子育て」とLGBTs当事者にとって不利な社会保障制度の現状。

同性カップルの小野春さんと西川麻実のインタビュー

二人の息子の母・小野春さんと、一人娘の母・西川麻実さんの同居からスタートした「母ふたり」のステップファミリーは、今年で20年という節目を迎えた。無論、同居というのは始まりに過ぎず2人の間にはお互いへの愛が確かに存在する。3人の子どもは海外留学に大学受験など大人へのステップを着実に歩み始め、子育ても終盤戦といったところだ。

全国から子育てに関するお悩みを受け付けている団体「にじいろかぞく」の代表でもある小野さんらの体験談から、子育てに苦悩しながらもLGBTsステップファミリーとして普通の幸せを手に入れるために生きてきたこれまでの人生を『母ふたりで“かぞく”はじめました。』を通して振り返る。

* * * * *

同性カップルを描く母ふたり家族始はじめました

――「娘が可愛く思えない」「息子がクラスメイトから好奇の目で見られる」…LGBTsステップファミリーとして直面する問題解決のカギは「当たり前」という思い込みを捨て去ること。

これまでの20年を振り返ってみて自分がこのような本を出版すること、そして同性同士の結婚を認めるよう国に求める訴訟をすることになるなんて思ってもいませんでした。一度は男性と結婚をして2人の子供を授かりましたが夫の浮気で離婚、それから自身がバイセクシュアルであること、同じく夫と離婚し一人娘をシングルで育てていたパートナーである西川との出会い、母2人、子3人のLGBTsステップファミリーとして生きていく選択、子育て…もう色々なことがあり過ぎてどこからふり返っていいのやら(笑)。『母ふたりで“かぞく”はじめました。』(小野春・著)はウェブサイト『ベビモフ』で連載をしていた「80パーセントふつうのいえ」の各エピソードに加筆、紡ぎ合わせたもの。20年間という長い時間を振り返るにあたって、家族と話したりして記憶を呼び起こすなんてこともしましたね。

LGBTsステップファミリーとして歩み始めてすぐに直面した大きな問題からお話しすると、パートナー・西川の連れ子であった娘が可愛く思えないということ。「連れ子が可愛く思えない」というのは異性同士の同棲・結婚でもあることだと思うのですが「ご飯の時はTVを消す」「遊んだおもちゃは片付ける」など今まで当たり前だと思っていた家族のルールみたいなのがまるで通じないことに驚いてしまって。生まれ育った環境が違えば、娘にとっての当たり前も違うのに当時の私はそんなことにも全く気づくことができず、2人の息子と同じルールで生活するよう押しつけていたんです。一つ屋根の下で5人暮らしするにあたって正直、子育ては少なからずできると思っていたんです。これまで2人の息子を育ててきて母親の一日ルーティンみたいなのも身に染み付いてきた頃でしたし「2人が、3人になるだけ」と楽観視していたのですが、フタを開けると全く思い通りにいかない。母親というアイデンティティが形成されつつあった時期だけに、一気に自信を無くしてしまいました。

同性カップルの小野春さん

そんな娘との関係性に悩まされていたある日、インターネットで見つけた継母コミュニティへ足を運んだのですが、その時「連れ子が可愛く思えないのは当たり前。仲良くなる、ましてや母親と思われようという気持ちは返って負担になる」と言われてハッとしました。それまでは自分の子どもたちが周囲から「片親の子だからしょうがない」と言われたくないという気持ちと離婚して間もない心の余裕を持てなかったことから知らず知らずに突っ張っていたんです。以降、娘からは「おばちゃん」という立場で見られる距離感で接するように。おもちゃは片付けなかったら私が片付けて、テレビを付けながらご飯を食べていても何も言わなくなりました。そんな関係をしばらく続けていると、とっても楽な気持ちで毎日を過ごせていることに気づいたんです。多分、娘も同じように思っていたと思いますよ。

