性愛以外で信頼関係を築き、婚姻関係を結ぶ友情結婚。その選択をする人の中には「結婚しないの?」「はやく孫の顔が見たい」といった周囲からの圧力、あるいは結婚や家庭へ築くことに憧れはあるが、セクシュアリティの関係上難しいなど理由は様々。
西野なるみさんは25歳で結婚、今年で友情結婚5年目を迎えるゲイ。2歳年上のパートナーであるアロマンティック・アセクシュアル(他者に恋愛感情や性的欲求のどちらも抱かないセクシュアリティ)女性との間には、シリンジ法で授かった生後5ヶ月の第一子がいる。そして、結婚以前に付き合っていた彼氏とは、パートナー公認で関係が継続中だ。
西野さんはなぜ、彼氏の存在がありながらも20代半ばで友情結婚という選択をしたのか。それまでの道のりと、現在の結婚生活を伺った。
ーー妻との初外出は、結婚指輪探し。25歳で知った「友情結婚」という選択肢は、あっという間に進んでいった。
長男ということもあるせいか、20代前半から親に結婚や子を授かることをせがまれるようになりました。ただ、中高生ぐらいの時からゲイであることは自認していたので、どうしたものかと。自分のセクシュアリティを伝えることは現実的な選択肢として考えられませんでしたし、かと言って未婚のまま先祖代々受け継がれてきたものが自分の代で断たれてしまうのも寂しい気がして。
それ以外にも育ててくれた親への感謝や孫の顔を見せてあげたいという気持ち、そして自分自身、子どもがいる家庭に憧れはあったので、同じような悩みを抱えている人はどのような選択をして生きているのかネットで調べていくうち、「友情結婚」という言葉に辿り着きました。
それからすぐに友情結婚を希望する人が集まる無料掲示板で一年ほど活動をしたのですが「会いましょう!」となっても結局、会わず終いというのが3回ほど続いたんです。最終的には友情結婚を専門に扱う結婚相談所に登録をしました。
入会金・登録料に11万円をはじめ月会費に1万円、お見合い1回につき5千円、成婚費33万円など、およそ半年で50万円を費やしました。居住地や年収、学歴といった基本情報に加えて結婚生活で重要視することやパートナーの有無、子どもを希望するか否かなど、お互い条件が合致した人とお見合いをする流れになっていたので、割とあっという間に物事が決まっていった感覚はあります。
現在の妻はアロマンティック・アセクシュアルで、2回目のお見合いで出会いました。彼女もまた家族からの圧力や世間体を考えて、結婚を選択したうちの一人です。お互い似たような環境下だったこともあったせいか意気投合をして、次に会った時には、結婚指輪を求めてジュエリーショップへ行ったり、新居の家具の下見をしたり、タスクをこなすように結婚生活へ向けた準備を進めていきました。
恋愛関係・性的関係も無く、僕も妻も親を思う気持ちからの結婚というのが大きな割合を占めているとは言え、その準備期間が純粋に楽しかったんです。それに当時は家に帰れず自分の世話ができないほど仕事が多忙で、このまま所帯を持たず一人で生きていくのは限界と思ってた時期でもあったので、色々なタイミングが重なっての選択でもあったように思えます。
ただ、両親に結婚報告をした時は「そうなんだ」くらいで、あまり大きな反応はなかったです。結婚後は、お互いの兄弟・親戚も含めて、両家の家族ぐるみで付き合うことが多くなりました。やはり家のために結婚する部分もあったため、今後の方針についてなど、僕たちの人生に口を挟んでくることは、少々増えたように感じています。
ーー「同性婚が認められていたとしても、その選択をする勇気はない」。憧れはあれど、気になる世間の目。
両親や周囲には、妻は結婚相談所で出会った、僕は会社で出会ったという体にしていて、友情結婚であることは誰にも伝えてはいません。また将来、子どもに僕たちの出会いなどを聞かれたとしても色々な矛盾が生じてしまうので、本当のことを話すことはないでしょう。
恋愛感情、性的欲求を抱かない妻との間に子どもを授かることに対しては、女性と性行為をしたくないという部分だけが唯一難しいと思っていた点でした。昔から子どもと関わる機会も多かったため、自分の子どもを愛せるかどうかの不安はなかったです。彼氏に対する後ろめたさは結婚をする時にはありましたが、子どもを授かる上ではありませんでした。
今年で結婚5年目を迎えますが、結果的には友情結婚はしてよかったと思ってます。一緒に住んでいる人が家にいると生活と仕事のメリハリが感じられて、一日一日が楽しいんです。現在はコロナ禍ということもあって、ほとんどの時間を共に過ごしていますが、意識的に一緒にいなければならないということもなく、それぞれの時間を尊重する良い関係性で居続けられています。
僕には友情結婚する前から付き合っているバイセクシュアルの彼氏がいるのですが、その件についても「好きな人とは一緒にいたいんでしょ?」と、家庭を疎かにしない程度であればと関係を見守ってくれています。月2回ほどのデートのほか、コロナ禍以前は3人で外食をしたりしていたので、妻にとって僕の彼氏は友人の友人ぐらいの感覚でいるようです。彼氏とも、結婚する以前からお互いの結婚観に関しては「どちらかが結婚してもおかしくないよね」と話はしていたので、今みたいな関係性になる事は決して予想外のことではなかったみたいで。
彼も彼で「いつかは女性と結婚しないといけない」と思っている側の人間ではあるので、友情結婚が成約したことを伝えた時も、そこまで深刻な話し合いには発展しませんでした。定期的に会える関係でいられるならば、終わりにしなくていいじゃんと。なので、結婚前後で極端に彼氏との関係性が変わってしまったということはないですね。
もし同性婚ができる世の中になったら…。僕も彼も同性婚に憧れはあります。「もし2人で暮らせていたら、どんな人生だったんだろうね」と、今でも話します。ただ同性婚が法制化されたとしても、僕たちに同性婚を選択する勇気はないです。やっぱり家族や世間体、LGBTを受け入れられない人の目を日常的に考えて生きていかなくてはいけない環境を考えると、難しい。
偏見やLGBTの存在が珍しいと思われない世の中でなければ、彼氏と結婚する道を選んでいたと思います。ただ今は、子どもがいて、妻がいて、彼氏がいてくれる。この幸せな関係性を大事にしながら、生きていきたいというのが正直な気持ちです。
取材・企画/芳賀たかし
取材協力/Twitter@nsnnrm_aqua
イラスト/Instagram@dan_akiyama
記事制作/newTOKYO