その美しさから「死の天使」と呼ばれた、実在の連続殺人犯を描いた映画「永遠に僕のもの」

映画やドラマで描かれる連続殺人犯というのは、大抵はその手口に美学があったり、犯人そのものがとても美しかったりする。
犯人を追う刑事にも、ダークサイドの一面があり、一歩間違えれば犯人と同じ立場になりうる、という描かれ方をすることもある。
「殺人」は遡れば神話の時代にも登場する最も原初的な犯罪だからこそ、幻想的かつ倒錯的な美を結びつけたくなるのかもしれない。

まさに天使と呼ぶにふさわしい美しい金の巻き毛、憂いをたたえた瞳。カルリートスを演じるロレンソ・フェロは「Kiddo Toto」名義でラップシンガーとしても活躍している。

実在のモデル:カルロスは本当に美少年!

この映画の元になったのはアルゼンチン犯罪史で最も有名な連続殺人犯の少年、カルロス・エディアルド・ロブレド・プッチ。
フレスコ画に描かれる天使そのものの美貌だったことから「死の天使」「ブラック・エンジェル」と呼ばれて世間を騒がせたそうです。

実際のカルロスの犯罪歴を調べるとたった2年で17件の強盗、12人の殺人のほかに誘拐や性犯罪などもあって、乳児を抱えた女性に情け容赦なく発砲したり、仲間を殺害してから暴行を加えて焼くなど、手口そのものがかなり極悪なのですが、それでも妖しい魅力を感じてしまうのは、カルロス本人の類稀な美しさ故なんですよね。

ちなみに、彼は67歳になった現在も終身刑で収監されていて、獄中47年はアルゼンチン犯罪史上最長になるそうです。

舞台は1971年。ラモンのもみあげも当時はワイルドでイケてたようです。ふたりの蜜月のような関係は、いつしかすれ違いとともに溝を深めていく…。

なぜ天使は犯罪に手を染めたのか?

正直、カルロスの犯罪歴を見る限り残忍性が際立ち、ロマンチックな動機で犯罪に手を染めてしまったという印象はないのですが、事実がどうだったのかはカルロス本人だけが知るところ。

今作「永遠に僕のもの」は思春期の少年ならではの脆さと危うさが引き金となって犯罪に身を堕とす青春クライムとして描かれています。

欲しいものは盗んででも手に入れてきた天性の犯罪者のカルリートス。

新しい学校で知り合った男性的なラモンに対し、まるで少女になったような甘いときめきを感じたカルリートスは、まるで好きな男の子の気を惹くために花を摘む感覚で平然と人を殺すのだった。

でもその出会いは、カルリートスの中に眠る「死の天使」を目覚めさせる王子様のキスに過ぎなかった……。

劇中で語られる「世界はこんなにも自由なのに」というカルリートスの言葉。彼にとっての自由とはなにを意味する言葉なのだろうか?

ペドロ・アルモドバル監督が描く危険で可愛い。

アルゼンチンで2018年に大ヒットし、第71回カンヌ映画祭「ある視点部門」第91回アカデミー賞「外国語映画賞アルゼンチン代表」として上映されたこの作品をプロデュースしたのは「トーク・トゥ・ハ-」「人生スイッチ」のペドロ・アルモドバル。

実在のモデル、カルロスは終身刑を言い渡されたとき「これはローマのサーカスの茶番だ」と言ったそうです。

もしかしたら映画「永遠に僕のもの」を観れば、カルロスの言葉がなにを意味するのか、分かるかもしれません。

映画:永遠に僕のもの
2019年8月16日(金)渋谷シネクイント、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館他全国順次ロードショー

ストーリー/ブロンドの巻き毛に透き通る瞳、艶やかに濡れた瞳、磁器のように滑らかな白い肌―。神様が愛をこめて創ったとしか思えない美しすぎる17歳の少年、カルリートス(ロレンソ・フェロ)。彼は欲しい物は何でも手に入れ、目障りな者は誰でも殺す。息をするように、ダンスを踊るように、ナチュラルに優雅に。やがて新しい学校で会った、荒々しい魅力を放つラモン(チノ・ダリン)と意気投合したカルリートスは、二人で様々な犯罪に手を染めていく。だが、カルリートスは、どんなに悪事を重ねても満たされない想いに気づき始める―。

監督/ルイス・オルテガ
製作/ペドロ・アルモドバル、アグスティン・アルモドバル、ハビエル・ブリア
キャスト/ロレンソ・フェロ、チノ・ダリン、ダニエル・ファネゴ、セシリア・ロス
上映時間/115分
製作国/アルゼンチン、スペイン
配給会社/ギャガ株式会社
https://gaga.ne.jp/eiennibokunomono/

記事作成 / みさおはるき
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