欧米でMSM(男性間で性交渉を行う者)を中心に感染が拡大し、WHOが緊急事態宣言を発した「サル痘」。これまでに110の国と地域において8万を超える感染例が報告されていたが、現在、新規感染者数はようやく減少傾向に向かっているという。
しかしながら、日本では2023年に入り新たにサル痘と診断される報告例が相次ぎ、2023年2月9日時点で19症例。海外渡航歴のない感染者も多く確認され、国内での感染増加・蔓延が懸念されている。
そこで今回は、国立感染症研究所感染症危機管理研究センター協力のもと、改めてサル痘の感染経路や症状・予防などをおさらい。MSMに限らず誰でも感染する可能性があるからこそ、正しい知識を知り、感染予防・拡大防止に努めることが最も重要視される。
※サル痘は英語で「Monkeypox」と呼ばれていましたが、差別や偏見を助長する可能性があることから2022年11月に「Mpox」という名称に変更されました。日本国内ではサル痘と呼ばれており、厚生労働省は「サル痘」の新しい名称案を「エムポックス」にする方針を決めている。
※2月21日付けでさらに2件の感染報告(どちらも30代男性)があり、国内報告は22例に。
ーー日本国内でのサル痘の新規感染者数の状況と傾向。
日本国内でのサル痘感染は19症例。20代〜50代以上の男性で報告され、特に30代の割合が大半を占める。主な特徴としては性器や肛門、口の周辺への発疹が現れる傾向が強く、アナルセックスやオーラルセックスによる感染が主体だと考えられている。
また、感染者の疫学調査も行われているが、19例の具体的な行動パターンは明らかではない。ただ、欧米の疫学調査から、不特定多数の人との性交渉など、性的接触の頻度の高い人が感染しやすいことは示唆されている。
なお、19症例のうち15例が海外渡航歴のない感染者であることもわかっており、特に2022年38週以降は海外渡航歴のない症例が主体となっている。つまり、海外で感染した人が国内で発症するケースではなく、すでに国内でサル痘ウイルスが蔓延している可能性が高いと推測できる。そのため、サル痘に感染している無症状の人や発症前の潜伏期間内であっても、他者への感染リスクはゼロではないことがうかがえる。
ーー誰でも感染する可能性があるウイルス。感染経路をおさらい。
サル痘のこれまでの感染は「動物から人」だったが、2022年5月から始まった今回の流行は「人から人」への感染が大きな特徴であり、MSMでの性的接触による感染が9割を占める。だが、年齢や性別、性的指向、性自認問わず、密接な接触により誰でも感染する可能性があり、ゲイに限った病気ではない。
主な感染経路としては……
●サル痘に感染している人の発疹や水ぶくれ、カサブタに直接触る(ウイルスは体液や精液、膿などに多く含まれている)
●サル痘に感染している人が使用した物、布地(衣服や寝具、タオルなど)、ドアノブやデスクなどに触れる
●サル痘に感染している人の咳やくしゃみなど、唾液がかかる(飛沫感染)
性的接触(セックスやキスなど)では……
●サル痘に感染している人の口腔内、肛門、膣の性行為、性器や肛門に触る(なめる、挿入するなど)
●サル痘に感染している人とのハグ、マッサージ、キス、至近距離での会話など
●サル痘に感染している人が使用した布地(寝具やタオルなど)や物(セックストイなど)に触る
などが挙げられる。なお、発症後どのくらいの期間、他の人に感染させる可能性があるか、ウイルスが精液や肛門・直腸の皮膚や粘膜が変化したところなどに含まれるかどうかはまだ不明で研究が続けられている。しかしその可能性も視野に適切な行動をとることが望ましい。
ーーサル痘の主な症状とこれまでに知られていた特徴と異なる症状。
サル痘は、サル痘ウイルスに感染することによる急性発疹性疾患。通常6〜13日の潜伏期間(感染してから症状があらわれるまでの期間)の後、風邪に似た症状として、発熱、頭痛、リンパ節の腫れなどの先行する症状が続く。その後、特徴的な発疹(水ぶくれ)が現れる。多くは2〜4週間ほどで自然に治るとされている。
水ぶくれを伴う発疹は、性器および肛門周り、口の周りでみられる頻度が最多い。その他にも体幹・四肢、顔、手のひら・足の裏など全身に及ぶ。
ちなみに最近では、これまでに知られていた特徴とは異なる症状も報告されている。先行する風邪に似た症状に加え、喉の痛みや筋肉痛、肛門や直腸の痛みなど(口の中の粘膜や直腸にも病変が見られるとのこと)と多岐にわたり、先行症状がない症例も数多く報告されている。
いずれにせよ、サル痘は重症化しにくく、致命率は低い。また、症状が現れすべての発疹が治り、表面が通常の皮膚に覆われるまでの間は隔離(自宅で待機)することが推奨されている。他の人から距離をとること、自分が触ったものを他の人とシェアしないことが、他の人への感染防止につながる。
ーーサル痘の感染予防における対策と、疑わしい症状がある場合。
性的接触による感染の予防対策としては、コンドームを使用し、不特定多数の人や発疹などのサル痘の症状がある人との性交渉を避けたり、体調が悪いときには性的接触を控えるなど、リスクのある行為をなるべく避けることが大切である。サル痘に限らず梅毒やクラミジアなどの性感染症も急増している今だからこそ、セーファーセックスを心がけることが求められている。なお、コンドームを使用しても、ゴムに覆われない皮膚と皮膚が接触することから、サル痘の感染を完全に防ぐことはできないと考えられているが、他の性感染症の予防にはコンドームの着用はとても有効な手段である。
そして万が一、サル痘の症状が現れた場合でもパニックにならず、まずはかかりつけの医療機関や最寄りの医療機関に相談。厚生労働省から各自治体の保健所や医療機関にはサル痘感染における情報の共有がされており、プライバシーの配慮もされるので安心。それでも地元付近での身バレや性的指向を知られることに不安があれば、各都道府県に設置されている「感染症指定医療機関」で受診することも可能となっている。サル痘についての正しい知識を持って、適切な感染対策を心がけましょう。
ーー今回のサル痘のように大流行を及ぼすのが感染症。HIVや性感染症などさまざまな細菌やウイルスは存在し、常に僕たちの生活と密接に結びついている。そこで大切なのが、セーファーセックスはもちろん、普段から性の相談ができる病院・クリニック、信頼できる医師などのいる「かかりつけ医」を持つこと。病気の予防や早期発見・早期治療にもつながるので、この機会に自分にあったかかりつけ医を見つけてみてはいかがだろうか?
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■国立感染症研究所(サル痘について)
>複数国で報告されているサル痘Q&A(第1版)
■厚生労働省(全国の感染症指定医療機関)
>感染症指定医療機関の指定状況
※2023年2月9日現在の情報に基づいたインタビュー内容となっております。状況によっては変更になっている場合もございます。最新の情報をご確認ください。
取材協力・写真提供/国立感染症研究所、国立感染症研究所 感染症危機管理研究センター センター長 齋藤智也、国立感染症研究所 薬剤耐性研究センター 第四室室長 実地疫学研究センター 併任 山岸拓也、国立国際医療研究センター病院 国際感染症センター 医員 石金正裕、NPO法人ぷれいす東京
記事制作/newTOKYO