後のフレディー・マーキュリーにも引き継がれた、肉体を誇張したゲイのセックスシンボルの魅力。
今ではステレオタイプのゲイとして認識されている「レザーを身に纏ったマッチョ」はいかにして誕生したのか?
それは、性的マイノリティに対する差別が激しかった時代に生きたひとりのゲイの鉛筆一本から始まった物語。
同性愛が「犯罪」だった時代
今では考えられないけれど、つい近年まであらゆる国で同性愛は「病気」もしくは「犯罪」と考えられていた。
日本は鎖国が長く、近代になるまで欧米文化の思想に影響を受けていなかったから、世界でも稀に見る「同性愛が法的に禁止されたことがない国」ではあるけれど、決して性的マイノリティに寛容な国だったわけではない。
江戸時代まではお稚児のような同性愛行為が文化のひとつだったという文献も残っているけれど、戦争後の日本は状況が一変、欧米文化に大きく影響された日本でも同性愛は差別されるようになった。つまりタイミングが悪ければ、日本もかつての欧米のように同性愛者を犯罪とみなす国になっていたかもしれなかった!?
トム・オブ・フィンランドが描いたものとは?
かつて、性的マイノリティであることを隠さなくては生きられなかった時代に生まれたゲイカルチャーは、今も時代を超えた強いメッセージ性を放っている。
その代表とも言えるのが、トム・オブ・フィンランド。
魅力的な逞しい男性たちが奔放な恋の駆け引きやセックスを繰り広げる、ゲイだけの楽園。そこに描かれていたのはエロスや欲望の対象としての男性だけでなく、自由のある世界だった。
だからこそ、世界中のゲイに注目され、支持され、求められて偉大なアーティストとなったトム・オブ・フィンランドの半生を描いた今作は、今に生きるLGBTにも様々なメッセージを伝えてくれる。
生涯のパートナーとの出会いや、長年の苦難の末に掴み取った愛と栄光。彼の生き方は、今の日本に必要な活動源なのかもしれない。
トム・オブ・フィンランドのアートに魅了されたことのある人も、これまで作品を見たことがなかった人も、同人誌でエロ漫画を描いている人も、この映画を通して、いま一度「ゲイアートとはただのエロスではない」ことを感じ取ってほしい。
映画:トム・オブ・フィンランド
2019年8月2日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
ストーリー / 第二次世界大戦後のフィンランド。帰還兵のトウコ・ラークソネンは、鍵をかけた自室で戦場で出会った男たちの逞しい姿を描き続ける日々を送っていた。当時のフィンランドで同性愛は法律で禁止されていたため、トウコは警察の取り締まりに怯えながら夜の公園でセックスの相手を探すか、自分でファンタジーを作り出す以外に、欲望を発散させる方法がなかった。広告の絵を描く仕事を得たことをきっかけに、昼間は広告、夜は自分の作品に没頭する暮らしが始まった。肉体労働者や兵士、流行りのバイカーファッションなどを取り入れたトウコの作品はアンダーグラウンドの同性愛者コミュニティで支持されるようになる。その中には、後にトウコの生涯の恋人となるダンサーのヴェリ・マキネンも含まれていた。
1957年、トウコが「トム・オブ・フィンランド」の作家名でアメリカのフィットネス雑誌に送った「ゲイが理想とする男性像」を描いた絵が表紙を飾り、やがてトム・オブ・フィンランドは世界に知れ渡るアーティストとなっていく。1978年、アメリカでの展覧会が大成功し、トウコはかつてないほどの開放感を味わう。フィンランドに帰国したトウコは、自由に生きる権利についてヴェリに熱弁を振るうが、まもなくしてヴェリは喉頭がんで帰らぬ人となる。数年後のアメリカ。エイズが流行し、同性愛者に対するバッシングが激化する中、ゲイカルチャーを先導する立場となったトム・オブ・フィンランドことトウコは、堂々とした姿で仲間の前に現れ、自由とプライドの意味を問いかける―。
監督 / ドメ・カルコスキ
キャスト / ペッカ・ストラング、ジェシカ・グラボウスキー、ラウリ・ティルカネン
上映時間 / 16分 製作国 / フィンランド、スウェーデン、デンマーク、ドイツ
配給・宣伝 / マジックアワー
http://www.magichour.co.jp/tomoffinland/
©Helsinki-filmi Oy, 2017
記事作成 / みさおはるき Twitter@harukisskiss