“真実”という言葉に真実はあるのか。綾野剛&松田龍平出演、ミステリー映画「影裏」から紐解く愛の形とは。

第157回芥川賞受賞作・沼田真佑氏原作のヒューマンミステリー「影裏」が2月14日(金)より公開中。本作では主人公の今野を綾野剛、今野の転勤先・岩手に出会った同僚の日浅を松田龍平が演じている。メガホンを取ったのは今夏に「るろうの剣心」シリーズ最新2作の公開を控えた大友啓史監督。

岩手の美しい自然や、うら悲しい街並みなどを舞台に遅れてやってきた青春を思わせる2人の何気ない日々、その中で次第に見えてくる日浅の本質、突然の別れ、そして真実…。繊細な心の揺らぎと幼い時に誰もが刻まれたであろう心象風景に各界からも絶賛の声が挙がっている。

今、あなたの隣にいてくれる大切な人は必ずしも見えているものが全てではない。目に見える「光」と表裏一体に存在する「影」の部分を知ったとき、それでもその人を愛せますか?

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今野(綾野剛)は会社の転勤をきっかけに全てを捨てるように移り住んだ岩手・盛岡で同じ年の同僚・日浅(松田龍平)と出会う。慣れない地でただ一人、日浅にだけは心を許していく。2人は釣りやお酒を交わしたりと、遅れてやってきた青春のような幸せな日々を送るように。ある日、2人で夜釣りに出かけた渓谷で些細な事がきっかけとなり雰囲気が悪くなり、日浅は忽然と姿を消す。

流木の焚火に照らされた日浅が言い残した「知った気になるな。お前が見ているのはほんの一瞬光が当たった所だってこと。人を見るときはその裏っかわ。影の一番濃い所を見るんだよ。」という意味深な言葉に掻き立てられるかのように、今まで目を向けることがなかった彼の影の部分に迫っていく今野。

すると父親に縁を切られていたことや同僚にお金を借りていたことなど、これまで見てきた彼とは全く違う顔が浮き彫りに。失ってから初めて知る、分かりあえていたと思っていた親友の〝本当“。彼の真実である「影」は何を照らすのだろう。

今作では同性愛をテーマにしているとは明言していないものの、それに近しい関係を思わせる描写が今野を中心としたシーンから汲み取ることができます。

丁寧にじっとりと舐め回すようなカメラアングルに映し出された今野の細く美しい身体には女性らしさを強く感じぜざるを得ないし、無骨で掴みどころのない日浅を見つめる目は、友情以外の感情が垣間見えます。相反するような2人が、2人だけの時間を過ごしていく。淡々とした穏やかな毎日が綴られている中で、日浅と過ごす今野の可愛らしくも憂いを帯びた顔は、まるで恋に落ちていく少女のようでした。

最後に、この映画の大きな軸になっている「大切な人の全てを知った時、それでもその人を愛せるか」という問いかけに戻りますが…。

表面上に見えるものを「真実」としてその影にあるかもしれない「もう一つの真実」にフタをして愛する形、あるいは「もう一つの真実」を含めて愛する形、あるいは表面に見えているものを「虚構」であることを知った上でも愛する形、「愛する」ということは必ずしも画一的なものではない…そう感じました。作品を通して人の表裏の線引きや「真実」という言葉の曖昧さについて、改めて考えさせられる134分です。

ちなみに作中でキーとなるシーンに出てくるザクロの花言葉は「愚かしさ」、ここからストーリーを解釈していくのも興味深いですよね。

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映画:影裏
公開中/2020年2月14日(金)全国ロードショー
Ⓒ2020「影裏」製作委員会

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記事作成/芳賀たかし(newTOKYO)