出版社でファッション誌の編集者として働く浩輔(鈴木亮平)は、友人に勧められ駆け出しのフィットネストレーナー・龍太(宮沢氷魚)のもとでパーソナルトレーニングを受けることに。何気ない時間を過ごすうちに心通わせていく2人だったが、いつからかトレーニング後、一人暮らしには十分過ぎるほど広い浩輔の自宅で身体を重ねることが常となっていた。
ある日、龍太は「終わりにしたい」と曖昧な関係性の解消を告げる。唐突な言葉に戸惑いつつも理由を聞いた浩輔は後日、決して悪くはない条件を龍太に提示したうえ、一緒にいようと提案をするーー。
ーー充実した日々を過ごす浩輔、生きるために日々を乗り切る龍太。二人は愛し合うことで、互いに心の穴を埋めていくのだが…。
14歳の時に母親を無くした田舎育ちの浩輔は上京後、自分を押し殺しながら生きていた思春期の頃とは裏腹に、出版社でファッション誌の編集者として働きながら何不自由ない日々を過ごしている。
毎朝、クラシックを流しながらコーヒーを淹れ、ウォークインクローゼットに整然と並ぶハイブランドの洋服からコーディネートを組み、仕上げにアイブロウで眉を整える。
その風貌は満ち満ちる自信を感じさせると同時に、どこか虚勢を張って生きているようにも映る。
しかし、持ち前の人当たりの良さもあって仕事は順調、プライベートでもゲイコミュニティの友人にも恵まれ、新宿二丁目界隈に集まっては他愛のない話に花を咲かせる日も珍しくはなかった。
母親を支えながら駆け出しのパーソナルトレーナーとして働く龍太を初めて知ったのも、そんな1日の終わりにいつもの友人らと食事をしていたとき。
勧められるがまま、マンツーマンでトレーニングを受けることになった浩輔だったが、その時間を通して次第に龍太と心通わせていく。
あるトレーニングの帰り道、龍太から不意にキスをされた浩輔は戸惑いつつも自宅へと招き入れると、龍太から激しいアプローチを受け、二人は初めて体を重ねる。以降、そんな関係性がダラダラと続いた。
「終わりにしたい」。前触れもなく別れを告げた龍太は深刻な事情を打ち明けた後、姿を消す。
日々、焦燥感に苛まれながらも、誰か愛することで満たされる喜びを教えてくれた龍太を諦められない浩輔は、ついに龍太を見つけ出し、思いを告白する。
そして「俺が龍太を買う」と生活をともにすることを条件に、応援金と称して経済的に安定するまで月10万円を渡すことを提案。元々、思いを寄せていた龍太は縋るような思いで、その提案を受け入れる。
愛情、そして金銭で結ばれた2人の生活が始まるのだが、幸せな日々はある日突然断たれてしまい……。
ーー愛とは。答えのない問いに悩みながらも、愛する喜びを手放せない浩輔の行く先は。
浩輔にとって愛とは、与えること。応援金に始まり、龍太の母親への手土産、お下がりのジャケット、軽自動車、一玉1000円の梨ーー。形に見える何かを与えることで愛を表現し、多少強引にでも受け取ってもらうことで心を満たしていく。
一辺倒な行為に思えるが、浩輔にとっては愛情であると同時に繋がりを維持、そして再確認しているような行為であることも、時折覗かせるのだ。
一方、龍太は玄関でのキスや「好き」といった、誰にも変えがたい言動で浩輔に愛を伝えるが、どこか寂しげだ。
前述したような愛情表現然り、経済的な格差、母親の生死、ゲイコミュニティの繋がり、浩輔にしかできない仕事、必ずしも龍太でなくてもいい仕事…次第に生き方や境遇の違いが浮き彫りになるが、そういった中でも二人は互いに持っていないものを埋めるように同じ時間を過ごしていく。
決して愛だけで結ばれた関係とは言い難いが、同時にこの世に愛だけで結ばれた関係性があるのだろうか、そう考えずにもいられなくなる。そもそも、愛とは何なのか。「求められたことをしてあげること」「誰かから与えられるもの」「会っていない時も相手を想うこと」…。
誰かにとっては前述したものが正解であり、また誰かにとっては不正解で答えのない問いではあるが、愛は確かに利己心(エゴ)を内包していて、それがこの世の全ての愛の始まりにも思えてくる。
高橋真の自伝的作品「エゴイスト」を実写化した本作。龍太や龍太の母、そして浩輔自身に対する愛の移り変わりにフォーカスを当てた物語だが、随所に散りばめられたユーモア溢れるシーンも魅力の一つ。
例えば、ちあきなおみ「夜へ急ぐ人」に合わせて、ド派手なファーコートを旗めせながら歌い踊る鈴木亮平の姿は後にも先にも観ることはないだろう。
また良輔の友人役として出演しているドラァグクイーンのドリアン・ロロブリジーダらは、ウィットに富んだセリフ回しでゲイ同士の飲み会という何気ないシーンにリアリティを与えている。
そのほか良輔の父親役に柄本明、龍太の母親役に阿川佐和子を迎えるなど俳優陣にも注目だ。
観終えた後、愛する人、あるいはかつて愛した人の顔を思い浮かべてしまう本作は、2023年2月10日(金)から全国ロードショーがスタートしている。
■エゴイスト
2023年2月10日(金)より全国ロードショー
https://egoist-movie.com/
Twitter@egoist_movie
出演:鈴木亮平 宮沢氷魚 原作:高山真「エゴイスト」(小学館刊) 監督・脚本:松永大司 脚本:狗飼恭子 LGBTQ+inclusive director:ミヤタ廉 制作プロダクション:ROBOT 製作幹事・配給:東京テアトル 製作:「エゴイスト」製作委員会(東京テアトル/日活/ライツキューブ/ROBOT) <R-15> © 2023 高山真・小学館/「エゴイスト」製作委員会
文/芳賀たかし
記事制作/newTOKYO