ゲイコミュニティの中でもよく耳にする老後への不安。同性カップルが養子として子どもを迎え家庭を築くという選択を取りにくい環境下で、「自分の老後の世話をしてくれる人は…?」とふと頭をよぎることも多いだろう。
しかし、そんなゲイの老後生活の選択肢を広げてくれる嬉しいニュースが入ってきた。東京都・立川市に月々4万円ほどから入居できるゲイフレンドリーな高齢住宅がオープンするという。
『メゾン・ド・ヒミコ』(ゲイのための老人ホームを舞台にした映画)を彷彿とさせるキャッチーな住宅の仕掛け人であり、自らもゲイのアライアンサーズ株式会社代表・久保わたるさんにその全貌を伺った。
老い先に不安を抱えた人たちが自殺や違法ドラッグに溺れる人が周りにいても、驚かなくなった自分にハッとした瞬間。
ーーゲイの老後生活に問題意識を持ち始めたのは、いつ頃だったのでしょうか。
大学在学中、ゲイバーでアルバイトをしていたのですが、ママが私の母と同じ年齢だったものですから、訪れるお客さんも中高年のゲイがほとんど。彼らの生き様のようなものをリアルに感じられる場所であっただけに、日頃からゲイの老後の生活について考える時間は多かったです。
自分にも必ず訪れる老後をより具体的に想像し、問題意識へと変わったのは2013年にママが倒れたこと、そして老い先を悲観した年の近い友人が「ゲイって若いうちはいいけど、歳を取ったら爪弾きにされて終わりじゃん」と一言を残し、命を絶ってしまったことが大きいです。
家庭を築くことが難しいゲイにとって老い先への不安は強い。それならば私が彼らが抱える老後生活の住居や暮らしという面で解決していきたいと思ったんです。そして今回、その想いに共感して下さった新宿区や個人の皆様、提携企業のバックアップをいただきながら、立川近郊にゲイフレンドリーな高齢者向け住宅をオープンできる運びとなりました。
「生涯をゲイコミュニティの中で全うできたら楽しいじゃないですか」。孤独死の問題をコミュニティ構築で解決に導く
ーーゲイの高齢者を招き見学会を開催されたとのことですが、印象に残ったことはありますか?
大きな孤独感を抱えて生きざるを得ない生活サイクルの中にいるということでしょうか。YouTubeの動画に出ている人に話しかけながらご飯を食べている人もいれば、ゲイバーのママと話して以来一週間ぶりに他人と話したという人もいて特定のコミュニティに属していない人が多かったのが印象に残っています。
背景には50〜70代である彼らが、まだ働き盛りだった頃、男は結婚しないと半人前と言われ同性愛はタブーとされた社会によって、同じセクシュアリティの人との出会いが希薄だったということが大きく影響しているのかもしれません。当時はSNSのような横の繋がりを作れるプラットフォームなんてありませんでしたから。
ーーそういった意味では、この老人ホームでは他室の住人とコミュニケーションを図れる機会はあったりするのでしょうか?
食事の時間をともに過ごせるラウンジや定期イベントを開催するなどは考えておりますが、自分のセクシュアリティを隠さず自己開示できる環境から、自然発生的に他の住人とのコミュニケーションが生まれる場となれば嬉しいです。
緩やかな繋がりはお互いの命を守るセーフティネットとしても機能し、少なくとも孤独死という最期を迎えることはないのかなと思っています。
当住宅では、入院や亡くなった際に必ず必要とされる身元引受人、保証人として諸手続きを行うことが可能なので、万が一のことがあった際もその点はお任せいただいて問題ございません。また、排泄や食事の際に手助けが必要な軽介護である場合は、訪問介護という形で手助けを手配するということもお任せいただけます。
ーー最後に、ゲイの老後生活がまだまだ不安定な社会の中、久保さんが今後取り組んでいきたいことやメッセージがあればお願いします。
20~30代のうちに真面目な話を聞いてもらえる友達2~3人に出会えるだけで、セカンドライフってずいぶん変わってくると思うので、まずはコミュニティに属するということを大切にしてほしいです。
それから40~50代は介護保険や親の最期と向き合う支度を整える。ひと段落ついたら、躊躇せず人に頼りながら生きていくこと、そして頼り先としてこの会社やゲイ向け高齢住宅が在り続けられればと思っています。
◆ アライアンサーズ株式会社
身元引き受け業務やシニア住宅紹介などの事業を展開し、現代を生きる高齢者との共存や尊厳を守りつつ、課題解決を行う。今年から立川近郊にゲイフレンドリーな高齢住宅をオープン予定、当事者がありのままの自分で最期までいられる環境整備に努めている。
ーーゲイフレンドリーな老人ホーム(自立型高齢者向け住宅施設)がオープンします!
取材・写真/芳賀たかし
記事制作/newTOKYO