娘との関係性も落ち着きステップファミリーとして安定期に入った矢先に、次男から「娘と同じ中学に行きたくない」という相談を受けたこともありましたね。次男から私たちの家族を「おかしい」と指摘して、内情を知ろうとするクラスメイトがいることは聞いていました。定型ではない家族であることが故に彼を苦しめるくらいなら違う中学校へ通わせよう、そう判断するのは早かったと思いますね。そのクラスメイトに対して「私たちの様な家族の形もある」ということをお話しする場を設けたのですが、中々納得してもらえなくて。結局、その後も何回も同じことを次男に聞いていたそうで、その子と同じ中学に通わせて3年間過ごさせるのはキツいなと。

いわゆる定型な家族であれば子どもが現状置かれている環境に少し不満があったぐらいでは通学区域内の学校に通わせると思うのですが、親の生き方の選択で負担を与えていると考えたら娘と同じ通学区域内の中学に行きなさいとは言えませんでした。学校なんていくらでもあるし、そこじゃないといけない理由もこれと言ってないですし。まぁ娘はあっけらかんとしているので、次男と同じ中学になって同じ家に帰っているということをクラスメイトに知られてもなんとも思わなかったと思いますが。本当に子ども一人ひとり考え方が違うんですよ。

同性カップルの小野春さんの顔

実際に周りから偏った見方をされるということはありましたが、一方で私たちの家族では人種やセクシュアル、ソーシャル、ナショナリティなどを学校で起きた些細な出来事やTVから流れてきたニュースから考えるということは食卓で日常化していたので、子ども3人とも家族や個人にそれぞれにルーツがあること、それらについて偏った見方ではなく多角的な視点で考える、ましてやヘイトを含むな発言をしてはいけないと言ったことは自然と身についていったかな。両親がセクシュアルマイノリティであるという環境ももちろん関係しているとは思いますが、西川が子どもがぼそっといった話をタネにそう言った話をするのが好きということも影響していると思いますね。

劇的な出来事で家族の関係性が良好になっていったということは一切なくて日々起きる問題の解決を積み重ねた結果、血の繋がりやらセクシュアルマイノリティやら関係なく「普通の家族」としていられる様になったのかなと感じています。その証拠に最近まで高校生だった娘が高校の文化祭でごくごく自然に私のことを「お母さん」として友人に紹介したこと、そして私自身も今まで「パートナーの連れ子」などと言っていたのが「娘がね…」と口からぼろっと出るようになりましたし(笑)。家庭内、外出先関係なく「家族」として自然な振る舞いができる様になるなんて20年前の自分は想像もしていませんでした。

* * * * *

――一人ひとりが平等に社会法相制度を利用できる社会を。普通の家族、普通の幸せを手に入れるために日本での同性婚を求める裁判の原告に

そうは言うものの、私たちが自分たちを「家族」として認識していても国には家族として認められているわけではありません。アメリカでは婚姻関係にあるか否かで受けられる社会保障制度の数がおよそ1000個もの差があると言われています。愛し合っていること、そして1つの家で生活していることはなんら変わりないのに、婚姻関係を結ぶか否かでこんなにも社会的に差があることに愕然としました。もちろん日本も例外ではありません。法律と法律が幾重にも、そして密接に紐づいているため一つの社会保障制度を利用しようとしても条件を満たせず受けることができないというケースが本当に多い。

そもそも同性婚が認められていないので婚姻関係にある夫婦やその家族が受けられる社会保障制度を、結婚しようがないLGBTsカップルやLGBTsファミリーは受けることができません。私もこの事実を知るまでは結婚という形に強いこだわりはありませんでしたが、そんな現状を目の当たりにして損しているという気持ちが日々強まるばかり。気づけばいても経ってもいられず、国民皆が平等に社会保障制度を受けられる社会を目指して「結婚の自由をすべての人に」訴訟(同性婚訴訟)を起こしていました。

今のまま同性婚が認められない社会が続けば子どもやパートナーへに対する遺産相続や共同親権を得られないことはもちろん、LGBTsカップルが婚姻関係にある夫婦同様の条件で養子を迎え入れられることも難しい。健康保険証だって共有することもできない。また都などが運営する都営住宅に入る際に必須項目となる「家族」という条件をクリアできないため、例えファミリー向け住宅であっても入居することができません。

