ゆるやかに繋がり、想い合える幸せ。アセクシュアル4人が結ぶ、クィアプラトニックリレーションシップ

クィアプラトニックリレーションシップを結んだアロマンティック当事者のインタビュー

本業である漫画家としての活動と並行して、2022年よりアセクシュアルやAスペクトラム当事者を繋ぐコミュニティカフェ「ARU」の運営をはじめた、むらかみさん。現在も月2回のペースでお店をオープンさせており、毎回ほぼ満席という盛況ぶりだ。

むらかみさんがクィアプラトニックリレーションシップ(以下、QPR)を結ぼうと考えはじめたのは、そんなカフェの運営がひと段落した同年5月のこと。接客を通して、1人のパートナーと関係を築くことが苦手な一方、これから先の人生を誰かと楽しく過ごしたいという気持ちが明確になったそう。

国内では耳にすることが少ないQPRという関係性を結んでから約2年が経過した今、結ぶまでの経緯や変化について伺った。

ーー住む場所も家計も別々。アセクシュアル当事者の4人が結ぶQPRは、フレンドシップとどう違うのか

ーーQPRとはどういった関係性なのでしょうか。

私もウェブ上で知った言葉なのですが、性的行為を伴わないセクシュアルマイノリティ同士による関係性のことを指すそうです。現在は生まれた時に割り当てられた性別が女性の3人、そして私を合わせて4人で2022年7月頃からQPRを結んでいます。

性的指向は全員がアセクシュアル、恋愛的指向は一人ひとり異なり、私自身はクワロマンティック(他者に抱く感情を友情であるか恋愛感情であるか判断できない、あるいはしない)、そのほかアロマンティック(他者に恋愛感情を抱かない、あるいは極めて抱きにくい)、パンロマンティック(恋愛感情を抱く対象が性別に左右されることがない)、リスロマンティック(他者に恋愛感情を抱くが、対象者から恋愛感情を向けられることを望まない)です。

ーーQPRの関係性を結びたいと思ったきっかけを教えてください。

アセクシュアルを自認する前は、「結婚すれば独りで過ごすよりも人生が楽しくなるのかな」と思って婚活していたんですけど…返って悩んだり、疲れることが多くなって。ただ、誰かと関係性を築いて時間を共にすることの楽しさは知っていたので、その感情を今後感じられる機会が少なることが嫌だったんです。

簡潔に言うと幸せを感じる瞬間をもっと増やしたいという思いからQPRを結ぶという人生を選びました。

ーーということは、衣食住や家計についても共にしているんですか。

周囲の方たちにもよく聞かれることなのですが、衣食住も家計もそれぞれ独立した形となっています。「それじゃあ、友達とどう違うの?」と思われるかもしれませんが、4人全員が長期的にQPRの関係性を構築・継続することを望んでいる且つ、その意思を明確に表明していることが異なる点として挙げられると思います。

ーー関係性を結ぶ前後で目に見える変化が少ないからこそ、よりパートナーの内面が重視されると思います。その中でも現在の4人という形に落ち着いた経緯をお聞きしたいです。

2022年3月から5月までアセクシュアルの方達を対象としたカフェ「ARU」を運営していたとき、お客様との会話を通して気づかされたことがあって。それが1対1の関係性を結ぶことに抵抗があるということでした。

私の経験上、1対1の関係性で互いに依存してしまったことがあって、複数人でパートナー関係を結ぶという選択が合っていると思ったんです。それに当時はパートナーの必要性を感じ始めていたタイミングでもあったので、3人それぞれにQPRを結ぼうと提案をしました。

ーーどのような基準で3人に声をかけたのでしょうか。

ARUで知り合った人、あるいはそれ以前から知り合いだった人の中から声をかけたので、全く知らない人というわけではありません。Aスペクトラム当事者5~8人ほどのグループで、それぞれ旅行したりBBQしたりして親睦を深める中で、価値観や金銭感覚が合う、対話が出来る、共に楽しい生活が送れそうと感じた人にQPRについて話した結果、賛同してくれた3人と結んだという流れです。

人数に関しては移動や込み入った話もしやすそうという感覚から、私も含めて4人という形に落ち着きました。なので、3回告白したことになりますね(笑)。その後、初めて4人で喫茶店に集まり、話し合いの場を設けました。そして解散後、当日中に全員から結びたいと連絡があったので4人でQPRを結ぶことになりました。

