昨年の夏、新宿区百人町に日本初のダイバーシティをコンセプトとした『CEN DIVERSITY HOTEL & CAFÉ』(以下HOTEL CEN)がグランドオープンした。国籍や年齢、宗教、人種、性別に捉われず一人ひとりの生き方を尊重するホスピタリティは、「ありのままの自分」でいることを心から許せる空間となっている。それはホテルを訪れるゲストだけではなく、スタッフにも共通していることだ。
「百人町」という町名からホテルコンセプトのインスピレーションを受けたと話すレジデンストーキョー・野坂社長がLGBTsをはじめ多様なバックグラウンドを持つゲストやスタッフへの想い、そして『HOTEL CEN』がダイバーシティな社会が推進される日本においてどの様な存在であるべきか、未来の目指すカタチを教えてくれた。
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――百人百様のライフスタイルに寄り添うホテルがオープンするまで。日本における「レインボー」のTPO配慮!
私が代表を務めている株式会社レジデンストーキョーは、訪日外国人の方たちをターゲットにしたマンスリー物件の運営をしているだけに、多様な国籍の従業員が在籍しています。そういった面で言うとダイバーシティ経営を推進している企業ではありましたが、セクシュアリティにおいては外見だけで判断することは難しいため、LGBTsのお客様が「ありのままの自分」でひと時を過ごせる、またはスタッフが「自分らしく」働ける環境を整備するまでには至っていませんでした。
そういった中、2019年夏にグランドオープンしたのが『HOTEL CEN』。「百人町」という町の名前にちなみ、国籍やセクシュアリティ、人種、宗教などあらゆる壁を無くし、百人百様のライフスタイルを過ごせる空間とサービスの提供ができる様にという願いを込めて、ラテン語で「100」を表す「CEN」と命名しました。名前も含めてホテルコンセプトメイクをLGBTs当事者のデザイナーに依頼した理由としては、私たち企業側とLGBTs当事者の間で生じるであろう「ダイバーシティ」という言葉に対する捉え方やセクシュアルマイノリティへの配慮の仕方などの“ズレ”を限りなく抑えた上で、ホテルとお客様を繋ぐ役割を担っていただきたかったからなんです。
本や研修などを通してLGBTsへの理解を深めることはとても大切なことですが、当事者の方々の気持ちを100パーセント理解することは難しいですよね。現代においては多様なセクシュアリティの方が生きているわけですが、一人ひとりの考えや思うことも様々。ですので、当事者だからこそ感じ取れることや気づきを少しでも多く反映させるためにLGBTs当事者のデザイナーの方が適任だと考えました。
それだけではなく、デザイナーさんをご紹介してもらったLGBTツーリズムにも精通した『OUT JAPAN』の小泉さんや『JobRainbow』の星さんたちのご意見を参考にさせていただきながら、当事者の方に寄り添い、お迎えできる環境を整えることができました。設備面で言えば、LGBTsを象徴するようなレインボーカラーやフラッグをあえて配置しないことで全てのお客様が周囲の目を気にすることなくチェックイン/アウトを済ませられるよう心がけました。
また共用部や客室はブラックやホワイト、グレーといったカラーリングで統一、素材もコンクリートやウッドを基調として男性性・女性性が強調されないモダンかつスタイリッシュなデザインを採用。フロント側のトイレに関してもオールジェンダーなのでお客様はもちろん、スタッフも自身のジェンダーを気にすることなく快適にお使いいただける配慮をさせていただいております。
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――人と人を繋ぎコミュニティを生み出す場としてマイノリティに貢献を。野坂社長が大切にする双方向性コミュニケーションの先に目指す未来とは?
