38歳ゲイの中井さん、女性と友情結婚する。「愛情の全てを子どもと家族に注ぎたい」

中井さんは子どもを授かりたい気持ちから友情結婚を選んだ。38歳という年齢やゲイであること、児童養護施設で育てられたことなど、いくつもの理由が重ねったゆえの選択だ。

妻となるAさんと出会ったのは、2024年のゴールデンウィーク。現在は婚約中で子どもを授かるタイミングを鑑みて結婚するとのこと。妻となるAさんにも同席してもらい、2人の結婚や子どもへの思いを教えてもらった。

ーー一番の目的は、子どもを授かること。出会いから婚約までの経緯

ーー同性パートナーではなく、友情結婚という形で女性のパートナーと人生を共にすることを選んだ理由を教えてください。

中井さん:一番は子どもを授かりたいという気持ちからです。同性パートナーと子どもを迎えるということも可能ですが、全員が血の繋がった親子への憧れが少なからずあるんです。それはきっと、私自身が生みの親から離れて育ったことが影響していると思います。
家庭環境がお世辞にも良いとは言えない中、3歳の時に児童養護施設へと移り、まもなく育ての親に引き取られました。中学2年生の秋から中学3年生の冬までは諸事情により一人暮らしをしたものの、高校3年生まで一緒に生活をしました。血が繋がっているか否かということを大きな問題として捉えたくはないのですが、そのことから目を逸らして子どもについて考えることは出来ませんでした。

あとは母親と父親がいる環境で子供を育てたかったというのもあります。女性と男性という立場の違う親元で価値観を育んでいってほしいですし、子どものジェンダーやセクシュアリティによっては、両親がどのような経歴であれ、女性にしか相談しにくいこと、男性にしか相談しにくいことだってあると思うんですよ。
同性婚を全く考えなかったわけではなかったですが、結婚を考えるにあたって子どもを授かるのであれば友情結婚が自分には合っていると考えがまとまったんです。

ーー自身がゲイであり友情結婚することを、SNSを通じて公表した理由を教えてください。

子どもが欲しいとは思いつつも現実的ではないと諦めてしまうゲイの方って多いと思うんです。そういった方達に向けて、友情結婚での結婚生活や子育てのリアルを発信することで、選択肢としての可能性を見出してもらうために公表をしました。

身近な友人には直接話をして肯定的な意見をもらっていますが、私の生活圏外の人にも知ってもらうためには、SNSを活用することが有効的だと思ったんです。

ーー婚約中とのことですが、Aさんはなぜ中井さんとの結婚を選んだのでしょうか。

Aさん:かなりアセクシュアル寄りなヘテロロマンティックなので、男性と性的接触をするのがすごく苦手なんです。1~2年前には彼氏もいましたが、恋愛感情や性的感情を寄せられた分だけ、私も返さなくてはいけないと思ってしまい、そのことをとても負担に感じていました。

かといって彼の思いに応じなければ、罪悪感が募ってしまい結果的に別れを選ぶざるを得ない。そんなことを何度か繰り返して、いろいろ調べていく中で友情結婚を知りました。中井さんとは友情結婚を目的とするパートナーと出会えるマッチングアプリを通じて出会ったのですが、家族や子どもに対する価値観も合って、一緒にいて心地良さを感じられたので婚約をしました。

ーー出会いは今年のゴールデンウィークとのことですが、婚約までのスピードは意識しましたか?

中井さん:さっき、Aさんが言ったみたいにマッチングアプリで、お互いの条件がある程度一致していることは分かっていたので、2回ほど会ってフィーリングが合ったので婚約しようとなりました。3年間でお見合いや掲示板、アプリなどを通して友情結婚のパートナーを探していたのですが、顔出しをしてメッセージを交わしたことや、実際にあったときにギャップを感じなかったのが、今の選択に大きく影響していると思います。

ーーパートナーに対する恋愛感情や性的感情が向くことのない中、同性パートナーへの憧れは今もありますか?

