クィアを切り口に「性」をテーマにした作品を上映する関西クィア映画祭。
開催14回目を迎える今年は、9月18日(土)大阪/19日(日)〜20日(月・祝)京都/11日(土)〜26日(日)オンラインで上映され、11の国・地域から全21作品がラインナップ。国内のセクシュアルマイノルティ系映画祭では、最多の作品数とのこと。
また今年の特集企画には、日本のトランスジェンダー映画が3本組み込まれており、様々に異なるトランスジェンダーの一人ひとりが、今の日本でどのように生きて、どのように挑戦をしているのか。自身の選択のヒントにもなる作品が並ぶ。
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── 特集:日本のトランスジェンダー作品
◆ I Am Here 〜私たちは ともに生きている〜
GID(性同一性障害)、GD(性別違和)、トランスジェンダー当事者が、それぞれの経験や想いを語るドキュメンタリー。家族の反発、法律をめぐる葛藤、手術について…話題は多岐に渡る。
登場する人たちは淡々と時にはにこやかに話をしているが、まだまだGID/GD/トランスジェンダーが自由に望み通りには生きられないのが現状だ。「LGBTQ」などの言葉を見聞きする機会は増えたが、社会が押し付ける「らしさ」は根強く、その弊害は大きい。
◆ ぼくが性別「ゼロ」に戻るとき 〜空と木の実の9年間〜
幼少期から「女の子」扱いに違和感を感じ、20歳で性別適合手術を受け戸籍変更した空雅さん。
自分らしい「性」を模索する中で、「男/女」以外の様々な「性」・生き方に出会う。ひとりのXジェンダー系の若者を追った9年間の軌跡。
◆ フタリノセカイ[特別試写上映]
保育園で働き、結婚して子どもを産むことを願うユイ。ユイと一緒にいたいシンヤは、性別適合手術(SRS)を受けて戸籍の性別変更をし、ユイと結婚することを目指す。好き同士なのに、二人の思いはかみ合わない。
女なら結婚して子どもを産んで一人前、好きな人と一緒にいたいなら性別変更して入籍するのが一番の幸せ。さもなければ “あんたは必ず後悔する” …。どこまでいっても自分の想いに世間の当たり前がごちゃまぜになって邪魔をする。
── 国内作品コンペティション
◆ soundscape(サウンドスケープ)
人々にとっての当たり前の日常を可愛らしいアニメーションとポップなBGMにのせて、シンプルに表現。ゲイカップルのユニットが送る、とっておきの2分間。
◆ OMIAI
母親の勧めで、無理やり取引先の娘とお見合いをすることになった主人公の翔。「うちの息子は男らしいのよ、それでいて優しくてね」「うちの子は女性らしくてね、料理が得意でね」と気が乗らない翔を他所に、勝手に話を進める親たち。そんな親に呆れる翔。「もう、いいから」と親を部屋から追い出し、いざ二人で話し始める。
開口一番、翔は「ごめんなさい、本当はお見合い前に言わなきゃなんですが…」と相手に伝えるが…。
◆ 窓越しのキス
甚大な大気汚染の影響によって、外出制限令と監視システムが導入された東京。同じマンションの隣人であり恋人同士でもあるマドカとミハル。監視システムのため、2ヶ月間思うように会えない2人。そんなある日、マドカからミハルに連絡がくる。「ベランダ越しに会いに来てよ!」それに対しミハルは、「今は状況が状況だから。」と曖昧に返信してしまう。「どうして?」「だって…」と互いの感情が衝突する中、「付き合ってるって何?」とマドカから投げかけられるミハル。その言葉に突き動かされたミハルは、マドカへの思いをついに行動に移す。
◆ Between Us
自分の生まれ育った山形で静かに暮らしたいトランス男性のケイと、東京で開放的な生活を望む““ガイジン””でクィアのパートナー、エリン。ケイが慣れ親しんだ地元の温泉を舞台に、二人の願いとアイデンティティの前に横たわる壁が明らかになる。
男湯と女湯とを隔てる壁、そして露天風呂の豊かな風景が、いろんな意味で象徴的。
◆ みんなバカ野郎だ
