「人と違う」はありふれた日常。多様性を伝えるセレクト本屋「Reading Mug」が名古屋市・西山商店街にオープン!

名古屋の本屋のReading Mugのインタビュー

名古屋駅から市営東山線でおよそ20分に位置する星ヶ丘駅。賑わう駅前を背に県道を下り、向かう先は10月13日にオープンしたばかりの多様性を伝えるセレクト本屋「Reading Mug」だ。

店主はグラフィックデザイナーとしても多くの出版物の装丁を手掛けている、キムラナオミさん。物心がついた頃から読書が大好きだったというキムラさんは、フラットな気づきを与えてくれる本の存在を子どもの頃から大切にして欲しいと話す。

多様性を伝える本屋のリーディングマグ

イギリスで目にした書店独自のコミュニティと、本を通したコミュニケーションに心惹かれて。

ーー本屋をオープンしたいという気持ちが芽生え始めたのは、いつ頃だったのでしょうか?

10年くらい前から、名古屋市で古本市というフリーマーケットのようなイベントがあり、デザイン資料として収集した洋書などを販売するために出店することにしました。そこで、多くの方が足を止めて下さり、一冊の本から始まるコミュニケーションが楽しいと思えたんです。

同じ頃、子どもと一緒にはじめた英語の学びの成果を知りたくて、一人旅でイギリスへ行きました。現地では書店巡りも目的の一つだったのですが、ほとんどの書店で地域の人が子どもたちに読み聞かせしたり、作家とイベントを行っていたりと本を売るだけに限らない、人と本が密接な関係で繋がるコミュニティが定着した在り方にとても興味を惹かれました。

この経験が印象深く残っていたのか、“いつか、あんな本屋さんをオープンできたらいいなぁ”とぼんやり考えることが多くなったんです。間もなくして出来る範囲内で行動に起こそうと、他サイトで取り扱いがなかったり、絶版に近い洋書をセレクトしたウェブショップを始めたところ、好評だったことから実店舗で本屋さんをオープンしたいという気持ちが芽生えました。

名古屋にある多様性の本屋のReading Mug

ーーそれから西山商店街にてオープンするまでに至った経緯を教えてください。

去年、友人と西山商店街を訪れたときに、名古屋市が主催する商店街活性化ワークショップ「ナゴヤ商店街オープン2020」のチラシを目にして、この場所が対象物件であることを知りました。

すぐ隣には児童数約1,300人の大きな小学校があり、本を通して子どもたちへ伝えたいことがある私にとって、とてもいい環境だなと思ったんです。その後、事業者候補としてエントリーし3ヶ月間のワークショップ最終日には、参加者が持ち寄った本の売り上げを市内の読書推進事業に寄付する「チャリティーブックショップ」を開催しました。

いろいろ検討した結果、この場所で本屋を開店することにしたものの、物件が広すぎてグラフィックデザインの仕事を兼業しながらの本屋運営が不安でした。その時チャリティブックショップイベントに来てくださったグルテンフリーのお菓子屋粉粉のなかじまさんが、シェアして出店してくださることになり、頑張って改装してオープンにこぎつけることが出来ました。

名古屋にある多様性を伝えるReading Mugの店内

子どもたちが楽しみつつフラットな価値観を身につけることは、多様な生き方を尊重し合える世の中にも近づく

ーー「多様性を伝える本屋」というコンセプトを新たに掲げたのには、どのような思いがあったのでしょうか?

20年ほど前に大好きな友人が同性愛者であることをカミングアウトしてくれました。その人は多くを語りませんでしたが、時を追うごとに親御さんへのカミングアウトで悩んだことや、恋人の話など少しですが当事者としての話を聞くことがありました。とてもパーソナルな話をしてくれることが嬉しかったのですが、同時に「当事者でないものの責任」について考えるようになりました。

今回多様性をコンセプトに本屋をオープンしたのは、性的なり、社会的なりの「マイノリティ」に属する人たちの助けになるように、それぞれの違いを受容できる土壌を育むことが大切なのでは?と考えたからです。そのためには子どもたちに伝えることが大切だという思いもあって「多様性」を軸として選書していこうと決めました。

Reading Mugの店主の木村さん

ーー確かにセレクトされた洋書や絵本は、ジェンダー・セクシュアリティ、貧困、人種などのトピックスを噛み砕き、楽しく学べるものが多く並んでいる印象があります。

何より、子どもが来て楽しめるような場所じゃないと足を運んでもらえませんので(笑)。「他の本屋さんでは見かけない、面白い本が並んでいるなぁ」と、訪れる人の価値観が広がるような本との出会いが生まれる場所としてありたいです。

それこそ今挙げてもらったようなトピックスに関して、この地域にも生きづらさを抱えながら登校している子どもたちもいることでしょう。1,300人というマンモス校かつ学区内の学習レベルが高いと有名な公立中学校が進学先となれば、中には「学力」という面でつまづいてしまう子どももゼロではないはず。

そういう子どもたちも含めて「自分が悩んでいたことは、この人と一緒かも?」「こういうこともできるんだ!」と本を通して多様な生き方・考え方に触れ人生の可能性を広げていくサードプレイスとして「Reading Mug」を心に留めてくれるようになればいいなと思っています。

名古屋のタイバーシティを伝える本屋のReading Mug

ーー今後はイギリスの書店のようにイベント開催も予定しているのでしょうか?

そうですね。政治や性など日常生活ではなかなか話す機会がないとされているトピックスを主題として、考えを交わす空間を提供するためにも、時にはトピックスに関して当事者性の強いゲストスピーカーを招くなど、構想段階ではありますが考えているところです。

例えばインタビュー前に少しお話した、LGBTQに関する本の装丁についても色々と意見を交わしてみたくて。イギリスの出版社から発行されたゲイ男性が主要人物となる本とその翻訳本の装丁を比べてみると、描かれた男性に大きな差があることが分かります。日本ではゲイが主要人物となる本となると甘美なタッチで内容とは相容れぬものになり、いわゆるBLのような先入観を持たせてしまうことは、その本を本当に必要としている人が手に取りにくいのではないかと違和感を抱いているんです。

こういった日常における気づきや疑問をそれぞれが持ち寄り話せる機会、そして物事に対してフラットな価値観が芽生える、育つ場所を提供する場所として『Reading Mug』コミュニティを私自身の勉強のためにも、築き上げていきたいです。

◆ Reading Mug
愛知県名古屋市名東区西山本通2-31
営業日:水曜日〜日曜日(11:00〜19:00)/定休日:月曜日&火曜日
最寄駅:東山線「星ヶ丘駅」5番出口 徒歩15分
Instagram@reading_mug

写真・インタビュー/芳賀たかし
記事制作/newTOKYO

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