中井さん:今のところは考えていません。私はとにかく子どもを授かりたいという気持ちが強く、愛情を家族以外に注ぐことは考えられないです。

一時の感情で、魅力的な男性と肉体関係を結んでしまう可能性はゼロとは言い切れませんが、同性パートナーと人生を共にするという選択肢は、私の人生の中ではありません。

ーー同性婚への諦めではなく、理想の生活を現実にするための友情結婚という選択

ーーお二人はなぜ、子どもを授かることを強く願っているのでしょうか。

中井さん:30代後半になり、人生をかけて大切にしたいことや愛情を注ぐ存在について考えたとき、私の場合は子どもだったんです。本業とは別にママさんバレーのコーチをしているのですが、付き添いで来る子どもたちが本当に可愛くて。同時に私が生きていたことを後世まで伝えてくれる存在は、子どもしかいないだろうとも感じたんです。
過去に身近な人を亡くす経験をしましたが、やはり時間が過ぎるにつれて忘れてしまうというか、思い出す頻度が極端に少なくなっていくんですよ。私は自分人身がこの世を去っても、人の心で生き続けたいという気持ちがあって、考えようによっては本能的な欲求でもあると思っています。

あとは同性愛者として避けて通れない老後についても、子どもがいたらそこまで気にする問題ではなくなるという思いもありました。

Aさん:私は子供が欲しいという気持ちだけですね。30代半ばになった今がタイミングというか、妊娠率なども考えたゆえの選択です。私はいわゆる一般家庭で育っているので、家庭が欲しいと思うことが度々あったんです。

ーー子どもを授かる方法は、どのような形を想定しているのでしょうか。

中井さん:精液検査と卵巣予備能検査は互いに問題はなかったので、シリンジ法(容器に出した精液をシリンジで吸引し、膣内に注入する方法)を何度か試そうと思っています。

もしも、その方法での妊娠が難しければ人工授精を予定しています。子どもは2~3人出来たらいいねとは話しています。

ーー2人が友情結婚であることや中井さんのセクシュアリティは、Aさんのご両親には伝えているのでしょうか。

中井さん:伝えていませんが、今後も伝える予定はないです。子どもに対しても混乱させたくないので言う必要はないと思っていまが、子どもの成長によっては性知識がある程度身についたタイミングで話すかもしれません。

また、仮に第三者が私たち夫婦がどのように結ばれたのかを子どもに伝える、といった予期しないことが起こった場合は、事実を否定せずに、正直に話そうとは思っています。 
私たちは愛し合って結婚したわけではないですが、第一に私とAさんが望んで生まれてきた子どもがあなただよということは伝えた上で、私たちの元に生まれてきて良かったと思える人生になるようたくさんの愛情を注ぎたいたいです。

ーー今後の生活について決まっていることがあれば、教えてください。

現在は月2回程度会っているのですが、彼女が産休に入り実家で暮らすようになったら、週1回は様子を見に訪れたいと思っています。無事に出産を終えたら、私の家に3人で住むことになると思いますが、今後子どもが増えて2LDKの間取りが手狭に感じるようであれば引っ越すことも視野に入れています。

ママさんバレーチームのメンバーにも子育てについて色々と教えてもらいながら、生活環境を整えていきたいです(笑)。

ーー「友情結婚」という言葉から事務的な関係を想像してしまっていたが、終始、笑顔で取材に応じてくれた中井さんとAさん。時折、顔を見合わせながらお互いの気持ちを素直に話している様子が印象的だった。2人の選択によって新たに生まれるであろう命には、きっと幸せな人生が待っているはずだ。

◆中井さん/プロフィール
Youtubeにて「雄ネコchannel♂」で新しい家族の形について動画配信活動を行っている。夢は子どもと一緒に動画配信すること。

文・写真・取材/芳賀たかし
記事制作/newTOKYO

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