スワンソング──。
白鳥がこの世を去る際に、最も美しい声で歌うとされる伝説から生まれた、この言葉。
アートや技に身を捧げた者たちが、人生の最後に残した作品、最後のパフォーマンス、つまり有終の美が「スワンソング」と表現される──。(映画『スワンソング』公式サイトより)
ヘアメイクドレッサーとして活躍していたが、今では現役を退き、老人ホームでひっそりと暮らすパット。彼にある日、思わぬ大きな仕事の依頼がやってくるところから物語は始まる。
その依頼とは、かつて顧客でもあり親友でもあったリタが遺言に残していた「パットに死化粧を」というものだった。リタの葬儀を前に、仕事への情熱も自信もなくしていた上に、リタに対して複雑な思いを抱えていたパットの心は揺れる。
タイトル通り、パットは有終の美を飾れるのか!? 何かに突き動かされるように老人ホームを抜け出し、老いたパットが人生最後の仕事と決断をするまでのロードムービーである。
パットの人生は波瀾万丈だった。ヘアメイクの世界で成功し、最愛のパートナー・デビッドとの暮らしは幸せそのものだったはずだが、自分の部下に顧客は奪われ、デビッドはエイズによって他界し、デビッドと暮らした家さえ、ゲイカップルだったことで相続もできず手放すしかなかった。
すべてを失い、時代に取り残されたかのように思えたパットだが、リタの葬儀へと向かう道すがら、パットはいろんな人たちと出会い、いろんな思いが交錯し、自分が残してきたものと最後に残せるものは何なのかが見えてくる。
現在のアメリカのように同性婚が認められていない頃に若き時代を生きたパットの苦難は、ゲイ当事者であり、それなりに年齢を重ねた観客にとっては身につまされるものがあるが、最後まで気高く立ち振る舞い、時にはゲイならではのウィットに富んだトーク(暴言含む)で笑いもとっていくパットの生き様はカッコ良くて粋だ。
各シーンで流れる音楽のチョイスもゲイテイストに溢れていて、重い気持ちにさせられそうなシーンでも何だか救われるような感覚になる。
人生においては、辛く悲しいことの方が多いのが現実であろう。だが、そんな人生を涙しながらもサバイブする意味は、最後の散りゆく時に分かるのかもしれない。そして、その散りゆく時もゴージャスかつ華麗であれたら本望だ。
そう思わせてくれる映画『スワンソング』、何度も噛み締めながら観たい作品である。
■スワンソング
2022年8月26日(金)シネマスイッチ銀座、シネマート新宿、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
https://swansong-movie.jp
ストーリー/現役生活を遠の昔に退き、老人ホームでひっそりと暮らすパットは思わぬ依頼を受ける。かつての顧客で、街で一番の金持ちであるリタが、遺言で「パットに死化粧を」とお願いしていたのだ。ゲイとして生き、最愛のパートナーであるデビッドを早くにエイズで失っていたパットは、リタの遺言によってさまざまな思い出が去来する。すっかり忘れていた生涯の仕事への情熱や、友人でもあるリタへの複雑な思い、そして自身の過去と現在…。ヘアメイクドレッサーとして活躍してきたパトリック・ピッツェンバーガー、通称“ミスター・パット”にとっての「スワンソング」は、はたしてわだかまりを残したまま亡くなってしまった親友であり顧客のリタを、天国へと送り届ける仕事になるのか——。
監督:トッド・スティーブンス/出演:ウド・キアー、ジェニファー・クーリッジ、マイケル・ユーリー、リンダ・エヴァンス/2021年/アメリカ/英語/105分/カラー/ビスタ/5.1ch/原題:SWAN SONG/日本語字幕:小泉真祐/配給:カルチュア・パブリッシャーズ © 2021 Swan Song Film LLC
記事制作/アロム(newTOKYO)