“ちがい”をハンディにするのではなく、リスペクトし、おもしろがれる社会が良い! 東ちづるが願う「まぜこぜの社会」とは?

80年代からテレビドラマやバラエティ番組で欠かせない存在として活躍してきた、東ちづるさん。芸能活動の他に、難病や身体障害の支援活動やドイツ国際平和村などのボランティア活動を続けていることは有名だが、そこにはどんな経緯や想いがあるのか。2012年に発足された、「まぜこぜの社会を目指す」団体『Get in touch』の活動内容も含めて伺った。

Get in touchの東千鶴のインタビュー

──エンタメで支援活動を行う『Get in touch』立ち上げの理由とは?

28年前から、ボランティアでいろんな社会支援活動をしていますけど、そもそも私は群れることが苦手なので、何かの団体に属したり、立ち上げたりすることはしないと言い続けていたんです。
だけど、2011年に東日本大震災が起きた時、被災地の避難所でいわゆる「マイノリティ」といわれる人たちが追い詰められてしまっているという現状を知ったことで考え方が変わりました。

自閉症の男の子がパニックを起こした際に周囲の人から怒られるとか、車椅子ユーザーの人が「ここはバリアフリーではないから」と他の避難所に移動するよう言われてしまったり、目や耳が不自由な人が救援物資をなかなか入手できなかったり、はたまたトランスジェンダーの人が更衣室やトイレ、お風呂の利用に困ってしまったり。さらには、ご高齢のおばあさんが、ご迷惑をおかけしてしまうからと先立ったおじいさんのお墓の前で自殺をしてしまうケースもあったんです。

こうした普段から生きづらさを抱えている人たちが、社会が不安に陥った時により追い詰められてしまうという現状があったのに、それをメディアでは、『絆・寄り添う・繋がる』といった美しい言葉ばかりを発信していて、現実とはかなり乖離していたんですよね。日本では、こういった現状をニュースにしづらかったんです。なぜならば、デリケートだから。デリケートなことは、アンタッチャブルになりやすい。被災地の避難所は「まぜこぜ」です。日本の縮図です。

多様な人たちが急に集まった時、お互い慣れていないからどうしたら良いのか分からない。なら、普段からみんなが顔を合わせて暮らせる街づくりが必要なんじゃないの!? と思い立ち、仲間と団体を立ち上げることにしました。
当時は、あらゆる支援団体は縦割りで、しっかりした繋がりがうすかったので、つなげるハブのような団体を立ち上げるので一緒に活動しませんか? といくつもの団体に声をかけて一般社団法人『Get in touch』が誕生したんです。

Get in touchの東千鶴の顔

──日本の芸能界は、まだまだこれから!? 東さんの感じる「わだかまり」

『Get in touch』は、講演やシンポジウムの企画は考えていません。そこに集まる人は、他のシンポジウムなどにも参加しているようないつも同じ顔ぶれだったりするから。むしろ「社会は変わらない」とか「自分の周りには、マイノリティの人はいない」と思っている人をどう巻き込んでいけば良いのかと考え、ワクワクすることをツールにして啓発をしていこうと。音楽・映像・舞台・アートなどで人を集めて、そこで新しい「まぜこぜ」の人間関係が生まれるような空間や時間を作っていこうと。

私は芸能界で、エンターテイメントの力って凄いなと日頃から思っていましたから。ただ、日本の芸能界って……遅れていると感じることもあります。ハリウッドだったら、小人症の人や手話で話す人が欠かせないし、一般的な、若い・綺麗・カッコいい・かわいい人たち以外の人たちも活躍できる。日本だとなかなかチャンスがない。女性に関しても、キャリアを重んじてくれない。若さが評価になりがち。同じ働きや発言をしても、男性であれば「仕事熱心」と言われるのに、女性だと「生意気だ」、「怖い」、「女を捨ててる」とか言われがち。

私が芸能界に入った時期より、今は女性スタッフも増えましたが、男性以上に頑張らないと認めてもらえないとか、脳内が男性化していないとやっていけない時もあると聞きます。かつては私も「お嫁さんにしたい」と言われたことがあります。キャッチーな冠が付いてそれによって仕事が増えることは嬉しかったものの、「お嫁さんになりたかったら芸能界に入ってないんだけどなあ…」とも思ってた(笑)。恋人やパートナーっていう言い方なら良いけど、「嫁」っていう言い方も当時からイヤでした。

東京レインボープライド2019に参加した際の様子。東ちづるさんの右隣、声優の三ツ矢雄二さんも一緒に参加

──LGBTに関する活動に取り組むのはなぜ? 「排除しない」とは?

