LGBT支援に特化した国のコミュニティセンター事情とは? アメリカでの実体験から見えたマイノリティ社会の現状とケア体制。

日本国内にも大小様々なLGBTのためのコミュニティセンターや支援団体などがあるけれど、海外のLGBT支援の取り組みはどうなっているのだろうか。
そんな疑問を解決するべく、アメリカ・ニューヨーク州にあるNPO法人『RAINBOW HEIGHTS CLUB』のオフィスアシスタントを務めるToshieさんに、施設の概要や日本との違いなど、アメリカのLGBT事情について話を伺った。
その中で見えて来たのはLGBTを一括りにせず、より細分化されたケアによる多様な取り組みだった。

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NPO法人『RAINBOW HEIGHTS CLUB』で働くMusa Toshie Watanabeさん(写真左)とソーシャルワーカーでもある上司のJulie Cipollaさん(写真右)。

――「RAINBOW HEIGHTS CLUB」の取り組みと活動しようと思ったいきさつをお聞かせください。

LGBTで精神疾患を持つ方々が集まるコミュニティセンターで、同じような悩みを抱える方たちが交流できる場所を提供しています。州と市からの援助で賄われており、完全無料で利用いただくことができます。利用者には食事のサービスと2ドルの援助金の支払いもあり、少しでも精神的な面と生活面での改善に結びつけています。この活動のおかげもあって、会員になった方の80%は精神病に戻っていないという記録も出ていますので、この活動はとても意義のあるものだと思っています。

ここで活動するようになった経緯については、私自身が助けられたことが大きかったんです。実はアメリカに来た当初、レイプ被害にあっただけでなく監禁までされしてまい、精神的に不安定になってしまった時期があったのです。その時は収入もなく、どう生きていけば良いのかも分からなくなっていました。そんな時に、LGBTのコミュニティセンターに助けていただいて、どん底から這い上がることができたんです。今でこそ私も前向きに過ごせていますが、その経験を忘れることはありません。ですので、私がロールモデルとして同じような悩みを持つ仲間の手助けができればと、ここでの活動を始めました。

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コミュニティセンターではアクティビティが豊富に用意されており、自己表現もその一つ。利用者たちが制作した作品はセンター内に展示。

――実際にコミュニティセンターで活動されてのご苦労や喜びなどは教えてください。

ここはLGBTs支援活動の中でも「精神疾患を持つ方」のためのコミュニティセンターですので、利用者とコミュニケーションをうまくとることが一番難しいですね。どうしても自分だけの要求を求め被害者意識が強すぎて、明らかに間違っていることがあったりするのですが、それをどうよりよく理解してもらうかのテクニックが常に勉強だと思っています。それでもこの仕事は楽しいこともたくさんあるんです。現在会員が600人ほどおり、そのうち1日30人くらいが来所します。毎日違う方が利用しますし、多くの人との出会いもあって、何十人何百人と接することで、様々な価値観を知ることができます。個人主義のアメリカだからこそ、これが「普通」「当たり前」という概念がないので、常に新しい発見ばかりなんですよ。

そんな中で、皆さんが抱える悩みや利用目的は本当に様々です。ですのでここでは自由にしていただきたいです。グループセラピーに参加したり、のんびり過ごしたりなど、ここに来ることでその方々が安心できる場所であってほしいと思っています。それに精神疾患と聞くと暗いイメージを持たれがちですが、料理教室や遠足、ビンゴやカラオケ大会なども開催していて、明るい雰囲気なんです。その甲斐もあってか、利用者の90%は病院での精神疾患治療をする必要はないという結果にも繋がっています。

ちなみに利用者の中で一番多い悩みは差別に関することや、どうやって家族や友人にカミングアウトするかです。ここはクリニックではなく「場」の提供ですので、議題を解決するというよりは様々な意見のプロセス交換の中から、自分にあったものを探して当てはめていく流れになっています。

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利用者たちが思い思いに制作した絵画も展示されている。ジェンダーやLGBTプライド、好きな物などと内容はさまざまなようだ。

――アメリカでの支援の仕方と日本では何か違いはあるのでしょうか?

そもそも欧米とアジアでは文化が全く違うので、差別や偏見の捉え方が違うと思います。日本は明からさまなものではないのに対し、アメリカでは宗教的な理由も相まって暴力的です。LGBTフレンドリーというのがハッキリしてる分、その逆もハッキリしています。LGBTのパレードの規模や盛り上がりが盛大ですが、同じようにそれを妨害しようとする方々や乗り込んで抗議する方も確実にいるんです。

その分、アメリカにはLGBT専用のクリニックや専門機関が日本とは比べ物にならないほど充実していて、メインとなるカウンセリングもしっかり行われております。『ゲイ&レズビアンセンター』という大きい施設もあります。それぞれの団体で連携を取り合う体制が整い、細分化された悩みをさらに細かく分けられた団体が支援活動をしているのです。
ですので、『RAINBOW HEIGHTS CLUB』もLGBTという一括りの中でのケアではなく、その中でのさらに分けられた一つの支援になります。LGBTというだけで、悩みや相談内容はみなさん同じではありませんからね。

一方で日本ではその明からさまではないことが返って、LGBT支援活動や行政の遅れ、知識の不十分さに繋がっているのかもしれません。日本には日本の様式にあった取り組み方・進め方がきっとあると思いますので、今を生きる悩みを抱えた方々のケアが少しでも早く進んでいくことを切に願っています。

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■NPO法人RAINBOW HEIGHTS CLUB
精神疾患を抱えたLGBT一人ひとりが希望を持って生きていけるような、安心で快適な空間とサポートを提供することを目指す団体。
■ http://www.rainbowheights.org

■プロフィール/Musa Toshie Watanabe
トランスジェンダー(MTF)。ニューヨーク州ブルックリン在住。1998年よりアメリカを行き来し、2015年に帰化。NPO法人RAINBOW HEIGHTS CLUBのオフィスアシスタントとしてLGBTの精神疾患者のケアを行う一方で、LGBTの弁護士になるために勉学に励む。

撮影/EISUKE
インタビュー/村上ひろし
記事制作/newTOKYO

※この記事は、「自分らしく生きるプロジェクト」の一環によって制作されました。「自分らしく生きるプロジェクト」は、テレビでの番組放送やYouTubeでのライブ配信、インタビュー記事などを通じてLGBTへの理解を深め、すべての人が当たり前に自然体で生きていけるような社会創生に向けた活動を行っております。
https://jibun-rashiku.jp