杉山文野さんの家族のカタチ。
様々な人が家族を作れる選択肢に繋がる、インタビュー。

家族になる条件とは何なのだろうか?
家族という概念はどのようなものなのだろうか?

ゲイの友人から精子提供を受け、パートナー女性との間に2人の子どもを授かったトランス男性の杉山文野さん。今年3月には新刊エッセイ『3人で親になってみたーママとパパ、ときどきゴンちゃんー』(毎日新聞出版)を出版。

パートナー女性だけでなく、精子提供者を交えた3人で子育てをする「新しい家族の形」を選択した杉山文野さんに、その道のりをうかがった。

──僕が選んだ生き方

僕は髭も生えていて見た目は男性ですが、実は戸籍は女性のままなんです。自分らしく生きるためにホルモン投与をして胸は取りましたが、身体に負担がかかる子宮卵巣摘出はしない選択をしました。
現在の日本では子宮卵巣摘出手術をしなければ生殖機能がある(出産できる)とみなされ、性別変更ができないんです。

本来、法律とは「誰もが生きやすい社会」を目指すための制度なので、その制度ために身体に大きな負担をかけて手術をしければ性別が変更できない現在の法律は、時代に合わせて改善しなければならないと思っています。

そのため、僕はパートナーと共に2人の子どもを育てていますが、戸籍上の結婚はできません。

──子どもを迎える決断

2012年にトランス男性の前田さん(性別変更をしてパートナー女性と既婚)の子どもに関する裁判のお手伝いをする機会がありました。

ーー第三者の精子提供により前田さんの奥さんが産んだ子どもが摘出子と認められなかったことに対して裁判を起こし、最高裁の判決で勝訴した。

前田さんご夫妻とお子さんに会ったとき、とても幸せそうだったんです。もちろんお子さんと前田さんに血縁関係はありませんが、これを家族と言わずしてなんと言うのか?と思いました。

以前の僕は「子どもは無理だよなぁ」と諦めていたのですが、前田さんとの出会いでゆくゆくは自分も子どもが欲しい、と思うようになったんです。

──親が多くて困ることはない

実際に子どもを授かるためには、選択肢がいくつかありました。
パートナーが産むのか、養子を迎えるのか。精子提供を受ける場合、知らない人と知人のどちらにするか……。パートナーと話し合った結果、僕たちは知人からの精子提供での出産に決めました。

子どもの未来のためにも父親は分かっていたほうが良いと考えていました。そんな時、古くからの友人で自身も子どもが欲しいと思っていたゲイの松中権さん(ゴンちゃん)が身近にいたため、一緒に親になるという話し合いをすることになりました。

それから、僕とパートナーとゴンちゃんの3人で弁護士事務所に相談に行き、いろいろな角度からの問題点や可能性をたくさん話し合いました。

「親が少なくて困ることはあると思いますが、多すぎて困ることはあまりないですよ。子どもにとっては血の繋がりよりも、自分に真剣に向き合ってくれる大人がどれだけいるか、の方が重要です」とおっしゃった弁護士さんの言葉が印象的で、なるほど!と思いました。

また、いくら想像をしても、実際に生まれないと分からないことも多かったので、とにかく3人で協力してチャレンジしてみようと決意したんです。

──3人で子育てをする

子どもを授かる話し合いから数年後、無事に1人目の子が、その2年後には2人目の子が生まれました。僕らの場合は、先にもお答えしたように、精子提供者のゴンちゃんも一緒に子育てに関わってもらっています。

僕とパートナーが暮らす家で子育てをしていますが、養育費は3分割、保育園の送り迎えや土日の休みなど、ゴンちゃんも積極的に子育てに携わっています。もちろん家族写真にはゴンちゃんも一緒に写っています。いわゆるパパが2人いる状態ですね。

僕らの選んだ「家族」の形には賛否両論があって当たり前だと思うし、当事者である僕らも不安はゼロではなかったのですが、家族で話し合い、子どもを含めて皆さんに知ってもらう決断をしました。

元々、僕自身はメディア露出が多かったのですが、パートナーは「文野の活動は応援しているけど、好きになった人がたまたまトランスジェンダーの活動をしていただけで、私自身が社会に発信したいメッセージはないかも」ということで、これまでメディアには顔を出していませんでした。

メディアから取材を受けるようになると、パートナーの話も聞きたいと言われるようになったのですが、とある記者の方から「社会に発信するメッセージがない、というのも一つのメッセージなんですよ」と言われ、パートナーも納得、メディアに出る決断をしました。

また、子どものメディア露出に関してはすごい悩んで、3人でたくさん話し合いをしました。子どもが変な目で見られたらどうしよう、いじめられたらどうしよう、などいろんな不安がありましたが、この子が大きくなったときに「自分って隠されるような存在だったんだ」と思って欲しくないと思ったんです。

──僕らの家族の形

最初は手探りだったり分からないことに戸惑うこともたくさんありましたが、実際に2児の子育てをしてみて、今は不安だなんて言っていられないくらい、毎日の生活が慌ただしくもあり、幸せでもあります。3人それぞれの父も母も孫にメロメロです(笑)。

こう言う家族の形もあっていい。

皆さんの周りにたくさんいらっしゃる結婚をして家族を築く方々や国際結婚、養子縁組や母子家庭、多様な家族の形の中のひとつに、僕らが選んだ「家族の形」もあるんだと知ってもらえれば嬉しいなと思っています。

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◆プロフィール/杉山文野
1981年東京都生まれ。フェンシング元女子日本代表。東京レインボープライド共同代表、日本オリンピック委員会(JOC)理事、株式会社ニューキャンパス代表取締役。早稲田大学大学院教育学研修科修士課程修了。日本初となる渋谷区・同性パートナーシップ条例に関わり、渋谷区男女平等・多様性社会推進会議委員も務める。現在は父として子育にも奮闘中。

取材・インタビュー/井上健斗
写真提供/杉山文野
記事制作/newTOKYO