肛門に手または拳を入れるハードなSM行為の一種である「アナル・フィストファック」。
アナル全体と腸の中にある性感帯が響きあうような深い快感が得られるというのだが、その奥深いプレイに魅了され、至高の領域に達した人とはどういう人物像なのだろうかーー。
日本を拠点に世界で活躍するフランス出身のポルノ男優・Axel Abysse(アクセル・アビス)さん。
10代の時に見たフィストファックのビデオが頭から離れず、自らもフィストの世界へ。飽くなき快楽の追求と鍛錬を経て、自身のサイトを立ち上げた。ビザールでフェティッシュな映像作品を発表している彼が語る“フィストの世界”について伺った。
――日本に住んでどれくらい経ちますか? また、来日のきっかけはなんだったのでしょうか?
今年で来日11年目になりました。
5歳の時に見た「鉄腕アトム」のアニメにハマり、そこから日本のアニメやコミック、ゲームに興味を持ち始めました。15歳になって小津安二郎監督の映画を見たことで古き良き日本映画が好きになり、それが高じて大学では日本映画を勉強するようになりました。特に小津監督の「おはよう」は僕の中ではもっとも好きな作品です……。
あ、日本に来たきっかけでしたね(笑)。
私のパートナーでドラァグクイーンのコスミック・サンズが先に住んでたので、旅行も兼ねて彼に会いに来たのがきっかけです。その時に見聞きした経験が素晴らしすぎて、大学を卒業してから一年間のワーキングホリデーで再び来日し、結局そのまま住むことになりました。
――なるほど。では、アクセルさんがポルノの世界へ入ったきっかけを教えてください。
僕はフィルムメーカーとして大学で勉強していて、日本で住みだしてから映像関係の仕事もやってたんです。それでまぁライティングとか機材の勉強のためにメディアミックスブログサービス「Tumblr(タンブラー)」で趣味で写真をアップしてたんです。
その後、動画もアップしたいなってことで「XTUBE」にフィスト自撮りをアップロードしてました。それがすごい反響があって大人気になったことがきっかけですかね。
……海外でフィストをやってる映像ってだいたいがレザー系やダディ系ばっかりだったので、まだ20代でスリム体型で顔を出してフィストをやってるものってなかったからなのか、凄い数のメッセージが来たんです。
――そもそもですが、アクセルさんが、フィストに目覚めたのはいつからなのでしょうか?
よくはないのですが、10代前半からネットでポルノを見てたんですね。そんな中で14歳くらいの時かな、フィストものを見つけたんです。その時は“気持ち悪い!”って思ったんですけど、なんだかその映像が頭から離れなくて……。
それでちょうど学校で美術の勉強をしてたので部屋にペンや筆、マジックがいっぱいあったので、オナニーをする時に興味本位でお尻に突っ込んでたら、いつしか10本、20本って束ねて入るようになりました(笑)。
僕が住んでたのは南フランスの片田舎の村だったので、ディルドとかローションがなかったので自分で工夫するしかなかったんです。それで何年もかけてトレーニングしてたら、17歳の時に自分の手を入れることに成功したんです。そこからさらにネットを参考に、独学でどこが気持ちいいとか、マッサージのように徐々にほぐしていく方法を模索しながら快感の高みを目指しました。
他の人の手を受け入れたのは初めて来た日本で19歳の時です。入れる前は正直怖かったですよ。切れたらどうしようとか思ったけど、いざ入ったら世界が変わりました。頭の中や体が多幸感に溢れるているのがわかって、もうあらゆる感情が湧き出て泣きそうになったんです。まさにオーガズムを感じました。その時に“自分が望んでいたことはこれだ!”って確信したんです。不思議だけど、実は掘られる方がお尻が痛くて、手の方が大丈夫だったんですよ(笑)。
そして帰国後は、また日本に行く資金を貯めるためにエスコート・ボーイをやってたんですが、その時は既にフィスト専門を担当してました。
――若いうちからそんな経緯が……。そこを経て、フィストファックをメインにした男優になったんですね。
「XTUBE」にアップした動画へのメッセージが来た中に、アメリカの「Falcon Studio」からのものがあって「CLUB INFERNOってフィストのブランドがあるけど、もしポルノムービーに興味があったらラスベガスに来てください」って書かれていたんです。
最初は怖いし、マッチョじゃないしと思って、躊躇してたんですけど、友だちに相談したら「やってみれば?楽しいじゃん」って言われたから思い切って行って、一気に3本撮影しました。タイトルは『The Abysse』って僕の名前。それからフィスト好きの世界で段々と顔が知られるようになりました。
でも、「Falcon Studio」は大きなスタジオなので、作り方はハリウッド的。朝9時から契約書にサインして、メイクして、写真撮影して、ランチして、ビデオの撮影がスタート。ワンカット撮っては止めて、またメイクを直してってのが夜まで続いて、エロくないし、お互いの感情やムードもない。ただ仕事をしてるって感じでした。でもギャラは良かったかな(笑)。まぁその時の経験が勉強になって、今自分が監督する上で、ある意味、反面教師となってはいるんですけどね。
日本に戻ってから、また趣味で自撮り動画をアップロードしてたんですけど、2017年に開催された「東京レインボープライド」に、アメリカからバック・エンジェルというトランスセクシュアルのアメリカのポルノスターが来たんです。彼は“二つ穴”を持っていて、その辺に凄く興味があって昔から大ファンだったんです。そしたらたまたま友だちの繋がりで会うことができて色々話すうち、「明日、撮影しようよ」ってなって、撮影することに(笑)。
