自由を愛したムーミンの作者・トーベの半生を描いた映画が公開。女性同士の恋愛が創作活動に与えた影響とは?

自由を愛したムーミンの作者・トーベの半生を描いた映画『TOVE/トーベ』が、2021年10月1日(金)から全国公開が決定。

世界中で愛される名作『ムーミン』を生み出した女性アーティスト、トーベ・ヤンソン。意外に知られていない彼女の人生は、自由を渇望しその想いを作品に昇華していく人生だった。

そんなトーベの半生を描いた本作は、本国フィンランドで大ヒットとなり、フィンランド映画としては史上最高のオープニング成績を記録するほどであり、第93回アカデミー賞国際長編映画賞フィンランド代表へ選出されたのをはじめ、数々の映画賞を席巻している。

──保守的な美術業界、親子の軋轢、禁じられた同性愛、何にも縛られないトーベという人物。

日本でも幾度となくアニメ化され人気を博してきた『ムーミン』シリーズ。
そこに登場するキャラクターは、主役のムーミンをはじめ、みんな見た目も性別も年齢も様々だが、個性的でありつつ優しく平和な世界観である。

そんな作風からは想像つかないほど、生みの親であるトーベは、本作で描かれる1940〜50年代に生きる女性としては相当型破りで破天荒な生き方を選んできた人物だった。

当時は第二次世界大戦下。
著名な彫刻家である父親に反対されながらも、子ども向けの童話である『ムーミン』を描きはじめ、終戦するとひとりで廃墟と化したアトリエを借りて作品作りに打ち込んだ。

さらに、今でこそフィンランドは性的少数者への理解が進み同性婚も可能な国となったが、かつてはロシア統治下にあった影響で同性愛には処罰を下す刑法が存在していたのにも関わらず、トーベは女性演出家のヴィヴィカ・バンドラーと出会い、激しい恋愛とセックスに溺れていく。

──あのキャラクターも実は…。「ムーミン」とリンクするトーベ本人の理想と人生観

トーベとヴィヴィカが送りあった手紙の中では、世間の目をかいくぐるために「トフスラン」「ビフスラン」と呼び合った。それは、『ムーミン』作品の中に登場する、二人の間でしか通じない言語をもつ不思議な小人のカップルと同じ名前だったのだ。
そう、一見穏やかな『ムーミン』の世界観には、実は奔放なトーベ本人の体験や感情、願いや夢が色濃く反映されていたのである。

孤独と自由を愛するスナフキンなんてとくに世の中の規範に縛られないトーベの思考そのものだと合点がいくが、本作のあるシーンで、トーベは「ムーミンはなぜ怒らないのか?」と質問されるのだが、その答えにムーミンもまたトーベ本人の鏡であることがうかがえるだろう。

──今の時代への示唆。自分にとって大切なものを見つめ直し、解放する歓びを知る映画

本作をいわゆるレズビアン映画だと呼ぶことは憚れる。それは、トーベがあまりにも自由に生きることを望んだ女性だったからだ。

ただただ同じ女性との恋愛の渦に飲み込まれ翻弄されながらも、同時に『ムーミン』の世界がどんどん膨らんで前に進んでいく有様が面白い。

春になり、長い冬眠を終えて目を覚ましだすムーミン谷の仲間たちのように、この映画を観た後は、自分の中で眠っていた何かを解放し呼び覚ますことができるかもしれない。

◆ TOVE/トーベ
2021年10月1日(金)から新宿武蔵野館、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか 全国ロードショー
https://klockworx-v.com/tove/

ストーリー/第二次世界大戦下のフィンランド・ヘルシンキ。激しい戦火の中、画家トーベ・ヤンソンは自分を慰めるように、不思議な「ムーミントロール」の物語を描き始める。やがて戦争が終わると、彼女は爆撃でほとんど廃墟と化したアトリエを借り、本業である絵画制作に打ち込んでいくのだが、著名な彫刻家でもある厳格な父との軋轢、保守的な美術界との葛藤の中で満たされない日々を送っていた。それでも、若き芸術家たちとの目まぐるしいパーティーや恋愛、様々な経験を経て、自由を渇望するトーベの強い思いはムーミンの物語とともに大きく膨らんでゆく。そんな中、彼女は舞台演出家のヴィヴィカ・バンドラーと出会い激しい恋に落ちる。それはムーミンの物語、そしてトーベ自身の運命の歯車が大きく動き始めた瞬間だった。

配給/クロックワークス
2020年/フィンランド・スウェーデン/カラー/ビスタ/5.1ch/103分
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記事制作/アロム(newTOKYO)