【10月7日個展開催】日本の土着文化と男性美に魅了された、shinji horimuraが描く現代アートの起点と生き様。

ゲイの視線で捉えた日本男児はむせかえるような色気を放ちながらもどこかポップ。褌姿で祭りや神事に携わる益荒男(マスラオ)を中心に、エスニックテイストを取り入れた男性ヌードを描くshinji horimuraさん。実は今の和の画材を用いた現代アートを描くようになったのはつい5年ほど前から。

今回は、10月7日から開催される個展にあわせ、元々アート志望ではなかった彼の半生を垣間見ながら、海外での自分探しとアートの出会いについてをうかがった。ふとしたことがきっかけで自分のやりたいこと方向性が見つかる、そんな生き方、誰にでもあるのではないでしょうか?

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ーーアートに興味を持ち始めたきっかけと、エスニックテイストの原点。

子どもの頃から日本を早く出たかったんです。なんか日本が大嫌いやったんですよ。元々縛られることが苦手で、右に倣え的なことが自分にとってすごく居心地が悪かった。だからずっとそういう生活から逃れたいと思って海外に目を向けていました。

……でも学校ではそういうことをおくびにも出さずに大人しい優等生をずっと演じていて。内心は冒険したいし、反抗したいと悶々としながらも。
それで、高校二年の終わりにどうにか現状を打破しようと、オーストラリアのブリスベンに一年間留学したんです。

超ド田舎で、日本人は僕だけって環境でしたけど、日本の外に出れたこと、そしてこれまでに味わったことのなかった自由な環境に触れたことで、やっと自分らしさに出会えたような気がしました。
ちなみにゲイであることはすでに自覚していたんですけど、留学先で行動に起こしたことは残念ながらなかったですね。今思えば色々体験しておけば良かったとは思いますが(笑)。

実際にアートに興味を示すようになったのはこの頃から。アートのカリキュラムがあったんですけど、そこですごく褒められて。それに一年間の総括で各科目の成績優秀者が選ばれるときも主席になり表彰されたんです。それをきっかけに芸術やデザインの分野に興味を持ち始めたのが最初でした。

帰国後、大学ではスワヒリ語を専攻。人が知らない世界を見たい!知りたい!という好奇心と、当時R&Bをよく聴いていたこともあって、マイナー路線を攻めたい!ルーツを探りたい!という気持ちから選び、卒論でアメリカの黒人音楽についてを書くために、ニューヨークに短期留学で行ったんです。
……そしたら街の魅力にハマってしまって。

ーー実りある10年間、がむしゃらに生きた渡米生活の果て。

日本での就職活動をピタリと止め、大学卒業後はバイトに明け暮れながらお金を貯めて、25歳の時に渡米。
最初はインテリアデザイン学校に通い、数ヶ月後には立体や空間デザインに魅力を感じたこともあって、ファッション工科大学のディスプレイ学科に入学。卒業後は、運良く大手家具量販のコングロマリット企業に就職し、ディスプレイデザイナーとして走り回る毎日を送りました。
ですが、これでグリーンカードが取得できるという矢先に、パワハラを受けて辞めざるを得なくなってしまったんです……。

そこから3年間、日本には絶対に帰りたくなかったし、ニューヨークでの居心地が最高だったので不法滞在をしました(笑)。その間は日本人が経営する指圧学校に通いながらスキルを磨き、どうにか暮らす日々。
せっかく積み上げてきたキャリアを捨てることにはなったけど、パワハラを受け続け、人にコントロールされながら生きていくぐらいなら、不法滞在を選択したとしても悔いはない、なんとしても自分の人生は自分で切り開いてやる!ぐらいの覚悟でいたんです。日本に戻ることだけはなんとしても避けたかった。それをバネに頑張っていました。

しかし、ここでも岐路に立たされる運命に。
友達とマイアミ旅行をすることになり、長距離列車で現地に向かっていたら国境警備員が立っていて。案の定、不法滞在が見つかり逮捕。で、そのまま刑務所へ(笑)。
刑務所では「ショーシャンクの空に」や「OZ/オズ」「プリズン・ブレイク」みたいな映画やドラマなどでよくある、囚人たちに性処理的な役割で廻されるみたいなことを、実は内心、期待してたんですが、残念ながらそういうこともなく、みんな賭けトランプに勤しんでましたね(笑)。

その後、裁判で退去強制が下り、すっからかんで帰国してきました。

ーー海外生活を経て気付かされた日本文化の奥深さと、作風の誕生秘話。

帰国後はうまく職に就くことができず、ニューヨークで培ったスキルが活かせるゲイマッサージ屋に転身。軌道に乗ってきたあたりで、再び絵を描きはじめたんです。
そしたらお客さんが気に入って購入してくださったり、来日していたドイツ人の方がコレクターになってくれたりして、アートとマッサージが同じラインに重なり、メールアートに向き合うようになったんです。

コレクターがミュンヘンで作品を売り出すと、絵の耐久性が求められるようになりました。「画用紙ではなく絶対に和紙を使うべきだ」と。最初は聞く耳持たずだったのですが、実際に和紙に描いてみるとその違いが歴然だと身をもって知りました。耐久性も塗り重ねも独特で素晴らしいと。それから、日本のことを改めて勉強したり調べるようになって、その魅力に引かれていったんです。

日本の画材って、紙にしろ絵の具にしてろ、日本の風土に合わせて生まれ使われてきたものだと、改めて知れば知るほど好きになり、さらに日本の男性に美とエロさ逞しさの魅力を感じるようになりました。そしてそこに元々描いてきたエスニックな要素が融合していきました。
あれだけ嫌いだったはずの「日本」だったのに、日本男児や祭りなど土着文化をモチーフとして真剣に向き合って描くようになるとは、まさにディスカバリージャパン!!
……それと同時に自分の好きな男性のタイプもいつの間にか日本人が上位になりました(笑)。

絵を描くプロセスは、モデルの動作を動画で記録してから、その一連の動きの何気ない一コマを絵に描き起こしています。ポーズ写真にはない躍動感を感じられるので。
その躍動感の部分を、自分自身も体感したくて今は太鼓を習ってます。太鼓は奥が深く、楽しいですね。それに太鼓を習ってから、絵を描くときのモチベーションが違うなってのも感じさせられます。それだけにこれからは弓道などの日本スポーツ、文楽や歌舞伎、大衆演劇などの文化、祭りは全国の裸祭りや秘祭とかを追いかけていきたいと思っています。
体験できることは自分も一緒にやって、その経験や見たものなどを絵に反映させていきたいですね。

◆shinji horimura個展/エスニックジャパンvol.2
無骨で雄臭い日本男児たちを繊細かつ大胆に描いた作品展。エスニックな日本をテーマに、和の画材を用いながらストリートアートやグラフィックデザインの要素も取り入れた現代アートが並ぶ。今回は大型作品も初展示。

会期:2021年10月7日(木)~10日(日)
時間:11:00〜19:00 ※最終日は17:00まで
場所:ギャラリー1616(大阪府大阪市浪速区恵美須東1-16-16)
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インタビュー・文/仲谷暢之
記事掲載/newTOKYO