同性カップルの西川麻実のインタビュー

――小野さんのパートナーである西川麻実さん

西川さん:お金の面でも損することがたくさん。例えば夫婦共働きでどちらか一方が病気などで長期的に働けなくなってしまった場合、婚姻関係にある夫婦においては病気ではない夫ないし妻の扶養に入るという選択ができるし、専業主婦(主夫)であった場合は第3号被保険者として国民年金に加入しており、厚生年金、共済組合に加入している第2号被保険者に扶養されている立場として保険料を納付する必要がなく、将来年金を受給することができます。

小野さん:この様に不平等な制度に疑問を呈し始まった裁判は訴訟からおよそ1年が経過しました。全国5都市で行われている「結婚の自由をすべての人に」訴訟ですが、私たちが原告として争っている東京での裁判は大きな進捗がないのが現状で、裁判所側は「想定外」という返答を繰り返すばかり。子どもたちや私の父母、周囲の人たちの応援を糧にして今はなんとか、それ以外の返答をもらうために情報をかき集めている段階です。

西川さん:その間にも全国では悩み苦しんでいるLGBTs当事者が存在することは確か。その方たちには一人で悩みを抱えずに自分と同じ様な境遇で生きている人と繋がることから始めてみることをおすすめしたいな。今の時代はSNSが発達していることもあって、案外すぐに出会えることも多いです。一人だと孤独感に飲み込まれそうになる時がありますが、友達が一人、また一人と増えていくにつれてネガティブな気持ちも薄まっていくはず。コツコツと友達を増やして分厚いネットワークを作れるようになると良いかもしれませんね。

小野さん:法が整備されていないが故に「自分が間違っているのではないか」という閉塞感を日々感じながら生きているLGBTs当事者がたくさんいます。私もそうでした。でもその考え方は間違っていて、皆平等に幸せに生きる権利を与えられている。自分が間違っていると思い生きてしまっている人がいるのなら、そのような考えを生み出してしまった現在の国の制度が間違っているんです。決して自分を責めることのない様に生きてほしい。セクシュアルマイノリティ当事者の一人の考え方、そしてLGBTsファミリーの一つのあり方として『母ふたりで“かぞく”はじめました。』が、LGBTs当事者として悩みを抱えている人たちに元気を与えられる存在になることを願っています。

* * * * *

プロフィール
小野春(右)/子育てするLGBTとその周辺をゆるやかにつなぐ団体「にじいろかぞく」代表。2019年2月14日に全国4都市で一斉提訴された「結婚の自由をすべての人に」訴訟(同性婚訴訟)原告メンバーのひとり。
Twitter@ono_hal
Twitter@nijiiro_kazoku

西川麻実(左)/小野春さんの同性パートナーで、同じく「結婚の自由をすべての人に」訴訟(同性婚訴訟)の原告メンバーのひとり。

エッセイ:母ふたりで“かぞく”はじめました。
小野春(著)
単行本(ソフトカバー) 224ページ 
出版社: 講談社(2020年3月27日発売)

取材協力/講談社
記事作成/芳賀たかし(newTOKYO)
撮影/新井雄大 Twitter@you591105

※この記事は、「自分らしく生きるプロジェクト」の一環によって制作されました。「自分らしく生きるプロジェクト」は、テレビでの番組放送やYouTubeでのライブ配信、インタビュー記事などを通じてLGBTへの理解を深め、すべての人が当たり前に自然体で生きていけるような社会創生に向けた活動を行っております。
https://jibun-rashiku.jp

新宿二丁目からひとつのお店が消えるとき~元「キャンバス」ママ・ミツさんが語る家族との新しい関係と未来。

2019年の11月23日。 新宿二丁目仲通り交差点そば、第七天香ビル3Fのバー「キャンバス」が最後の営業を終えた。そこの「ママ」、ミツさんがお店を閉めることを決めたのは家族との関係性と、新しい「夢」にあったからだ。 結婚や孫、自分が家庭を持った姿を見せることだけが親孝行の形ではない。彼が新宿二丁目で歩んできた道のりと、この先描く未来とは何なのだろうか。 * * * * * ――ゲイである自分と初め… もっと読む »

続きを読む >