ただ、ホテルの設備がマイノリティに寄り添い多様なライフスタイルを受け入れられるよう整備されていたとしても、『HOTEL CEN』の顔となるスタッフがLGBTsやダイバーシティに関する知識と理解を深めた上で受け入れる体制が存在しなければ、ダイバーシティホテルとは言えませんよね。
そこでスタッフには入社後、間もなくしてLGBTs研修を必須で受けていただいています。内容としては、LGBTsの文化や人口に対する当事者の割合といった基礎知識、そしてLGBTsツーリズムについての二部編成となっております。私も受講したのですがLGBTsツーリズムの研修で言えば、チェックイン/アウト時も含め「Mrs.」「Mr.」といった敬称を使用することや、同性同士の方たちがダブルベッドのお部屋に宿泊する際に「ツインではなくダブルですが、よろしいですか?」といった確認のお声がけが、かえってLGBTs当事者を苦しめることもあるというお話がとても印象的に残っていました。そのため『HOTEL CEN』では、ホテル業界では当たり前に行われている一つひとつのサービスやお声がけなどを見直した上で、訪れる全てのゲストのセクシュアリティを始めとするパーソナルな部分を決めつけるような言動や選択肢を与えない様な接客を徹底しています。
それは運営側からダイバーシティな空間を作り出してきたスタッフに対しても同じことが言えると思っていて。彼ら彼女らが「自分らしく」働く姿なくしては、『HOTEL CEN』は成立しません。スタッフの中にはセクシュアリティやナショナリティなどにおいて、様々なバックグラウンドを持つ人たちが、自らの意思を持って働いています。従来のホテルであれば制服をはじめ、髪型やネイルなどが制限され画一的な身だしなみが求められると思うのですが、ここでは個性を規則で抑えることは、ホテルコンセプトそのものを否定することになりますし、溢れる個性を抑えるなんてもったいないですよね。そのため制服に関しては、私服に指定のエプロン2種のいずれかを取り入れるだけでOK、「清潔感」さえあれば白Tシャツにジーンズ、スニーカーでも何の問題もありません。ピアスをしているスタッフもいれば、ラメネイルをしているスタッフもいますし、ヘアスタイルも季節や気分に合わせて変えられる。内面を装いで表現することは「自分らしく」働く上でとても大切なことだと思っています。
訪れるゲストの中には、生き生きと働くスタッフの姿を見て、本来の自分のままでいることを許されている空間だと感じる方も多いようです。訪日外国人の方たちが使用される旅行情報サイトのレビューには、セクシュアリティやナショナリティ問わずスタッフへのポジティブなメッセージが寄せられていて、コンセプトとして掲げている「ダイバーシティ」な社会へ貢献できているのではないかと感じています。
企業が「LGBTsフレンドリー」ひいては「ダイバーシティ」を掲げるのは簡単ではありますが、重要なのは企業とLGBTsを始めとするマイノリティの方たちとの間に、双方向なコミュニケーションがあった上でのコンセプトや商品・サービスであるか否か。あくまで私個人の見解となりますが、一方向性で企業からマイノリティへ向けて生まれたものが、社会を変えることは難しいのではないかと思っています。
我々はマイノリティ当事者の方を雇用や外部パートナーというような内部の人間として社会的・経済的に受け入れ、常に双方向コミュニケーションを大切にしてプロジェクトを進めてきました。彼ら彼女らの存在が組織に与える影響というのはとても大きいもので、いつの間にか多様性を受け入れる雰囲気が社内全体に広がっていたことにも驚きましたね。
『HOTEL CEN』がこれから目指すカタチとしては、マイノリティのコミュニティにとってなくてはならない、当たり前の存在として認知していただけるよう、雇用やプロジェクトを通して人に寄り添い、人と人を繋ぐ場所、新たなコミュニティを生む場所でありたいと思っています。そういった取り組みがマイノリティに対する理解や受け入れに繋がると信じて――。
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■ CEN DIVERSITY HOTEL & CAFÉ
〒169-0073 東京都新宿区百人町1丁目5-19
▷アクセス/新大久保駅・大久保駅・西武新宿駅から徒歩5分、新宿駅から徒歩12分
▷カフェ時間/LUNCH 11:00~17:00 L.O.16:30 ※16:30-17:00はドリンクのみの提供/DINNER 17:00~22:00 L.O.21:30
■ CEN DIVERSITY HOTEL & CAFÉ
取材・インタビュー/芳賀たかし
写真/新井雄大
記事制作/newTOKYO
※この記事は、「自分らしく生きるプロジェクト」の一環によって制作されました。「自分らしく生きるプロジェクト」は、テレビでの番組放送やYouTubeでのライブ配信、インタビュー記事などを通じてLGBTへの理解を深め、すべての人が当たり前に自然体で生きていけるような社会創生に向けた活動を行っております。
https://jibun-rashiku.jp