何がどうあれば、健康? GOGOダンサー・Usakさんと、ちょい真面目に考えるHIVとゲイコミュニティ

2017年から GOGOダンサーとしてのキャリアをスタートさせたUsakさん。鍛え上げられた身体を力強くしなやかに魅せるダンスパフォーマンスで、新宿二丁目や渋谷、六本木といった都内有数のナイトスポットをはじめ、地方や海外のゲイイベントでも多くの人々を楽しませている。

最近ではリアリティショーへの出演で活躍の場を広げているが、多忙な日々を送るなかでも健康を維持するための生活を心がけているという。
世界エイズデー(12/1)に合わせ、東京都HIV予防月間(11/16~12/15)でもある今、Usakさんが心身ともに健康な日々を送るために必要だと感じることを、自身の活動やこれまでの経験を踏まえて語ってもらった。

ーー「GOGOダンサーという存在を多くの人に求めてもらえるように」。リアリティショーへの出演をきっかけに、新たな目標を見つけたUsakさん

ーーGOGOダンサーとして活動するまでの経緯を教えてください。

地元で開催されていたイベントのステージで、パフォーマンスをする人達が歓声を浴びる姿を見て、格好良いと感じたのがきっかけで、20歳ぐらいにダンスを始めました。
その後、ゲイコミュニティを中心に活躍するGOGOダンサーという存在を知り、実際にゲイイベントで彼らのパフォーマンスを目の当たりにしたとき、すごく輝いて見えて。憧れの対象ではなく、自分のダンス経験を生かせるGOGOダンサーになりたいという思いが次第に強くなりました。

ーーUsakさんご自身がゲイであると自認したのは、ダンスを始めた後だったんですね。

高校卒業間近ぐらいには気づきはじめていましたが、自認したのは23歳のときでした。それまでは周囲の人間関係にも影響されて「女性と交際しなければいけない」と感じていたため、なんとなく良い雰囲気になった女性と付き合っていたんです。
ただ、交際中に一人の男性に惹かれてその人との生活を考えるうち、自分が男性として男性に魅力を感じるセクシュアリティであることを受け入れるようになっていきました。女性には本当に申し訳なかったのですが、自分に正直に生きることにしたんです。

ゲイであることに対して深刻に悩むことはありませんでしたが、当時の職場では、同僚との会話のなかで結婚や子どもの将来の話題になるとついていけなかったので、なるべく話を振られないように身を潜めていましたね。
当時は自分がゲイだと知られてはいけないというプレッシャーが、少なからず心の中にあったのかもしれません。

ーーリアリティショーに出演したことが、Usakさんの生き方を知るきっかけになった知人も多かったのではないでしょうか。

そうですね。僕は自分からセクシュアリティをオープンにすることはなかったので、番組を観た知人からSNSを通じて「観たよ~」と連絡があったこともありましたが、それ以上に詮索されることはなく、なかには久しぶりに交流できた人もいたので、良いきっかけにもなりました。

唯一、両親には先日帰省した際に直接伝えました。両親は番組のことを知らなかったので、そこから話をすると、後日「番組観たよ、こういう活動をしているんだね」と自然と受け入れてくれて。息子が東京でどのような仕事をしているのか知って安心しただろうし、僕自身もやりたいことをして生きている姿を知ってもらえて嬉しかったです。

ーー多くの人に知ってもらえたことで、仕事にも大きな影響があったのではないでしょうか。

そうですね。東京だけでなく、日本各地や海外からGOGOダンサーとしてのオファーが増えたことはとても嬉しいですし、今後はGOGOダンサーという存在自体が場所や時間帯、業界に捉われずさまざまなステージでパフォーマンスを求められるエンターテイメント性のある職業として成長していくことを願っています。また、リアリティショーへの出演をきっかけに、趣味として続けていたイラストにたくさんの方達から反応をいただけたので、GOGOダンサーの活動と並行しながら、イラストの仕事をはじめ、いろいろなことにチャレンジしていきたいです。

今回のインタビューも心身の健康やHIVについて話をするということで、実は少し緊張していて。これまで特別な人生を歩んできたわけではありませんが、リアリティショーへの出演をきっかけにこれまで以上に自分を多くの方々に知ってもらえた今、情報を発信する立場として少しでも誰かの役に立てればと思っています。