内容は最高でした。でも、撮影が終わってから彼に「XTUBE」の自撮り動画を見せたら、「なんでこんなクオリティが高いのに無料で見せてるんだ!」って怒られたんです。それで彼のウェブサイトのスタッフを紹介されて、自分のサイトも作ることになったんです。彼と会わなかったら今も趣味で終わってたかもしれないですね。
――様々な作品をアップロードしていますが、印象に残っている作品を教えてください。
パリで撮影したんですが、僕のファンなら誰でも来てもいいよって募集をかけたら12人来てくれたんです。それでいわゆるGangbangっていう輪姦プレイを。24本の手を僕ひとりでウケ止めました。3時間の撮影で、もう本当にいい意味でヤバかった。途中から頭が真っ白になって喜怒哀楽が全部出てる感じで、最後はずっと白目向いて笑ってました。終わったら30分間くらい放心状態で歩けなかったんですけど、あの撮影は忘れられないくらい最高でしたね。
あと、ポルノ男優の(野原)周作さんと一緒に撮影する時、スキューバダイビングで使う海面着色剤っていうインクを何かに使えないかって提案されて、X Lubeっていうドイツのメーカーで、パウダーをお湯で溶いて粘着を調整するローションがあるんですけど、それに混ぜてみたんです。そしたらすごく良くて、それにブラックライト当てるとキレイに光ったので、いろんな色で10リットルくらいローション作りました。でも、最初は温かかったんですがだんだん冷えてきて、最終的には抱き合って暖をとりながら撮影を乗り切りました(笑)。
しかもなかなかインクが落ちなくて、あの時は一時間くらいシャワー浴びてました。数日経っても服にインクが付いて大変でしたけど、映像的にも幻想的で満足いく作品になったと思います。でも懲りずにまた最近、周作さんと今度は牛乳を使った撮影に挑みました(笑)。
――フィストに興味ある方もいると思いますが、注意する点や気をつけるべきポイントはなんでしょう?
フィストはやっぱり危険が伴うかもってことを頭に入れておいた方がいいです。そのためにはお互いの“信頼”がいちばん大事。ちなみにフィストの世界では“フィスティ”は入れられる方、“フィスター”は入れる方を指すんですけど、いきなり手を入れるなんてできないので、時間をかけなくちゃいけないですから、コミュニケーションは絶対に必要です。
基本、コントロールするのはフィスティの方。フィスターはちゃんと確認しながら入れないと、力まかせにやったり、エゴを出したり、つまり独りよがりのフィストはダメなんです。フィストのラインは、手の腹の部分で母指球が入ったらOKですね。そこが大きくて分厚いから。だからゆっくりほぐさないといけない。
そして基本的だけど、意外にフィスターが忘れがちなのが爪を短くしていないこと。ただし、口で噛み切るのはNGでちゃんとハサミでカットすること。深爪じゃないけどさらに短く切るようにして、ゴム手袋を使うようにしています。フィストでHIVにならないって言う人もいるけど、それはウソ。コンドームと一緒でゴム手袋はした方がいいです。それとこれは僕がポルノ男優だからですが、PrEPは服用するようにしていて、三ヶ月に一回は検査に行くように心がけています。
ちなみに海外では、クスリをやってるフィスティ、フィスターが意外と多いんです。僕は絶対やらないし、使ってる人とは会わないようにしてます。なぜなら危険だから。クスリをやってる方が快楽を得られる、痛さを忘れられるなんて言う人もいるけど、それがいちばんダメ。僕の海外の友だちもクスリに手を出して、無茶をして腸を傷つけてしまい半年も入院したことがありました。
かと言ってアルコールにも頼らないほうがいい。“シラフ”で頭をクリアにすることが大事だと思う。これを言うと友だちは笑ったりするけど、フィストはヨガにも通じるものだと思ってます。深く息を吸いながら、吐きながら呼吸を整えて体もメンタルもリラックスするのが大切なんです。
食べ物に関しては、繊維質の多いものを食べるようにしてますね。それと消化の時間を考えてフィストする6時間前からは食べないようにしてます。そして綺麗に洗ってから、行為をする前にちょっと食べるようにしています。
――男優・プロデューサー・監督として映像を発信していますが、これからの展望を教えてください。
僕も35歳になりました。元々フィルムメーカーとして活動していたので、裏方に回っていくのが自然な流れになるのかなと思います。僕の作品をフェティッシュなアートとして捉えて見てくれている人たちも多いので、完全にアート寄りの作品も作っていきたいですし、通常の映画館で上映される作品もやドキュメンタリー映像なども撮りっていきたいですね。
アイデアは色々ありますね。でも“変態”というテーマは個人的にはこれからも追求していきたいです。それとヨーロッパ、アメリカ、日本でも若いフィストモデルを見つけて、どんどん育成していきたいです。最近“名無し”って日本人の22歳の男の子と撮影した作品をアップロードしたんです。彼は僕の作品を見てメッセージをくれたんですが、もう彼が素晴らしい逸材なので、サポートしながらどう成長していってくれるか楽しみで仕方ありません。
■Axel abysse
www.axelabysse.com
Instagram@theaxelabysse
インタビュー・取材/仲谷暢之
写真/新井雄大
記事制作/newTOKYO