クィアプラトニックリレーションシップを結んだアロマンティック当事者のインタビュー

ーー将来への不安からではなく、人生を楽しむための選択として結んだQPR。2年が経過した今、思うこと

ーーそもそもQPRという関係性を求めたのは、独りで生きていくかもしれない将来への不安が影響しているのですか。

そういうわけではないですね。経済的自立も出来ていますし、老後は福祉や医療サービスを利用することを想定しているため不安も少ないので…やっぱり一番は楽しく生きたいという気持ちがあったからだと思います。

一人で過ごすことも大好きですが、BBQやドライブ、旅行などをグループですることも大好きなんですよ。ただ、そういったイベントって親交のある人達が結婚したり、子供が生まれたりという理由で劇的に回数が減るじゃないですか。そうなると季節を感じたり、誰かとの繋がりを実感できたりする瞬間が少なくなってしまう。それが独りで生きていくことを選ばなかった理由です。

ーーなるほど。では、QPRを継続するために決めているルールはありますか。

必ず守らないといけないルールのようなものはありません。ただ、他者に恋愛感情を抱く人もいるので、QPR外で1対1の関係性を望む場合はQPRを継続しつつ、4人でリレーションシップを築いていくことを前向きに考えて欲しいとは思っています。

性的マジョリティにおいても結婚したからといって、親や兄弟、姉妹などと家族じゃなくなるというわけではないですよね。それと同じ感覚です。もしも、そういったことと向き合う時が来たらお互いの意思を尊重した最善の選択ができるよう、話し合いを大切にしたいです。

ーーQPRを結んで2年が経過しますが、関係性に変化はありますか。

結んだ当初からLINEグループはあるのですが、1年半ぐらいは頻繁に連絡を取るということはなくて。最近になって皆が仕事の相談や悩みなどを打ち明けるようになってきました。でも、そのスロウなペースが心地良いなとも思ったりしていて。敬語で話すのをやめたのもQPRを結んでから1年記念旅行の時に、一人が「敬語やめない?」と切り出してからですし(笑)。

お互いに寄りかかり過ぎず、だからと言ってピンと背筋を伸ばしているわけでもなく、良好な関係性を築けています。

ーーQPRを結んで以降、望んでいた生活には近づきましたか?

そう思っています。季節を感じる瞬間も増えましたし、イベントや年末年始の過ごし方も変わりました。あとは3人のことを考える時間が自然と増えましたね。旅行へ行ったときもお土産どうしようかなとか。仕事で失敗した時も落ち込みはしますが、私の存在を肯定してくれる人がいるし大丈夫と心が安定しやすくもなりました。

3人からも旅行に行ったり花火を見たりしたときに「大人になって一緒に旅行に行ける人がいるっていいね」「この花火を見たことは一生の思い出になるよ」と言ってもらえて、3人の生活も豊かになっていることが窺えて嬉しくなります。セクシュアリティに関する悩みも分かち合えますし。

ーーQPRの関係性はどのように変化していくのでしょうか。

2年経ちましたし「さん付け」でお互いを呼び合うことをやめて、より親しみのある呼び名で呼び会えればと思ってます(笑)。後はもう少し先にはなると思いますが、タイミングが良ければ一緒に住むという選択肢もいつかはあるのかなと。

もっと言えば、もし日本で同性婚が認められるようになればQPRの中で結婚するという選択肢もあるなと、私個人としては思ってます。というのも一人、将来にすごく不安を抱えている人がいて。それは医療的な面だったり、老後の生活だったりが起因になっているようなんですけど現状、医療現場では家族でなければ許されないこととかってたくさんあるじゃないですか。

もし私と婚姻関係を結ぶことで問題が解消されるならば、そういう選択肢もあるから大丈夫だよと伝えていて、その子も「そういう選択肢があることを伝えてくれることが嬉しい」と言ってくれました。

ー最後に、むらかみさん個人が行っていきたいことを教えてください。

ARUの運営を続けつつ本業である漫画家として、漫画を通してアセクシュアルというセクシュアリティの認知度向上に繋がることが出来たら嬉しいです。

今までコンペなどにもアセクシュアルを題材とした作品を数回出したのですが、恋愛要素がないと共感しづらいという理由で落ちることが多くて。そこを諦めずに続けていきたいです。

イラスト/中村あいさつ
文/芳賀たかし
記事制作/newTOKYO

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