ーー「HIVの誤った理解は差別や偏見だけでなく、命に関わること」。ゲイコミュニティを中心とする活動で得た知識

ーー最近はメディアへの露出も増えて、忙しい日々を過ごしているかと思いますが、心身ともに健康を維持するために行っていることを教えてください。

名古屋から上京して4年になりますが、身体の健康を保つために週5回、1日2時間ほどウェイトトレーニングを行うことやジュースを飲まないことをルーティンにしています。お菓子は…ごくごくたまに罪悪感に苛まれながら食べています(笑)。精神的な健康においてはゲイコミュニティ内で信頼できる友人の存在が大きな支えになっています。

最近はSNSを通じてのコミュニケーションが当たり前になりつつありますが、僕は実際の会話からじっくりとお互いを理解し合う時間を大切にしたいんですよ。それを経て築いた友人関係って、よりお互いのことを思いやれる感覚があるというか。信頼している人に信頼されていることを実感できるつながりを大事にしたいですね。

ーーセクシュアルヘルスという面から大切にしていることはありますか。

性行為については、20代の頃から一時的な欲求を満たすためだけに相手を探すようなことはなかったですし、そもそも挿入を伴う性行為というのもあまり経験してきていないので、特別意識することは少なかったと思います。なので、上京するまでは「HIV感染予防にはコンドームを使用することが大切」というような基本的な知識しかなかったです。

ただ、新宿二丁目を中心としたゲイコミュニティで仕事をするようになってからは、自然とHIVに関する知識が増えていきました。イベントで配布されるチラシやコンドームから、U=Uの概念を知るなど、環境によって自分の知識や意識がここまで変わるのかと実感しました。YouTubeが一般的に活用されはじめて、HIV感染予防や検査に関するコンテンツを目にする機会が増えたことも、関心が高まった要因の一つかもしれません。

※:治療によって血液中のウイルス量を検出限界値未満(Undetectable)に継続的に抑えていれば性行為をしてもパートナーに感染させない(Untransmittable)状態のこと1-4)。1)Rodger AJ, et al.:JAMA 2016;316(2):171-181./2)Rodger AJ, et al.:Lancet 2019;393(10189):2428-2438./3)Bavinton BR, et al.:Lancet HIV 2018;5(8):e438-e447./4)令和5年度 厚生労働行政推進調査事業費補助金エイズ対策政策研究事業 HIV感染症および血友病におけるチーム医療の構築と医療水準の向上を目指した研究班:抗HIV治療ガイドライン, 2024年3月

ーー「HIV/AIDS GAP6」が発表したHIV/AIDSに存在する社会の理解のギャップに関するデータを見て、どのように思いましたか。

*:認定NPO法人ぷれいす東京、NPO法人日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラス(JaNP+)、社会福祉法人はばたき福祉事業団、NPO法人akta/community center akta、community center ZEL、認定NPO法人魅惑的倶楽部、ギリアド・サイエンシズ株式会社で構成されるコンソーシアム

「HIVに感染しているかもしれない」と不安に感じている人が、「1」や「4」のような誤った理解をしていた場合、治療が遅れて命に関わる深刻な事態につながる可能性も考えられますよね。社会的な視点から見ても、「2」や「3」のような誤った理解は、特にゲイやバイセクシュアルの方々への偏見や差別を招きかねません。
「1」や「3」のような誤解が重なることで、ゲイやバイセクシュアルの方々が「自身のセクシュアリティを隠して生きなくてはいけない」「自分らしく生きることができない」という深刻な悩みを抱える原因にもなっている気がします。

ゲイコミュニティにいると、ヘテロセクシュアルの方々よりもHIVに関する話題に触れる機会が多いかもしれませんが、ジェンダーやセクシュアリティに関係なく誰にでも感染する可能性があるウイルスであることを、皆さんにも忘れてほしくないなと思います。

ーーHIV検査を受けることは、自分と大切な人を守るための第一歩

ーー先ほど少し触れましたが、HIV検査やHIV陽性の結果が出た後の治療についてお伺いします。UsakさんはHIV検査を受けたことがありますか?

