性的虐待を乗り越えて:美術家・浦丸真太郎。自身の傷と他者の傷を同時に癒す個展「縫合」が、9月3日より開催。

ーースティグマとして捉えてきた身体に残る傷痕と向き合ってきた。誰しもが抱えている身体や心の傷。一人では塞ぐ事の出来なかった僕の傷とあなたの傷を縫い合わせる様にと、祈りを込めて。

幼少期に叔父から性的虐待を受けた経験を軸に、詩や写真、絵画、インスタレーション、パフォーマンスなど様々な作品制作を行う美術家・浦丸真太郎さん。

2018年にグループ展「オソレの品種改良」で東浩紀賞、2019年にグループ展「ホーム・ランド」で岩渕貞哉賞を受賞。昨年5月には、自身が抱える苦悩やテーマなどを美学校の講座である「芸術漂流教室」を通して熟考したグループ展「他者の目を気にして漂流する」をターナーギャラリーで実施し、今回その展示の集大成とも言える個展を神保町・美学校スタジオで開催する。

ーー幼少期の性被害を公表し、その経験を作品に落とし込もうと思った理由を教えてください。

僕は〝表現〟というものに出会うまで自分のセクシュアリティや、幼少期の性被害の経験をずっと誰にも打ち明けないまま胸に秘めて生きてきました。そして、ゲイである自分にも、セックスに対してもすごく否定的でした。そういった状態では自分の心のバランスがうまく取れず、自分のみならず、恋人や友人といった他者と良好な関係を築けないことに気づくようになりました。

例えば愛する人と二人きりになるのを避けてしまったり、身体的な繋がりを持とうとする人を心のどこかで見下している自分が居たり。当時は過去の体験に縛られ、あまり良くない方にエネルギーが出ていたと思います。
一方で美術大学に通っていた僕はコントロール出来なかったエネルギーのようなものが、特技である絵や普段から書き記していた日記などに現れ始め、自然な形で作品の中にも次第に現れてくるようになりました。
それは創造物の特性でもあると思うのですが、なりたい自分や、理想の世界などを作品の中で構築できる部分にあったと思います。

またポジティブな感情よりも、ネガティブな感情やコンプレックスなどの方が個人的には強く大きなエネルギーが実は秘められているのではないかと学生時代から考えることがあり、その大きなエネルギーを自分の魅力に変えたいという強い気持ちから、幼少期の性被害の経験を作品の中で語ることに繋がっていきました。

ーー今回の個展『縫合』に込めた想いや展示を観た方々に伝えたいメッセージを教えてください。

今回の個展では、僕自身の虐待経験により残った身体の〝傷痕〟に焦点を当てて作品制作をしたもので、たくさんの方の傷痕とその傷痕にまつわるエピソードをお聞きして作品を制作しました。

「縫合」シリーズでは、一人の傷痕を転写したキャンバスに、別の方の傷痕を縫い合わせて一つの絵画作品を作り上げています。それは、僕自身がこれまで他者とのコミュニケーションの中で自分自身の傷を癒そうとしてきた経験が深く関係しており、自分一人では塞ぐことが出来なかった傷と、他者が抱える傷を、針と糸を使い縫い合わせて治していく。そういった思いを込めて今回の作品と展覧会を準備しました。

僕はこれまで身体、そしてこころに傷痕を抱えながらこれまで生きてきました。自分自身を否定し、自分を傷つけ、自己嫌悪の渦にのまれそうなときもありました。また怒りや憎しみといった感情を他者に向けることで自分のこころのバランスを取ろうしていた時期もあります。

これを読んで下さってる方もきっと、今も疼き、傷んで止まない傷を抱えているかもしれません。そんな誰しもが抱えるあらゆる傷を今回の個展『縫合』では肯定し、受け止める場になれたら良いなと思っています。

作中では希望を含め、〝傷付けられた分だけ人は優しくなれる、強くなれる〟そう言っていますが、本当のところ、傷を抱えた人たちが全員が必ずそうなるとは限りません。現に僕自身、自分に対して前向きな気持ちで居られるときは限られていますし、自分一人ではどうしようもない気持ちでいっぱいになるときも多くあります。

しかし、だからこそ同じ傷を抱える者として、あなたが一人で苦しみ、一人で抱え続けるその傷を、受け入れ、癒やしたいと強く思います。それは僕自身がこれまで他者に求め続けてきたことであったからです。

もし今一人でこころの傷を、何か抱えているものがある方は一度会いにきてくれたら嬉しいと思っています。その方の抱えるその傷と僕の傷を一緒に縫い合わせて癒していけるようにーー。

■縫合/浦丸真太郎
期間|2022年9月3日(土)〜9月11日(日)
会場|美学校スタジオ(東京都千代田区西神田2-4-6 宮川ビル1F)
時間|13:00〜20:00(入場無料/会期中無休)
https://bigakko.jp/news/2022/uramaru-exhibition

■浦丸真太郎
1993年生まれ。幼少期に親族である叔父から性虐待を経験する。自分自身の中に芽生えた復讐心や、無意識に他者を傷つけることで心のバランスを図ろうとしていた自分に絶望し、人や社会から自ら孤立しようとしていく。そんなある時、何気なく得意だった物作りが、孤独であった自分と他者とのコミュニケーションを形成していることに気付き、作品制作を開始していく。作中では鑑賞者に自分の体験を次々と告白していく。それはまるで鑑賞者にカウンセリングをして貰うかのようである。また同時に鑑賞者の心の傷と向き合い、他者を肯定していく中に自分自身の魂の救済を行なっていく。
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記事制作/newTOKYO