23歳で感染の宣告。「性被害を受けたことは、未だに折り合いがつかないけれど…」KotetsuさんがHIVポジティブであることをオープンにした理由。

HIVポジティブをオープンにしている中里虎鉄

“不治の病”というイメージが強かったHIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染症は、医学の進歩により早期発見、そして継続的な治療を行うことで感染前と変わらない日々を過ごすことができるようになった。しかし、HIVポジティブの方たちへの偏った見方や風当たりが弱まったという訳ではない。

そんな中、社会が抱える課題をフォトグラファー・編集者として可視化、発信し続けているKotetsu Nakazatoさんが昨年10月に自身のSNSを通してHIVポジティブであることを公表した。
「心ない言葉を投げかけてくれる人もいて100パーセント気にならなかったとは言えないけれど、知らん人がなんか言ってるなって感じ。それよりも性被害者やHIVポジティブ当事者としての声が世の中に価値があることだと思い、発信した」。

自身が望まない形での性交渉により感染が発覚してから、4ヶ月。現在、何を考え、今後どのような活動をしたいと思っているのか。Kotetsuさんが撮影した写真と共に、等身大の彼の心の内を伺った。

――“HIV=死ではない”。頭の中ではそう分かってはいても、気持ちの整理がつかない日々。

2020年8月、重度の体調不良が続いたために訪れた病院で髄膜炎という診断結果を下され、即日入院。その翌日、HIVの感染宣告を受けました。しばらくの間は、セーファーセックス以外の行為を断ることができなかった自分を責める気持ち、そして望んではいないセックスの形を同意を得ず、強制してきた相手を責める気持ち…その他にも色々な感情が湧いてきて、現実と向き合えず、ただ時間が流れていくだけでした。

お仕事でHIVポジティブの方と接する機会は何度かあって“HIV=死”ではないと分かってはいたけれど、いざ自分がその一人となるとなかなか整理がつかなくて。死に対する絶望がなかったとは言い切れませんが、それよりも性被害を受けたショックが大きく影響していたと思います。

それから、初めて自分がHIVポジティブであることを伝えたのは、親友の一人。入院している間も体調が優れず三日間ほど音信不通だったため、とりあえず連絡しようかなと。何から話せば良いのか分からない状態だったんですけど、彼女は「生きてて良かった」という言葉をかけてくれて、HIVの感染宣告をされたことについても極端に驚いた様子を見せず、淡々と話を聞いてくれました。

母には、退院直後に電話で伝えました。「まずは髄膜炎の症状が快方に向かうよう、安静にしてて」と冷静な返答だったのですが帰宅後に顔を合わせて話をすると、やはり相当ショックを受けた様子で。というのも、母が好きなアーティストの多くがHIV感染症により亡くなっていて、“HIV=死”というイメージが強く残っていたそうなんです。当時は、母も気持ちの整理がついておらず「なぜ拒否をしなかったの?」と強く責められましたが、現在は通院やHIV感染症に関する正しい知識が記されたパンフレットのおかげもあり、少しずつ理解を深めてくれています。

それに感染が発覚してから4ヶ月たった今、自分自身もその現状を受け止められるようになってきました。見た目の症状に関しても免疫力低下が関係しているのか、肌の調子が少し悪い時があるなぁ~ぐらい。

抗HIV薬による治療が始まっておらず、病気である事実を毎日リマインドされることがないため、HIVポジティブであることを意識させられる瞬間も少ないです。ちなみに抗HIV薬による治療は、障害者手帳を公布してもらうことから始まり手続きが多く時間もかかるため、これからスタートする予定となっています。

HIV陽性者をオープンにしている中里虎鉄

――「当事者の情報は、きっと誰かにとって価値のあるものだから」今の自分にできることを模索するKotetsuさん。

コトの発端である感染経路として思い当たる節があるとするならば、デーティングアプリで出会った職業も名前も知らない男性との性行為です。恋愛感情はもちろん、嫌われたくないという気持ちも一切抱いていておらず、ただセックスをする相手としかみていなかった人。自分自身、決してムードに呑まれてしまう性格ではないだけに、“なぜあの時、NOと言えなかったのか”と、今思い返しても一番悔やんでいる瞬間です。同意を求められる前にコンドームをつけていない状態で、挿入されて、気づいたら…という感じ。 

セクシュアリティやジェンダーに関係なく、性被害って溢れている。自分自身がそのうちの一人となった今、性被害の実態に対する認知度の向上や性的同意が浸透していくための力になりたいという意識は、以前よりも強くなりました。そのようなこともあって、自分の素性を明かした上でHIVポジティブであることをオープンにして活動しています。

自分の病気について、第三者に知られることへの恐怖心はありません。noteやInstagram、Twitterなど各SNSでも発信をした時、HIV当事者の方から心の内を綴ったメッセージをいただけた一方、匿名で「何してんだよ」「だらしがないから」「自業自得」といった言葉を向けられ、「え?」と驚くことはあったけれど、知らん人がなんか言ってるなぁぐらいの感覚です。

HIV陽性者をオープンにした中里虎鉄

自分が当事者の立場であるからこそ伝えられることが絶対にあるし、その情報が誰かに とって価値のあるものだと信じている。そもそも、自業自得で感染したわけではないとはっきりと言い切れるからこそ、このスタンスで情報を発信し続けられています。今は、性被害の減少がHIV感染症といった二次被害にも繋がると思っているので被害者が声を挙げられる環境であったり、被害者へのケアが適切に為されるシステムがいち早く整備される社会づくりに貢献する活動を続けていきたいです。

■ Kotetsuさん過去のインタビュー
https://the-new-tokyo.com/kotetsunakazato/
■ 性暴力のお悩み相談 Cure time
https://curetime.jp
■ 性被害・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター
https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/seibouryoku/consult.html

写真/Kotetsu Nakazato、Yurina Miya(Portrait)
取材・インタビュー/芳賀たかし
記事制作/newTOKYO