【11/1公開】トランスジェンダー男性のミクロな日常を描いた短編映画「息子と呼ぶ日まで」。主役は演技未経験の当事者、合田貴将さん。

息子と呼ぶ日までで主役を務めたトランスジェンダーの合田貴将さん

日本初、一般公募のオーディションから選ばれたトランスジェンダー当事者が主役を演じる短編映画『息子と呼ぶ日まで』が2024年11月より公開。ダイバーシティをテーマとした短編映画9本を集めた上映イベント「Diversity CINEMA WEEK(ダイバーシティシネマウィーク)」の一環として、2週間の上映を予定している。

9月6日には一足早く試写会が行われ、アフタートークには主役の合田貴将さん、監督の黒川鮎美さんがゲストとして登場。トランスジェンダー当事者としての経験や映画に込める想いを語った。

トランスジェンダー当事者が主役の映画「息子と呼ぶ日まで」

ーー「当事者の声を届けたい」トランスジェンダーのリアルを描く

『息子と呼ぶ日まで』は、合田さん演じる不動産屋勤務のトランスジェンダー男性・翔太の人生を描くヒューマンドラマ。カミングアウトをきっかけに、田舎に住む父親と疎遠となり、一般社会で生きていく中でトランスジェンダー当事者としての偏見や違和感に直面する。パートナーや家族と向き合っていく中で、翔太やその周りの登場人物たちが「本当の幸せとは何か」を見つけることにーー。

2023年に『手のひらのパズル』という主人公のセクシュアリティの移り変わりを描いた作品を制作した黒川監督。昨今、トランスジェンダーに関するニュースを目にするようになったが、中には事実とは違った形での報道、ヘイトや誹謗中傷もあると話した。続けて「歪んだニュースが真実として捉えられるのではなく、当事者の声にもっと耳を傾けるべき。そのために、私には何ができるかと考えた時、この作品を通して伝えていこうと思いました」と語った。

トランスジェンダー当事者の声が届きづらい現状がある中で、合田さんは本作のオーディションに参加した際、「もしオーディションに落ちたら、二度と会えないかもしれないので感謝を伝えたいです。この作品を見て、勇気をもらう当事者がたくさんいると思います。トランスを映画の題材にしてくださり、ありがとうございます」と泣きながらお礼を伝えたという。

トランスジェンダー当事者が主役の映画「息子と呼ぶ日まで」

ーー演技未経験のトランスジェンダー当事者を主人公にした理由

黒川監督は「プロの俳優が芝居をするという重要性よりも、当事者が当事者役を演じる事の重要性の方が高い」と考え、当事者に絞った一般公募のオーディションを開催。応募した15人の中から選ばれた合田さんは「30代後半のトランスジェンダー男性で不動産業界で働く社会人だ。主人公の翔太と自身があまりにもぴったりだったため、悩んだ末に締め切り直前に応募した」とのこと。

合田さんは、特に印象的な出来事として、父親にトランスジェンダーとしての自身の気持ちを伝えるシーンを挙げた。「撮影当日の朝、父親に電話をしました。泣きそうになりながら電話を切ったので、撮影が始まる3時間くらいはずっと気持ちのコントロールができない状態でした」と、よりリアルな描写に近づけるための裏話を語った。

トランスジェンダー当事者が主役の映画「息子と呼ぶ日まで」

ーートランスジェンダー当事者として行った就活を振り返る合田さん

トーク後半では、実際にトランスジェンダー当事者としての経験を語った。合田さんは、自身がトランスジェンダーであることを受け入れられなかった10代の頃は「こういう風に“生まれてきてしまった”自分」と、自身を責めていたそう。

「トランスジェンダーはかつては「性同一性障害」と言われていましたが、精神的な障害というより身体障害に近いと考えていて、心は男性なのに体が女性であることに悩む人が多くいます」と、当事者視点で当時の心境を明かした。

二度の転職を経て、現在は不動産会社で働いている合田さん。転職時に不安があったものの、面接官と話をする中で「この人なら大丈夫だ」と感じ、性別のこと、将来やりたいことを伝えた。会社でLGBTQ+向けの不動産仲介サービスを作りたいという想いを伝えたところ、面接官は「素晴らしいです。採用です」と即答されたそうだ。

これまでに合田さんは、さまざまなメディアで「トランスジェンダーでも普通に働けます。他の社員と同じように、トランスジェンダーであることはマイナスではない」と発信してきた。そして現在、所属している会社からは「トランスジェンダーであることを“強み”として働きましょう」という言葉をもらったとのこと。

これまでの経験を経て、合田さんは「実際にトランスジェンダーであることを受け入れてくれる企業や人がいる。そんなことを伝えていきたい」と話した。

トランスジェンダー当事者が主役の映画「息子と呼ぶ日まで」

ーーそれぞれの「当たり前」を再提起

最後に、『息子と呼ぶ日まで』上映に向けて、どんな人に観て欲しいかを聞かれると、合田さんは「本作はトランスジェンダーの心境の変化だけでなく、彼らを取り巻く人々の心情にも深く焦点を当てた作品です。だからこそ、当事者だけでなく、幅広い人々に見ていただきたいと思っています」と答えた。

黒川監督は「今回の作品では、1人のトランスジェンダーの日常を描いていています。戸籍は女性のままだけど名前を変えている方もいれば、戸籍を変えた方、ホルモン治療を受けている方、受けていない方もいる。トランスジェンダーにも本当に多様な人々がいます。この作品が正解ではなく、このような人もいるということを、多くの方に知ってほしいです」と話した。

ーー「Diversity CINEMA WEEK」のテーマである「誰もが何かのマイノリティ」が伝えるように、私たちは何かしらのマイノリティ。『息子と呼ぶ日まで』は、自分の中にある「当たり前」を問い直すきっかけを与えてくれる作品だ。

■息子と呼ぶ日まで 
11月1日(金)より池袋シネマ・ロサにて開催の“Diversity CINEMA WEEK”にて2週間上映 
https://musukotoyobuhimade.studio.site/

出演:合田貴将、正木佐和、鮎川桃果、秋吉織栄、黒川鮎美、高橋璃央、鮫島れおな、夢香、荒牧奈津希/升毅 監督·脚本:黒川鮎美 プロデューサー:秋吉織栄 音楽:高堀耕志 撮影監督:鈴木 佑介 照明:中上歩 録音:大町響槻 監督補:伊藤梢 助監督:亀山睦木 制作:原野貴洸 牟田朋晃 撮影助手:佐藤綾真 北山壮平 制作助手:岡山友哉 ヘアメイク:国分玲香 スタイリスト:春原愛子 企画・製作・配給 株式会社BAMIRI 株式会社STELLA WORKS 【2024/日本/25分/カラー/ステレオ/16:9/DCP】 © 息子と呼ぶ日まで製作実行委員会

文/Honoka Yamasaki
記事制作/newTOKYO

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