今のムードは「boundary books」か、それとも「loneliness books」か。  後編

寒さで外出するのも億劫になってきたこの頃。家に籠もればスマホにゲーム、ネトフリ、YouTubeなど時間を潰すデジタルコンテンツはいくらでもあるけれど、少しだけ頑張ってみて本屋に足を伸ばしてみるのはどう?

「loneliness books」はアジアのクィアやジェンダーにまつわる本を中心に取り揃える独立系書店。2020年に大久保でオープンし、2024年8月に出版ユニット「(TT)press」と“本と人が集まる場所”「platform3」を共同運営するにあたって、東中野へ移転した。コンセプトに沿ったイベントや展示の開催にも積極的な店主・潟見(かたみ)さんは、どのような思いでお店をオープンしたのだろう。

クィアやジェンダー、フェミニズムなど
アジア各国の小さな声を紡ぐ「loneliness books」

ーー「loneliness books」は、どのような経緯でオープンに至ったのでしょうか。

東京レインボープライド2019にブース出展したことが、本屋をオープンするきっかけになりました。仲間たちとクィアやアジアに関する本を持ち寄って紹介するブースで、以降も同一の内容で他イベントに定期的に参加していたんです。訪れる方たちからの反響も良かったので、ずっと続けて行きたかったのですが、間もなくしてコロナ禍に入ってしまって。ただ、そういった環境下であっても本に触れてもらう機会を失ってほしくないと思ったんです。

そこで、イベントで扱っていた本に加えて、本業であるグラフィックデザイナーに関連した本や印刷物、また仲間たちが作ったZINEを自宅に並べ、2020年に完全予約制の本屋「loneliness books」をオープンしました。

ーー仕入れる本について意識していることはありますか。

LGBTQ+に関する本は、2015年ごろに「自分たちで韓国のクィアマガジンを作っている」という韓国の友達に出会ったことを機に集め始めました。当時の日本ではなかなか見ることがなかった、アートやファッションからのアプローチで社会への問題提起を試みるクィアマガジンで、そのクオリティに驚きました。

それからアジアの中のマイノリティに焦点を当てた出版物に関しても意識して集めるようになって。さらにアジアカルチャーには惹かれるものがありました。韓国や台湾においても日本同様、発展の裏で消えゆくものに対して眼差しを向ける出版物が多くて、例えば銭湯や映画館など文化が生まれる場所ついての本が数多く出版されています。

取材時に開催していた写真家・真田英幸による写真展『またね、きっと。』の展示の一部

ーー東中野へ移転した一番の理由を教えてください。

人が集まる場所を作りたいという気持ちからですね。大久保でお店をオープンしてからはコロナ禍での営業がほとんどだったのにも関わらず、本当に多くのお客様にお越しいただきました。コロナ禍が落ち着き始めてからは海外のお客様にもたくさん足を運んでもらって。ただ、自宅かつ完全予約制だったため、いろんな人が集まるということが難しかったんです。

そこで「出入り自由で交流が生まれる本屋をやりたい」ということを会う人会う人にお話ししていたら、(TT)pressのお二人から「一緒にやりましょう」と声を掛けていただき「platform3」という場所をつくることができました。今はそれぞれ、本を売ったり、展示やイベントを行ったりとお互いにやりたかったことができていると思います。

ーー人との繋がりに重きを置いているんですね。

コロナ禍が過ぎて人が移動しやすくなった中で、止まり木のような場所も必要だと思うんです。そこに行けば誰かしらがいて、会話が生まれるような場所というか。色々な人と文化が混じり合う場所であれたらと思っています。僕自身、そういった場所が心地良いんです。

22時までオープンしていることもあって、東中野駅のホームから灯りが見えて足を運んで下さったり、クチコミで近所にお住まいの方が立ち寄ってくれたり…自分が想像していなかった形でお店が広がり始めていて驚いています。

売男日記/¥3,300(税込)