『Get in touch』でLGBTに関する活動を始めた当初は、「当事者じゃないのに何が分かるんだ」とか「LGBTを利用するな」とか批判の声はもちろんありました。

東京レインボープライドにフロートを出した時も、打ち上げパーティーの時に「当事者団体じゃないのにどうしてフロートを許可するのか?」といった声もあったと言われたので、「LGBTを理解して欲しい、排除するな。とおっしゃいますよね? あのね、LGBTではない人も排除しないで~!」って冗談めかしてコメントしたんですよ。そしたら、あぁ確かに…といった感じで分かってもらえました(笑)。

『Get in touch』では、どんな状態、どんな状況でも誰も排除せず、『すべての人が幸せになる権利』があるってこともテーマにしているので、セクシュアルマイノリティの人たちとの活動もその一環で、外せない活動だということです。

東京ラブパレード2018に参加した際の様子。思い思いのカラーに身を包んだ参加者たち

──困った人を救うために。メディアの人間として、自分にできること。

『Get in touch』以前から、いろんなボランティア活動はずっとひとりで続けていましたが、そのきっかけは、白血病の少年のドキュメンタリーをテレビで観たことだったんです。それを観てすごく号泣したんだけど、ふと気になったことがあって。

この少年は一般人なのになぜ自分の病気を公にしたのだろうか?何か伝えたいことがあったんじゃないか? しかし、視聴者の私には伝わっていない。この番組の作り方の問題であって、彼の問題ではない。彼はテレビに出なければ良かったと思っているのではないだろうか? そう思ったらいても立ってもいられなくなって。

元々私は報道がデビューだったんですけど、その時のディレクターが「政治と報道は、困った人のためにある」って教えてくれました。なので、この番組は、お涙ちょうだい的にするだけで困った人を救おうとしてない! それなら自分はメディアの人間として何かできることがあるんじゃないか?と。それからですね、啓発や支援活動を始めたのは。

一番最初は骨髄バンクを支援する活動から始まり、そこからどんどん枝分かれして広がっていった感じ。芸能活動も、報道からバラエティ番組に呼んでもらえるようになり、さらにお芝居のオファーも受けるようになり、当初は「私が女優業しても良いのかしら」って不安でした。そこから猛勉強です。

1995年からスタートしたテレビ番組『世界ウルルン滞在記』では元々解答者として出演していたのですが、戦争で傷ついた子どもたちを救う「ドイツ国際平和村」へ行く企画には、若い子だと無理だろうという番組プロデューサーの判断で、すでに日本でいろんな活動をしていた私に白羽の矢が立って実現したんです。1999年でした。『世界ウルルン滞在記』って、これから伸びていくであろう若手の俳優さんとかが海外に行っていろんな体験するのが売りの番組なのに、かなり例外でベテランの域の私がリポートさせてもらいました。

LGBTフレンドリーの東千鶴のインタビュー

──コロナ禍における活動。新しい気づきとこれからの可能性。

コロナ禍で、今年『Get in touch』で企画していたものが全部ストップしてしまったんです。例えば、制作した映画『私はワタシ over the rainbow』の上映会がすべて中止になり、舞台『月夜のからくりハウス まぜこぜ一座』の公演も延期になったり。だけど、前々から気になっていたは、これらの作品を観るにも、おうちから出られない状況にある人、ひとりで観たいという人、映画館に観に行きづらいという人たちのこと。

田舎の方だと、こういった作品を観に行ったということだけで、自分のセクシュアリティがバレると考える方もいるようです。なので、すべての人が外出も厳しい状況下にあるのであれば、これは自宅で楽しんでもらえるオンラインでやろうということになり、『Vimeo』という有料動画サイトで2作品とも公開を7月からスタートさせました。

そこで予想外だったのは、欧米の人たちからのリーチ(※ユーザーの数)が多かったこと。なので、もっと多くの人に観てもらうために日本語版しかなかった『月夜のからくりハウス まぜこぜ一座』を慌てて英訳しています。自画自賛になっちゃうけど、どちらも凄い良い作品になっているし、料金もワンコイン500円で観れるように設定したので、ぜひ観てほしいですね。

多様性を発信する東ちづるのインタビュー

BEAMS提供のオリジナルデザインのボランティアスタッフのユニフォーム。「Let’s MAZEKOZE 」のキャッチコピー入り

──「まぜこぜの社会」を目指す活動のゴールは“解散”

今は『Get in touch』のマンスリーサポーターも募集してます。毎月自動引き落としで寄付してもらうことで、『Vimeo』での視聴を無料で観れたり、クローズドなイベントへの優先案内が受けられたり特典を色々設けています。サポーターさんたちとの交流会も凄く楽しいので、より多くの方にサポーターになっていただけたらありがたいです。
こういった『Get in touch』の活動にゴールがあるとすれば、それはすべての役割を終えて解散すること。『Get in touch』の活動が必要なくなるように「まぜこぜの社会」を目指して前に進んでいきます。ぜひ一緒につながって下さい!!

東ちづるのインタビュー

■ 東ちづる
女優・タレント・一般社団法人Get in touch代表。ドラマから情報番組のコメンテーター、司会、講演、出版など幅広く活躍。プライベートでは骨髄バンクやドイツ平和村、障がい者アートなどのボランティアを25年以上続けている。著書に、母娘で受けたカウンセリングの実録と共に綴った『〈私〉はなぜカウンセリングを受けたのか~「いい人、やめた!」母と娘の挑戦』や、いのち・人生・生活・世間を考えるメッセージ満載の書き下ろしエッセイ「らいふ」など多数。
■ https://www.getintouch.or.jp
■ Twitter@Getintouch1

取材・インタビュー/アロム
写真/新井雄大
記事制作/newTOKYO

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