ゲイであることを同級生にいいふらされイジめられる悟と、人と話すのが怖くて無口な創介。修学旅行で同じ部屋になった、孤独な二人の高校生たちの心の交流を描く。本作のベースは、監督自身の友人との思い出。
◆ はなびらのうらがわに
自分の好きなメイクやファッションを楽しみながら大学生活を送っているいずる。そんないずるとは対照に、偶然再会した透は視力を失ったことから着飾ることを諦めていた。とある事情から透に恩返しをしたいと思ったいずるは、どうすれば透が「自分の好き」を楽しめるようになるのか考え、一緒に試していくことに。
他人の目が気になって躓いてしまうこともあるけれど、それで「自分の好き」に蓋をするのは勿体ない。現役の京都の大学生が監督した、カラフルな色と繊細な描写に彩られた瑞々しい学園ドラマ。
── 長編作品
◆ 未来は私たちのもの ©Juenglinge-Film.jpg
イランからの移民1世を親にもつミレニアル世代のパーヴィス。ゲイとしてドイツで暮らす若者だ。パーヴィスは、物質的には豊かだが、自分が「何者か」を悩み、どこか満たされない毎日を送っていた。社会奉仕活動でしぶしぶ通い始めた難民収容施設での、イラン出身のバナとアモンのきょうだいとの出会いは、そんな主人公の平凡な生活に大きな変化をもたらす。
勝気で負けず嫌い、性別を元にした社会規範に全身で抗う力強いバナと、「自分」であることだけでも大変だと抱え込む内向的なアモン。難民申請中のバナとアモン、30年前に移住したパーヴィスの家族というドイツの中の二つのイラン人コミュニティが出会い、物語は展開する。
◆ 忘れていた途
南米チリ発、老年女性どうしの長編ラブロマンス! 夫に先立たれたクラウディナは、貧しさから都市に住む娘のもとへ引っ越す。そこで隣人のエルサと恋に落ちるが、娘や友人からは猛反対され、しかもエルサには夫がいて──。
自分自身を探求する一方で、「女性」「母親」「高齢者」「未亡人」という「らしさ」との摩擦に悩み模索する、クラウディアの選択を見届けよう。
◆ 初めてのパレード
舞台は、労働者階級の移民が多く住む、パリ郊外の貧困地区Saint-Denis。2019年6月、その地域で初めてのプライドパレードが開催された。映画は、パレードを開催しようと奔走する4人の学生を中心に、パレード開催までの5ヶ月間を映している。
それはストーンウォールの暴動から50年、パレードをしようとは誰も考えもしなかった地域での、新しい挑戦だった。インターセクショナリティ(複合差別)などの課題が、どのような形で提起されていくのか。「いま」を生きる私たちの闘いが、どういうものであるのか。「みんなのためのパレード」とは、どういうパレードなのか。
◆ ぜんぶ売女よりマシ
世界初、買春禁止法が成立した国スウェーデン。セックスワーカーは救済されなければならない対象で、劣った者とみなされているため、それが社会福祉にも反映される。エヴァ・マリーはセックスワーカーであること、ただそれだけの理由で、社会福祉から不適切な母親と判断され、親権を得られず、子供は虐待歴のある元夫ヨエルの手に渡った。
そして2013年7月11日、子供を取り戻す闘いの過程で彼女は元夫に殺された。セックスワーカーの権利を求める運動家となり、スウェーデンの政策や買春に対する態度に挑戦した彼女の悲惨な死。巨大政府の威圧的なパターナリズム、市民の生活への過剰な干渉、奔放な権力。社会福祉大国の闇を映す、悲しみと怒りのドキュメンタリー。
◆ オレの心は負けてない 在日朝鮮人「慰安婦」宋神道のたたかい
1992年、「慰安婦」動員に日本軍が関与したことを立証する政府文書が発見された。これをきっかけに日本の市民団体と「慰安婦」被害者である宋神道さんが出会い「在日の慰安婦裁判を支える会」が結成され、日本政府の公式謝罪を要求する10年にわたる裁判闘争が始まった。
宋神道さんは16歳の時に中国で日本軍の「慰安婦」にされた。少しでも拒否すれば、決まって殴打され、わき腹と太股に残った刃物の傷痕、そして腕に彫られた金子という名前の入れ墨は、苦痛の過去をそのままに見せる。彼女が過去の思い、嘆きを吐露するにはかなりの時間を要した──。