店主・潟見さんが選んだ2024年に読んでよかった3冊
『売男日記』『春宮中のタコ武士』『ぼくって、ステキ?』

ーーお店のラインナップから2024年に読んで良かった作品を教えてください。

現代美術家のアキラ・ザ・ハスラーさんがセックスワーカーをしていた時に出会った客や友人、恋人とのエピソードを綴った本書は、loneliness booksが出版元としてリニューアル復刊したものになります。2000年に初版、2018年に韓国でも出版されてましたが、それぞれ完売になって、それ以降もこの本を読みたいという人が、loneliness booksにもたくさんいらっしゃったのですが、古本では高値で取引されているため、なかなか入手できるものではなかったんです。

それで、初版から24年経った今、より多くの人たちに読んでもらえたらという気持ちで、アキラさんに序文を新たに書いていただき、デザインもリニューアルして復刊しました。復刊本では初版で用いられていた日本語と英語、2018年の韓国語に加えて、新たに中国語(繁体字)の4ヶ国語で読めるようになっています。綴られた日々の出来事は24年経った今でも、心を慰めてくれることでしょう。

春宮中のタコ武士/¥4,000(税込)

アーティスト・Shengzheさんによる写真集で、loneliness booksの今年のベストセラーの一冊です。作家自ら当店に足を運んでくださって「世界中のお客さんにこの本を届けてほしい」と依頼を受けました。そういった意味でも思い入れがある一冊です。

冷たい殻の中に性的なほのめかしが隠されているような日本の感性が好きだそうで、本書でもそこからインスパイアされた作品が多く掲載されています。

ぼくって、ステキ?/¥1,540(税込)

ファン・インチャン(文)さんとイ・ミョンエ(絵)さんによる絵本で、坊主頭の男の子か隣の席の女の子に「ステキ」と言われたで、「ステキ」の意味について悶々と考えながら日常を過ごす様子を描いた作品です。韓国語だと「ステキ」に当たる部分は「キレイ」という言葉のニュアンスだそうで、日本語訳の際に「ステキ」になってしまって、大事なところがボヤけてしまったことが唯一、残念に感じています。

というのも、坊主の男の子が「キレイ」という言葉について考える物語であれば、男の子のジェンダーやセクシュアリティに関して読み手に、より考えさせる内容になりますから。でも、絵も含めて、とても素晴らしい絵本です。

「あらゆる人との交流が生まれる本屋になっていきたい」

ーー同企画で東新宿にある独立系書店「boundary books」のインタビューも掲載していますが、どのような印象をお持ちですか。

店主の石井さんは大久保でお店をやっている時に何度か足を運んでくださいました。そのときからメールアートに特化した本屋を開きたいというお話をされていて、その後あっという間にウェブストアを始められて、今年は男性表象に特化した「Tokyo Male Art Fair2024」も主催し、さらに実店舗もオープンされて、行動力のある方ですよね。

実店舗の方は、スペースが限られている中でも、クールなキヨスクみたいな雰囲気で、日本ではここにしかないメールアートの本に出会える素敵な本屋さんです。今のところ週一の営業をされていて、運営の仕方に悩むこともあるかと思いますが、知らなかった作家のメールアートの本に私も出会いに行きたいです。

ーー今後、「loneliness books」をどのような場所にしていきたいですか。

世界中のいろいろな場所からやってきたお客さんの交流がより生まれる場所にしていきたいと思っています。boundary booksの石井さんと「一緒にやりたいですね」と話している、本屋を巡るブックツアーやスタンプラリーなども、実現できたらいいなと思います。そういう人と人、独立系書店同士も繋がれる仕掛けを生み出していきたいです。

◆loneliness books
クィア、ジェンダー、フェミニズム、孤独や連帯にまつわる本やZINEを集めて、アジア各地の小さな声を紡ぐブックストア&ライブラリィ。
https://qpptokyo.com/
Instagram@lonelinessbooks
住所:東京都中野区東中野1丁目56-5 401号室
営業日:平日:14:00~22:00、土日祝12:00~22:00
※オープン日は公式インスタグラムをはじめ、各種SNSにてご確認ください。

取材・文・写真/芳賀たかし
記事制作/newTOKYO

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