名古屋に住んでいた頃、LGBTQ+関連のイベントの一環として、無料・匿名で受けられるHIV検査が実施されていました。その機会を利用して、数時間後に結果がわかる即日検査を受けました。というのも、その日から遡って3ヵ月前ぐらいにHIV感染の可能性がある行為をしてしまい、不安があったからです。

結果告知の際はとても緊張しましたが、陰性であることが確認できてホッとしましたね。それ以降、日常生活のなかで不安を感じることがなくなりましたし、医療スタッフの方々も丁寧に対応してくださった記憶があって。この経験を通じて、HIV検査を受けることが自身の安心や健康を守るために大切だと感じました。

ーー現在は早期発見・早期治療でウイルス量を検出限界値未満に継続的に抑えていれば、感染以前とほぼ変わらない生活を平均寿命まで送ることができるといわれています。

だからこそ、まずはHIV検査を受けることが大切だと思います。HIV検査は無料・匿名かつプライバシーが確保された空間で受けられるので、誰でも安心して受けることができます。このことを一人でも多くの人に知ってもらいたいです。自分が今どのような状態かを知ることは、自分自身だけでなく、大切な人を守ることにも直結すると思います。

今回のインタビューを受けるにあたって、HIVに関する情報を調べたのですが、2023年のHIV/AIDS新規報告数は960件であったと報告されています7。自身がHIV陽性であることを把握しておらず、医療機関を受診できていない人や検査を受けていない人がまだまだ多いと推定されることから、他人事ではないなと感じました。

7)厚生労働省エイズ動向委員会:令和5(2023)年エイズ発生動向年報 https://api-net.jfap.or.jp/status/japan/nenpo.html (2024年11月21日閲覧)

ーー今回のインタビューを通じて、HIVに関する捉え方に変化はありましたか?

大きく変わりました。HIVの感染経路は挿入を伴う性行為だけではなく、さまざまな要因が重なって感染する可能性があることや、HIV検査を受けるかどうかの選択が、今後の人生に大きな影響を与えることを改めて認識する機会になりました。HIVに感染しないことが望ましいですが、検査を受けることに対して、過度に不安や恐れを感じる必要はないかなと思います。

もし、感染の可能性が疑われる性行為をしてしまったとしても、検査を受けることに一歩踏み出すことが、自分を大切にするための第一歩だと思います。また、HIV陽性であったとしても、適切な治療を受けることで、これまでとほとんど変わらない生活を続けることができ、パートナーと安全な性生活を楽しむこともできます。そして、平均寿命まで生きられるということを知ったうえで、HIV検査を受けることを前向きに判断してもらえたら嬉しいです。

ーー最後に読者の方へメッセージをお願いします。

以前は相手の見た目や性格から「この人なら大丈夫だろう」、「まさかこの人がHIVに感染しているはずがない」と判断し、体の関係を持つことがありました。しかし、今振り返ると、こうした判断には根拠がなく全く意味のない判断だったと思います。自分でも気づかずにHIVに感染している場合もありますし、感染していることを周囲に打ち明けられず隠している人もいるかもしれません。それを僕は見た目や雰囲気で「大丈夫」と決めつけていたのです。また、周囲にHIV陽性者がいなかったこともあり、自分には遠い話だと感じていたかもしれません。

ですが、これまでに、HIV陽性の方と接した経験から、そうした都合の良い考え方が間違っていたと気づきました。そして、この機会にHIVについて改めて学ぶ必要があると感じました。
HIVは身近なものであり、この記事を読んでくださっている皆さんの周りにも、HIV陽性の方がいるかもしれません。もし、大切な人が勇気を出して自身がHIV陽性であることを打ち明けてくれたとき、正しい知識がなければ理解を示すことや受け入れることが難しいかもしれません。

だからこそ、HIVについて正しく理解し、HIV検査を受けて自分自身の現状を把握することが重要だと思います。自分自身の現状を知らなければ、予防も対策もできません。まずは気軽にHIV検査を受けてみてはどうでしょうか。

繰り返しになりますが、検査を受けることは、自分自身だけでなく、周囲の人達を守ることにもつながります。検査を受けた後は、検査や治療に関する正しい情報を共有したり、相手が安心できる言葉をかけるなどの行動を取ることが、HIVの感染拡大を抑え、新規感染者の減少にも寄与するはず。僕は、心身ともに健やかであることが本当の健康だと考えています。そのことを忘れずに、日々を楽しんでください!

◆Usak
岐阜県出身。1987年8月29日生まれ。Netflixにて配信中の男性同士のリアリティシリーズ『ボーイフレンド』に出演。日本のみならず海外でも多くのファンを持つGOGOダンサー。鍛え抜かれた肉体美とパフォーマンスで多くのファンを魅了する一方、番組内で見せたイラストや純粋で可愛い素顔とのギャップが話題を呼んでいる。

Netflixリアリティシリーズ『ボーイフレンド』
Netflixにて独占配信中

企画/株式会社メディカルレビュー社
取材・文/芳賀たかし(newTOKYO)
提供/ギリアド・サイエンシズ株式会社

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