── 海外短編集
◆ 昼下がりの疑惑
マリ・カルメンは、共通の友人とのちょっと不思議な出会いをきっかけに、娼婦の友人であるローザのもとを訪れる。マリ・カルメンはローザの助言を必要としていたが、それだけではなかった──。
コメディタッチで描かれた作品中の会話からは、異性愛をスタンダードとする世の中の不当な偏りを表していたり、ホモフォビアやバイフォビアを内面化し、問題提起を行う。
◆ 離れていても
祖母の最期を看取ったのは、唯一の「理解者」である私だけ。
そんな祖母のお通夜に来てくれた見知らぬ人と話し始め…。私たちが出会ったのは、夫の死後に隣家の女性と付き合い始めた途端、家族から見放された祖母の、お通夜の場だった。
◆ とあるクィアのボキさん
ブラジャーはしない、髪は自分で切る、踊るときは自由気ままに。
済州島のカンジョン村で、田舎でひとり今日も暮らす。クィアとして生きるボキの、等身大の毎日。
◆ シールクルマ~母のスーププリン~
ノンバイナリーとしてカナダで生活するサイラは、パートナーのシタラをインドの実家に連れていく。しかし、帰省前には「受け入れる」と言ったはずの母親は、シタラを全く歓迎しない。ついには母親と喧嘩別れになってしまったが…。
身近な人からのカミングアウトを通し、お互いをより深く知るための愛がここに。
◆ カパエマフの魔法石
ハワイ・オアフ島ワイキキビーチにある4つの巨大な玄武岩をめぐる物語。歴史から消し去られ、忘れられていた真実が、今解き明かされる。
現在、聖地として知られる「カパエマフの魔法石」。その起源は数千年前に遡る。タヒチからオアフ島にに渡った4人の訪問者が、不思議な力で人々の病を癒した。その4人は「マフ」と呼ばれ、女性と男性の間の性を生き、両方の強さも持ち合わせる者。4人が祈りを捧げた岩は、聖なる場所として何百年もの間、崇めまつられてきた。そして、物語は親の代から、子の代へ口述で伝えられてきたという。しかし、18世紀のキリスト教伝来以降、ハワイ先住民の文化は軽視され、その物語もまた忘れ去られてしまっていた。
── オンライン限定上映
◆ トランス物語に抗して
人は人生の岐路に立つ時、悩み逡巡し対話を求め答えを何度も振り返りながら近づいていく。
トランス移行に関して豊富でもない情報の中から枠の狭い正規医療か、高額な非正規医療かを選ぶ事を迷いなくたどり着ける? 貧困から抜け出せず弾かれる者もいる。本物のトランスならこうだ、なんて決めつけも他者がなぜ人の在り様を決めつけるのだろうとうんざりする現状がある──。
◆ 選手の掟
「飲酒禁止、薬物禁止、レズビアン禁止」のルールを掲げてきた、ある米国のカリスマ的な大学女子バスケットボールコーチ。
2005年にチームを辞めさせられた有能選手が起こした訴訟をもとに、被害者らのインタビューが、スポーツ界の同性愛嫌悪とハラスメントの根強さを暴く。
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◆ 第14回関西クィア映画祭2021
[大阪]2021年9月18日(土)
@シアターセブン・第七藝術劇場
[京都]2021年9月19日(日)〜20日(月・祝)
@ゲーテ・インスティトゥート・ヴィラ鴨川
[オンライン配信]2021年9月11日(土)0:00〜26日(日)23:59/チケット購入先リンクは、準備が整い次第公式サイトにて公開されます。
https://kansai-qff.org/2021/
Twitter@kqff_official
※コロナ感染拡大防止に関する自粛要請等があった際には、大阪会場のオールナイトとレイトショー(21時以降にかかるもの)がキャンセルになる場合がございます。※他プログラムの開催変更に関しては、9月12日以降の状況を見ての判断となります。詳細は公式サイト・SNSにて事前確認をお願いいたします。
https://kansai-qff.org/2021/COVID19.html
記事協力/第14回関西クィア映画祭2021
記事制作/newTOKYO