【2/5最新刊発売】FTMの高校生・凌と仲間たちが巻き起こす“ファッションの暴動”「ボーイズ・ラン・ザ・ライオット」作者、学慶人さんインタビュー

トランスジェンダー男性が主人公のマンガのボーイズランザライオット

自身の性(身体は女性、心は男性)に悩む高校生の凌が、自由奔放で自分の気持ちに正直に生きる一つ年上で留年生のクラスメイト・迅と立ち上げたアパレルブランドと共に成長していく姿を描いた漫画『ボーイズ・ラン・ザ・ライオット』。LGBTQ当事者が日常生活で受ける心象の描き方や、キャラクターの心揺さぶるセリフが魅力的な作品だ。何よりこの作品が、多くのシスジェンダーが手に取るであろう青年誌『ヤングマガジン』で連載されたことは、とても大きな意義があると言える。

作者である学慶人さんは凌と同じく身体は女性、心は男性のトランスジェンダーであることを公表しており、最新刊である単行本4巻は本日、2月5日に発売されたばかり。今回は、学さんに同じセクシュアリティである主人公が登場する本作が生まれたきっかけや、込めた想いをたっぷりと伺った。

――トランスジェンダーの正しい認識拡大に貢献している青年誌発の漫画、『ボーイズ・ラン・ザ・ライオット』。

――青年誌『ヤングマガジン』での連載がスタートするきっかけを教えてください。

ヤングマガジン主催の新人賞「第77回ヤング部門 ちばてつや賞 」へ応募した作品『明るい』で優秀新人賞を受賞したのですが、その際に題材としていた“心と身体の性”を引き続きテーマとした作品で連載を目指そうという話になって。受賞を機に勤めていた会社を退職し、その一年後に連載が決定、準備期間を経て2020年1月よりヤングマガジンで『ボーイズ・ラン・ザ・ライオット』の連載がスタートしました。

連載が始まるか否かは1~3話のネームを提出した後、編集長の最終判断で決まるのですが、担当編集者だった白木さんという方が何度も粘り強くかけあってくれた姿を今でも鮮明に覚えています。 

「これでダメだったら、他雑誌の信頼できる編集者に紹介する」と、二人で時間をかけて作り上げた作品なのにその成果をまるまる他の部署に譲ろうなんて、作品自体への情熱がないと口にはできないですよね。白木さんや取材にご協力いただいたアパレルブランド、友人や家族…色々な関わりがあったからこそ、連載という一つの目標に辿り着くことができたと感じています。

連載中は自分が漫画というコンテンツ、そしてこの作品に込めたいものを、常に凌にとっての洋服に置き換えて表現し続けました。「この作品で伝えるべきことは何なのか」。それを第一に描いていたので、作中のセリフやアパレルブランドのテーマ、凌の思い切った行動などに関していえば、自分の想いを土台として落とし込めたので良かったのかなと。

――登場人物のジェンダーやセクシュアリティに対する、それぞれの考え方が丁寧に描かれているのも印象的です。実際にLGBTQ当事者への取材を行なったのでしょうか?

それまではSNSで知り合ったり、コミュニティに参加したりというようなことには距離を置いた生活をしていましたが、この作品を描くに当たり初めて新宿二丁目やLGBTQ当事者が集まるような場所へ足を運び、積極的に知り合う機会を作りました。取材、というよりも遊びに行っていただけなのですが(笑)。ただ、一人ひとりの人生や価値観に触れられた経験は作品の肥やしとなりましたし、自身と異なるセクシュアリティの方の考え方はそういった場で学んだかもしれません。

取材で吸収したことはもちろん大切なのですが、それよりも自分の考え方・感じ方の軸だけはブレないように意識していました。同じトランスジェンダーというセクシュアリティに当てはまる人だったとしても、一つの事柄に対して否定的、あるいは肯定的だったりと受け止め方も様々。

最低限の配慮をするための知識は必要だと思いますが、取材で得たものに振り回されて「トランスジェンダーはこう!」と画一的な描き方になるのは避けたかったので、あくまで一人の人間を描けるように自分自身で受け取ってきた事実や気持ちを重視することは大切にしていましたね。

――当事者の痛みを描かなければ、自分が描く意味が無い。身を削り想いを形にした学慶人さんの信条は「冷静になりすぎないこと」

――作中、現実に起き得るであろうセクシュアルマイノリティへの中傷シーンも描かれています。学さん自身、心痛まないものではなかったと思いますが…?

日本においても、明るくポップな世界観でLGBTQ当事者を描いた映画やドラマがヒットする時代となりました。それはとても素晴らしく理想的なことだと思うのですが、この作品においては悩みや葛藤の種として、自分自身も経験してきた性の問題を描くのがベースになっています。そのため、明るく読みやすく済ませてしまったら、自分が描く必要がなくなると思ったんです。

描くのもしんどいし、読み手も同じ気持ちだったと思うのですが、作中に描いたような経験をしたのも事実。自分が知り合った人たちの中にも同じような経験をした人がいました。辛い経験の後、救われるまでをしっかりと描くことに意味があると思っていたので、そういったシーンは手は抜けないと一層気を引き締めていました。

――そういった中でも、迅をはじめ周りの友人やアルバイト先のコミュニティなど、“仲間”を通して凌が少しずつ前向きに変化していく描写が素敵でした。

自身を肯定してくれる存在がいて色々なことを乗り越えられるのは、ジェンダーやセクシュアリティに関することに限らず多くの場面で見受けられます。凌自身の性別は変えられないし、それを凌自身と周りがどう受け止めるかでしか変化はありませんよね。 

なので、凌が性のことで悩む場面では誰かとの出会いや言葉が解決のきっかけになることが多いんだと思います。自分自身の経験もある程度踏まえているのですが、性や在り方について深く悩んだとしても、最悪の結果を選ばずに強く生きていけるようになるには、やはり身を置く環境が大切。環境というのは周囲にどんな人がいるか、その人たちとどう向き合っていくか。もし、この作品を通して仲間の素晴らしさを感じてもらえていたのなら、そういうことも伝わっていると嬉しいです。

――最後に小さな頃から漫画家になることが夢だった学さんが夢を叶えるために努力したことがあれば教えてください。

連載期間は一年ほどであまり夢を叶えたという実感はないのですが、冷静になりすぎると努力や挑戦って出来ないんじゃないかというのは思っていて。例えば、マンガの世界でも上とか先を見すぎるとキリがないし「どうせこんなの描けない」っていう考えに陥りがち。

一度バカになって、下手でも良いから何かに取り組むこと。あとは「いつか…」ではなく近い締め切り日を設けて「今日はこれだけやる」と一生懸命、毎日を忙しく過ごすことを大切にしています。

* * * * *

■ 学 慶人(がく けいと)
「第77回ちばてつや賞ヤング部門」にて優秀新人賞を受賞。本作が連載デビュー作となる。自身も身体は女性として生まれたが、心は男性のトランスジェンダーである。
Twitter@ktogak

■ ボーイズ・ラン・ザ・ライオット
「身体は女性、頭の中は男性」の高校生・凌。性の不一致にも、それを受け入れられない自分にも苦しむ彼の人生は、服を愛するゴーイングマイウェイ男・迅との出逢いで大きく動き出す。 “当たり前”も“不自由”も己の服でブッ壊せ!凸凹バディのファッション青春譚!! 2月5日より最新刊4巻発売。
https://magazine.yanmaga.jp/c/BRTR/

取材・インタビュー/芳賀たかし
写真/新井雄大
画像提供/講談社 ©学慶人/講談社
記事制作/newTOKYO