偏見や先入観。気づいてないだけで“男女格差”してない? 映画「落下の解剖学」で家庭内サスペンスを読み解きましょ!

映画ライターのよしひろまさみちが、
今だからこそ観て欲しい映画をご紹介するコラム

「まくのうちぃシネマ」第55回目

LA時間3月10日に開催された米アカデミー賞授賞式で、納得の脚本賞を受賞した『落下の解剖学』が公開中です。が! これ、早く観に行かないと終わっちゃう。なぜなら3〜4月は洋画の話題作が続々公開されるため。LGBTQ+当事者の人には観てもらいたい設定がございましてよ。うふふのふ。


物語自体は法廷劇。夫が山荘の屋根裏から地べたに落下して死んじゃった妻サンドラが主人公。事故の目撃者ゼロで、遺体の発見者も視覚障がいを持つ息子。で、検死の結果、他殺の疑惑が浮上し、第一容疑者として妻のサンドラが裁判にかけられる、ってお話ね。
この裁判で証拠として提出されてしまったのが、夫婦げんかの音声記録。これによってサンドラは超不利な状況に陥ってしまうんです。その後の展開はマジでネタバレになるんで控えますが、ケンカの理由がな……。サンドラの不倫なんですよ。しかも相手は女性。

これ、一昔前に作られた映画だったら、裁判で性的指向が差別的に取り沙汰される展開になってたと思うの。だけど、さすがよ……そこは全くスルー。ただの不倫として扱われるのね(それはそれで大問題だけど)。それよりも問題になったのは、サンドラのほうが夫よりも稼いでいたり、夫がちょっと病んでてそれがコンプレックスになっていたり、っていう古い価値観の「男女格差」が夫婦不和の原因の一つになっていること。

このパートがあるゆえに、この作品が海外ではクィア映画として扱われる所以となっております。いや、マジで後者の男女格差の問題、どうにかせにゃって思いますよ(って、シスジェンダー男のあたしが言うと説得力にかけますが)。

落下の解剖学
監督:ジュスティーヌ・トリエ
出演:ザンドラ・ヒュラー、スワン・アルロー ほか
公開:現在、全国ロードショー中
https://gaga.ne.jp/anatomy/

文/よしひろまさみち Twitter@hannysroom
イラスト/野原くろ Twitter@nohara96