レズビアンが直面する差別、中絶、産後うつ、生理。映画「セイント・フランシス」で見る、タブー視された女性のリアル

生理、避妊、中絶、妊娠、産後うつなど、女性の身体や心にまつわるリアルは、表で語られづらい。そんなタブー視された話題をユーモア交えて軽やかに描いた物語が、8月19日(金)より公開される。

主人公ブリジットは、34歳独身。
大学を1年で中退し、レストランの給仕として働く。何をすべきかわからない日々を送る中、ナニー(子育てサポート)の仕事を見つける。訪れたのは、6歳の少女フランシスを育てるレズビアンカップルの家。この出会いが、今までの冴えないブリジットの人生に光を差すことにーー。

レズビアンカップルとその子ども・フランシスの3人家族との出会いが、しがらみだらけのブリジットの心を解きほぐすーー。

今作の主演・脚本を務めたケリー・オサリヴァンは、20代の頃にベビーシッターとして働いていた経験を活かし、自伝的要素を織り込んで脚本を執筆。「女性に生理がなかったら地球には誰も存在しないのに、若い頃から生理のことは隠すように教育されている」と語り、キレイな部分だけが映し出されている現状に疑問を抱き、女性の身体や心の本音を映し出したという。

今年6月、長年アメリカで女性の権利とされてきた人工妊娠中絶権を厳しく規制する判決を米連邦最高裁が下したことが、日本でも大きく報道された。世の中では、いまだに女性が中絶することに対して恥ずべきこととして捉えられ、テレビや映画では終始中絶がネガティブな側面としてクローズアップされていることは否めない。

その点、この映画は今までの映画業界における表象を覆すともいえる。なぜならば、今作では中絶がトラウマやネガティブな要素として描かれていないからだ。むしろ、躊躇することなく真正面からアプローチしている。

ブリジットが確信をもって中絶を選択したことに対しては、その後も後悔や罪悪感を抱くことはなかった。しかし、両親に中絶を知られることを恐れたり、パートナーのジェイスが親友のチャドにその出来事を話したことに対してよく思わなかったりしたシーンでは、中絶がタブー視されている現実を気にしていないわけではないことが伺える。

そして、ナニー先のレズビアン女性・アニーに中絶手術後による出血を発見されてしまった際も、ブリジットは中絶した事実に対して否定的に思われることを覚悟していた。だが、予想とは裏腹に、アニーは体調が優れないブリジットを心配して「病院に行かないことはひどいと思う。けど中絶が悪いと言っているのではない」と一言。

そこで、ブリジットは社会が勝手に決めつけた“何か”に縛られていたことに気付き、涙が溢れたのだ。ブリジットが自身を苦しめていた社会の決めつけとは、中絶だけでなく「34歳」「独身女性」「定職がない」といったレッテルもある。キャリア、結婚、子どもなど、周りからの期待に応えられないことから、出来損ないのように感じる。

30代に突入すると、結婚していない人は「余り物」「訳あり」のように言われることもあるが、ブリジットのように本人がそれを望まぬケースもあるのだ。

そしてフランシスは、子どもながらのフィルターがない視点で社会の前提を問う役割を見事に果たしている。6歳の少女が当たり前のように「彼氏、彼女はいる?」と質問したり、生理についての理解、一人ひとりの身体に合わせてタンポンや月経カップを選択すべきことについても述べたりしている光景には衝撃を受ける鑑賞者もいるであろう。

フランシスと関わっていくうちに、ブリジットは人を性別や属性ではなく、「個」として認識するという新しい概念を知ったのだ。その点、映画の中ではあえてレズビアンカップルの抱える問題を、セクシュアリティについてではなく、多くのカップルが経験している産後うつ、子育てによるストレス、仕事の忙しさに焦点を置いたことは先駆的だ。

ブリジットは今までの既成概念が覆され、今まで抱えていたプレッシャーを解放する。まさにセイント(聖人)であるフランシスの存在があったからこそだ。映画を鑑賞する前と後で、タイトル「セイント・フランシス」の解釈は変化するかもしれない。

ブリジットのストーリー以外にも、フェミニズム、人種差別、同性愛嫌悪、階級差別、ミレニアル世代といったタイムリーなトピックが盛り込まれている。

自分ごとであり、もしかしたら周りにも多く存在するかもしれない。生身の人間のもつ感情や人権。根本的な人間のあり方を問う「セイント・フランシス」。そのリアルを知ることで、自分にとっての当たり前がひっくり返る。

■セイント・フランシス
2022年8月19日(金)よりヒューマントラスト有楽町、新宿武蔵野館、シネクイントほか全国ロードショー
https://www.hark3.com/frances/

監督:アレックス・トンプソン 脚本:ケリー・オサリヴァン/出演:ケリー・オサリヴァン、ラモーナ・エディス・ウィリアムズ、チャーリン・アルヴァレス、マックス・リプシッツ、リリ ー・モジェク 2019 年/アメリカ映画/英語/101 分/ビスタサイズ/5.1ch デジタル/カラー 字幕翻訳:⼭⽥⿓/配給:ハーク 配給協⼒:FLICKK (C) 2019 SAINT FRANCES LLC ALL RIGHTS RESERVED

文/Honoka Yamasaki
記事制作/newTOKYO