“恐るべき子ども”と称された現代アメリカ文学の寵児、トールマン・カポーティ。当時の華やかな社交界に生きたセレブリティたちや伝説のパーティ『黒と白の舞踏会』の秘蔵映像、新旧インタビューを交え、死後36年を経て語られる未完の問題作『叶えられた祈り』の執筆の裏側に迫ったドキュメンタリーが、2020年11月6日(金)より全国順次公開スタート。
若かりし頃の記憶――。街の片隅にある小さな喫茶店。読みかけのトルーマン・カポーティの短編集に栞をはさみ、ため息交じりに2杯目のコーヒーを啜っていると、店内のラジオから『ムーン・リバー』が流れていることに気が付く。映画『ティファニーで朝食を』の劇中でギターを片手にオードリー・ヘプバーンが歌ったこの曲は、音域が狭い彼女のために1オクターブと1音で書かれたものだ。ちょっとした偶然がまるで必然だったかのような、不思議な感覚。
再び手元に目線を落として頁をめくると、ニューヨークで様々な男を虜にしたホリー・ゴライトリーの物語『ティファニーで朝食を』は予想を裏切り、映画とは違う結末を迎えていた。
あーんもう。つい詩的に若かりし頃の思い出を語っちゃったけど、これでも筆者昔は文ゲイ少女だったの。まぁそれはおいといて、トルーマン・カポーティの名前は知らなくても、『ティファニーで朝食を』はあまりにも有名よね。
『ジバンシィ』の黒いドレスとゴージャスなアクセサリーというエレガントな装いにやさぐれたサングラス姿。カップコーヒーを片手にクロワッサンをかじりながらニューヨーク五番街のティファニーを眺める冒頭のシーン。ティファニーブルーの大きな瞳が描かれたアイマスクとタッセルになっている耳栓で、けだるそうにベッドから起きるホリー・ゴライトリー(オードリー・ヘプバーン)の可愛さったら…。
当初はマリリン・モンローで映画化される予定だった『ティファニーで朝食を』の主人公ホリー・ゴライトリーの職業は、トルーマン・カポーティによれば「アメリカン・ゲイシャ」。モデルとなった人物は母親やチャップリンの妻など、トルーマン・カポーティを取り巻く女性たちと、彼自身だったのだそう。生前、来日した際には三島由紀夫とも会っているんだって。
ここまで書いたらお分かりのように、トルーマン・カポーティはずばり、ゲイなんです。わずか17歳で『ザ・ニューヨーカー』のスタッフとしてメディアに身を起き、19歳で発表した小説『ミリアム』でオー・ヘンリー賞を受賞。『アンファン・テリブル(恐るべき子ども)』と評された時代の寵児であり、『ティファニーで朝食を』(58)、『冷血』(66)など多くの名作を世に送り出した20世紀を代表する文豪であり、社交界で注目を集めたお騒がせセレブであり、アル中&ヤク中で、カルチャーシーンを牽引する天才で、ファッショニスタ。
今で言うところのスーパーインフルエンサーだった彼だけど、後期はパトロンだったセレブらのスキャンダルを交えて上流社会を辛辣に描いた未完の作品『叶えられた祈り』を執筆して、社交界を追放されてしまうんです。もしもトルーマン・カポーティが現代に生きていたら炎上どころか爆発レベルよね…。
貴重な生前のフィルムと取材テープで構成された今作は、謎に満ちたトルーマン・カポーティという一人のゲイの生き様を鮮烈に描き出したもの。「普段はジムに通って自撮りで野郎アピールしているけど、本当はエステとヨガに通いたいの」とか「ゲイバーであいみょん歌ってホゲたいけど…男ができなくなるからOfficial髭男dism歌ってます」と自分を偽っているそこのアナタ。自分の人生なのに、それで良いの?(個人的すぎね)
映画『トルーマン・カポーティ 真実のテープ』が伝えてくれるメッセージが本当のアナタを解放してくれることでしょう。
■ 映画:トルーマン・カポーティ 真実のテープ
2020年11月6日(金)よりBunkamuraル・シネマほか全国順次公開
配給:ミモザフィルムズ
© 2019, Hatch House Media Ltd.
■ http://capotetapes-movie.com/
記事制作/みさおはるき(newTOKYO)