今年7月末に行ったファンミーティングで、同性愛者であることをカミングアウトした與真司郎さん。
ゲイであることに悩み、苦しんだ挙句、カミングアウトすることすら躊躇わなければならなかった背景には、一当事者であるだけでなく、人目に晒されるアーティストいう肩書きも重くのしかかっていた。
夢を叶えるためにひたすら仕事に没頭し、セクシュアリティを考えないように過ごした日々と、そこから解放された今の心境。そして、東京とロサンゼルス、二拠点生活する中で見えてきた、日本におけるLGBTQ+コミュニティと社会への想いをうかがった。
ーー思春期。どこかしっくりこなかった違和感への気づきとダンスが救ってくれた長い期間。
自分のセクシュアリティに違和感を覚え始めたというか、周りとは違うかもしれないと思っていたのは小学生くらいの頃からでした。ただ当時はまだセクシュアリティに対する概念はなかったし、学校生活を送る上では特段不自由はなかったです。
それが思春期を迎える頃になると、周りが異性の話をするようになり、そこで話が噛み合わなくなっていきました。はっきりと男性が好きだとか、性の対象が違うと肯定できたわけではなく、無意識のうちにその違いに蓋をし、一生隠していかなければいけないと思ったのは覚えています。
当時は今みたいにネットで気軽に知識を得ることができず、ましてLGBTQ+という言葉も浸透していない。だから、誰にも相談できず、自分みたいな人は世界に一人だけなんだとリアルに思っていて。
それでこれから先、どう生きていけばいいのか…と度々考えることがありました。
ゲイであるという事実から逃げるわけではないけれど、当時はダンスに没頭し、芸能界に入ってからは休む暇もないくらい忙しく、自分自身と向き合う時間なんてありませんでした。
正直その時はそれが救いで、あの時、多感な時期に夢中になれるものや多忙な生活がなかったらどうなっていたんだろうと、恐怖を覚えることはあります。
ただ、忙しくなればなるほど、どんどん削られていく自分がいたのも事実。
そんな生活に一筋の光を見出してくれたのが、ロサンゼルスでの生活。このまま日本にいると窒息するかもしれないと思い、2016年を皮切りに二拠点生活を送るようになりました。
ーー渡米したことで生まれた心境の変化。自分自身を素直に受け入れるまでの道のり。
渡米してからは衝撃の連続でした。
同性のカップルが街中で手を繋いだり、キスをしたりしているのが当たり前で…。自分だけじゃなかったんだ、生きていていいのだと思えて。ようやくうまく呼吸できたような、新鮮な風に当たった感覚がありました。
だから、今後もここで暮らしていこう。ここじゃないと自分の人生が始まらないんだって思ったんです。ただ、LGBTQ+が当たり前とされる環境があったとしても、すぐに自分自身を解放できたわけではありません。
一旦自分を受け入れられたと思っても、次の日には自分を否定してしまうように、気持ちの揺らぎは絶え間なく襲ってきました。
そこに拍車をかけたのが、表舞台に立つ身として、ゲイであることがバレたら全てのキャリアが終わる恐怖。そして、ゲイというセクシュアリティってだけで、自分だけの問題じゃなくなってしまう社会の仕組みでした。
会社も家族も、メンバーやファンにも迷惑がかかってしまう…、ひとつひとつのことを考えるだけで胸がつかえてしまうんです。そうして周りの目を気にするあまり、LGBTQ+コミュニティに関わることや当事者の人と仲良くなることを避けていました。
AAAデビュー10周年を過ぎたあたりからです。メンタル的に自分自身をしっかり受け止めていかなきゃと、気持ちを切り替えていけるようになっていたのは。そして、時間はかかってしまったけど、自分自身にようやくプライドを持てるようになったのは、ここ最近の出来事なんです。
それは紛れもなく現地の友達たちのおかげでした。当事者の友人だけでなく、ストレートの友人たちからの支えも多くありました。みんな口を揃えて「何が問題なの?真は真じゃん」って言ってくれて。
自分が経験してきた中で、日本にはなかった感覚がここにはあって、それはとても居心地が良くて。自分が背負ってきたものってこんなに実は軽いものだったんだって、自分らしく生きるための背中を押してくれました。
……すごく当たり前のことなんだけれど、安心して胸の内を曝け出して会話できる関係性があるって本当に素晴らしいことなんですよね。
ーー自分にしかできないこと。カミングアウトを通して、世界に伝えていきたいメッセージ。
友人たちの力を借りて家族にカミングアウトしたあと、公にすることを選びました。最初は、日本でのロールモデルが少ない中、バッシングにあってほしくないという家族の反対がありましたが、半年くらいかかって理解を得ることができました。
公にカミングアウトする必要性はあったのか?とよく聞かれます。僕自身一生隠して生きていける性格ではないし、いつか週刊誌やSNSなどを通して不本意な形でファンが知ることは避けたかったんです。自分にとってファンは自分を支えてきてくれた大切な存在だから、自分の口できちんと伝えたかったんです。
そして、自分が経験してきたことが誰かの力になれるなら、声を出していきたいと思ったんです。そっとしておいてほしいという当事者の声があるのもわかっています。だけれど、LGBTQ+もあなたの隣に普通に生活していること。このことを発信していかないと、気づきが生まれない、お互いがわかりあえないままになってしまいます。
誰かがやっていかないと変わっていかないなら、自分にできることはどんどんやっていこうと心に決めたんです。「あなたは決してひとりじゃないんだよ」って、今なお苦しんでいる人に届けていかなきゃいけないんです。
僕はカミングアウトしたことで、多くの境遇の当事者たちのことを知れるようになりました。LGBTQ+に寛容なアメリカでさえ、未だに偏見や差別は存在し、悩みを抱える人たちが多くいます。日本でもまだまだLGBTQ+への理解が乏しいのが現状です。
今の願いは、社会や職場環境がノーマライズされることです。僕たちは特別扱いされたいわけじゃないし、なりたくて当事者になったわけじゃない。でもLGBTQ+であることによって広がった世界もある。
だから、かけがえのない一度きりの素晴らしい人生を諦めないでほしいと伝えていきます。いつか、日本でも同性同士が堂々と手をつないで歩ける姿が異質なものとして捉えられない、そんな社会になったら嬉しいなって。自分に誇りを持ち続けて。
■與真司郎(あたえ・しんじろう)
歌手・ダンサー・タレント/アメリカ・ロサンゼルスを拠点に活動。與真司郎のライフスタイルを幅広く表現していくブランド「446 – DOUBLE FOUR SIX – 」も手掛け、現在ハリウッドで、自身の半生を描いたドキュメンタリーを制作中。
https://shinjiro-official.com
取材・インタビュー/村上ひろし
ヘアメイク/SUGI(FINEST)
スタイリング/Maki Sato
写真/EISUKE
記事制作/newTOKYO