2017年に東京国際映画祭で上映された、切ない三角関係を描いた韓国映画『詩人の恋』が11月13日(金)より全国順次公開スタート。磯の香り漂う済州島の美しい景色を舞台に、30代後半の売れない詩人がはじめての恋に戸惑いながら、誰かを信じ守りたいと願う「愛」の物語。
はじめての気持ちと忘れられない君。恋とは?夫婦の形とは?幸せとは何か?――
韓国の南の海に浮かぶ済州島。平凡な日常の中で、妊活をはじめた妻をよそに、詩人のヤン・イクチュン扮するヒョン・テッキがドーナツ屋で働く青年・セユンに心惹かれていく。自分にない何かを持っていた彼に、詩人は複雑な感情を抱いていく…。
この映画の主題となる「愛の形」は、誰かを守り、責任を取り、最後まで見守って、信じるということ。青年に惹かれる詩人を軸に、セクシュアリティへの問いだけでなく、子どもを授かれない夫婦の悩み、介護・貧困問題など広義の愛についても描いている。
だが物語は決して暗くも悲劇的過ぎないのがポイント。人生の選択をどうするのか考えさせてくれる中に、コミカルなタッチがあって笑えるし、みだらな妄想を膨らませるシーンも織り混ざっている。「人生は悲しいだけではないし楽しいだけでもない」とキム・ヤンヒ監督の喜劇と悲劇を自在に行き来する手腕が光る。
また特に印象的なのが、不器用な主要キャラの人間くささ。そして、島の風景や風に乗って伝わる線引きできない感情の揺らぎ。テッキのセユンを見つめる眼差しは、どおしても歯痒く胸が痛くなる一方、ドーナツを頬張るテッキの可愛らしさや、お腹ぽっこりな憎めないキャラクターはもう…愛おしいとしか言いようがない。
◆キム・ヤンヒ監督インタビュー
――きわどい性的な表現のセリフは出てきますが、テッキとセユンの肉体的な交わりは描かれていません。あえてそのようにしたのでしょうか?
初めはキスシーンもありました。この物語がどこまでいけるのか、ざーっとシナリオを書いてみて、肉体的な愛を描写するシーンが映画全体のトーンやリアリティにそぐわず、私が作りたいものではない気がして表現を抑えました。愛の形はさまざまですし、ふたりの関係を同性愛に限定したくはなかったのです。この映画は花ばかり詠っていた無垢な詩人が、世界の影に直面する物語なのです。非現実的な人物が現実に足を踏み入れる時、抱く感情の変化に注目したいと思いました。詩人が言葉を扱う職業なだけあり、詩人の言葉と妻や青年が詩人に向ける現実の言葉の衝突にフォーカスを当てたかったため、肉体的な描写が本作のためになるとは思いませんでした。自分が愛情を持つ相手が幸せなら嬉しいですし、その人を守ってあげたい、真の絆を持ちたい。そんな、より広い意味の愛を描きたいと思いました。(韓国公開時のインタビューより)
◆テッキ役/ヤン・イクチュンインタビュー
――セユンに抱いた感情が愛なのか同情なのか、あいまいに描かれていると思います。
誰かが書いたレビューの中に“詩人は青年だから愛したのではなく、詩人が愛することになったのが青年だった”という言葉があって、印象的でした。監督が俳優をキャスティングする時、ただ「この役をうまく演じるだろう」という期待だけで選ぶことはしません。その人に対する好感が根底にあるのです。そうしてキャスティングをして一緒に作品を作るうちに、深い感情を抱くようになることもあります。同じように詩人も、自分にない面を持った人に会って、好奇心がわいたのです。好奇心だけでは終わらないもので、特別な感情を抱くようになります。セユンの家庭環境や周辺の雰囲気が少しずつ目に入ってくるのでしょう。昼はドーナツ店で働く色白で美しく背の高い青年が、夜になるとじめじめしてカビ臭く荒っぽい姿を見せます。父親が長い間病床に伏していることや、主に母親に育てられたのはテッキと青年の共通点でした。だから最初の好奇心があらゆる感情に発展しながら、青年を見つめるようになったのです。テッキもそんな経験が初めてなので、自らの感情を定義できずに混乱してしまいます。ただ例えるなら、赤いハートに近い感情だったと思います。 (韓国公開時のインタビューより)
◆ガンスン役/チョン・へジンインタビュー
――ガンスンを一番気の毒に思った瞬間はどこでしょうか?
ガンスンは自分にないものを持っている夫が、何をしようとずっと認めて支えてきました。自分はミカンを採り、冬にはミカンの皮でお茶を作り、売れる物は何でも売って。そんなガンスンが深夜にひとり起きて、煙草を吸いながら夫に言うシーンがあります。「昔は結婚さえできれば、それでよかった」「でも今は全部手に入れたい」と。詩人のような物書きは率直に物を言うように見えますが、実は近しい人には本心を打ち明けないような気がします。テッキは特にそうです。ガンスンが率直な発言をすると、いつも「それは違う」と言います。詩のように、現実が隠喩で覆われていてこそ美しいと思っているからです。(韓国公開時のインタビューより)
◆セユン役/チョン・ガラムインタビュー
――青年を演じながら難しい点はどこだったのでしょうか。
感情の流れを理解するのがとても難しい作品でした。あまりに複雑で、僕の経験不足が表に出てしまう。でも一方で、セユンというキャラクターを演じることでチャレンジへの意欲が湧きました。まだ何をするにも挑戦だと思います。失敗するかもしれないし成功するかもしれない、結果がどうであれ僕はその状況で最善を尽くしたいです。自分に足りないものが見えると、より懸命に頑張ろうと思います。(韓国公開時のインタビューより)
詩人の涙は誰が拭うのか――
閉鎖的な島で生きるために妻・ガンスンが選んだ選択。詩人の家族のために青年が選んだ結末。そして、平凡な日常の中でふと溢れる感情を表現したエンディング。深い余韻の残る最後のシーンをぜひ映画館で味わってみてください。詩人の下す責任と心の中に生き続ける想いにハンカチ必至!
■ 映画:詩人の恋
2020年11月13日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
配給:エスパース・サロウ
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■ https://shijin.espace-sarou.com
ストーリー/自然豊かな済州島で生まれ育った詩人のテッキ(ヤン・イクチュン)は、ここ数年スランプだ。稼げない彼を支える妻ガンスン(チョン・ヘジン)が妊活を始めたことから、テッキの人生に波が立ちはじめる。乏精子症と診断され、詩も浮かばず思い悩む彼を救ったのは、港に開店したドーナツ屋で働く美青年セユン(チョン・ガラム)だった。彼のつぶやきが詩の種となり、新しい詩の世界への扉を開いてくれたのだ。もっと彼を知りたい―。30代後半にして初めて芽生えた“守ってあげたい”という感情を隠しながら、テッキは孤独を抱えるセユンと心を通わせていく……。
記事制作/newTOKYO