【12/1(月)まで個展開催中】物で溢れ返ったワンルームに整然と佇む、伊勢丹とチワワ。 現代美術家・川井雄仁さんが影響を受けた裏原、マイノリティの文化

ZeroBase神宮前にて12月1日(月)まで開催されている、現代美術家・川井雄仁さんによる個展「クローズアップ現代陶芸~わたしがおぢさんになっても~」。新作を含む4点のセラミック作品が展示される会場は、今も住んでいる実家の子供部屋が再現されており、ベッドや洋服、本、DVD、小物、空き缶、書類に至るまで全てが私物。

創作活動の原点という裏原文化を象徴するファッションアイテムやスナップ誌『FRUiTS』のほか、社会的マイノリティとされる人々にフォーカスした映像作品、中には『薔薇族』『メゾン・ド・ヒミコ』といったクィア文化にまつわるものも並んでいる。40年間生きて触れてきたものが、自身にどのような影響をもたらし作品に反映されているのか。今回の展示に対する思いも合わせて伺った。

ーー原宿に突如現れた、川井さんが住む子供部屋。私物の搬入をしてまで自室を再現したかった理由

ーー個展開催にあたり、なぜ自室を再現しようと思ったのでしょうか。

自分の内側にあるどういった部分が作品に反映されているのか、原宿という思い入れの深い街に自室を再現したうえで、作品を展示して実証したかったんです。
元々、パーソナルなテーマで個展に臨もうとは思っていたのですが、プロジェクトが進むにつれて、自身が住む部屋が様々な事象を内包していることに気づかされたんです。

それは汚部屋問題や子供部屋おじさん問題といった社会問題であったり、裏原文化の喪失に対するノスタルジーといった個人の感情であったり。

訪れる人が展示作品や会場を、『クローズアップ現代(社会で起こる事象を独自の視点で切り取り、バックグランドや事象を深掘りするTV番組)』的な視点で捉えることができる個展になるのではないかと思って、このような形になりました。

ーー原宿には強い思い入れがあるそうですね。

私が思春期を迎えた90年代後半は裏原文化が注目を集めていて、現に私もそのうちの1人でした。お金を貯めて2~3ヶ月に1回、鈍行電車で原宿を訪れていました。
ファッションスナップを撮られるようなファッショニスタというわけではなく、彼ら彼女らに憧れる一学生という感じで、変なアクセサリーとかも買ってましたね。

ただ、そういったファッションがアートやカルチャーへ興味を持つ入り口となり、制作にも大きな影響を及ぼしていることは確かです。

上京して伊勢丹を初めて訪れた時の高揚感を表現した作品『新宿三丁目』(2024)

ーー会期の後半を迎えていますが、現時点で感じていることがあれば教えてください。

原宿のド真ん中でプライベート感溢れる空間が展開されることは、特異で近寄り難い雰囲気が出ると思っていたんです。しかし、思った以上に街に馴染んで、行き交う人たちがコンセプトショップと間違い、ふらっと足を踏み入れるほど受け入れられてしまっていて(笑)。

それは当初予想していなかった展開ではありましたが、この誤算自体が、枠組みに依存する現代美術の脆弱性や欺瞞を指摘できたのではないかと思います。

それに、どんなアプローチの仕方であれ、この場所で色々なきっかけが生まれるに越したことはないですし、自分が抱えている問題とリンクする作品や物に出会った人が感想を伝えてくれるのも嬉しいです。

ーー「社会的マイノリティへ共感することが多かった」。アートに対する解釈を広げた大木裕之さんの作品との出会い

ーー裏原文化を象徴するものや社会的マイノリティの立場にある人たちに視点を当てた作品も多く見られますね。

実社会から溢れてしまったマイノリティの人たちに共感することが多いんです。
学校のようなコミュニティに所属するようになってから、自身の視点や感覚が大衆的なものとは異なることを自覚したんですけど、自分自身が社会に受け入れられているか不安なんです、今も。

昔はアーティストとして評価されて社会に居場所が出来たら安心感を手に入れられるのかなと思っていたけど、自分はそうではなかった。

ただ、その不安定さが制作のテーマにも通じているので、複雑ですね。

ーーアーティストとして活動する中で、アートとの向き合い方や考え方が変わった出来事はありますか。

2004年に初開催された現代美術のグループ展「六本木クロッシング」(3年毎に開催)を訪れたとき、現代アーティストの大木裕之さんの展示に出会ったことですね。
当時20歳だった僕はアートに対してかしこまって接していたのですが、彼が制作した映像作品の隣にゲイ雑誌『Badi』のTシャツがかけてあったんですよ。

それを目の当たりにしたとき、「アートはこれくらい身近で自分の中から自然に出てくるもの」という姿勢に衝撃を受けて。それにすごい救われたというか、少なからず影響は受けていると思います。

ーー最後に今後、個展を訪れる方へメッセージがあればお願いします。

ある意味、会場自体が自分なのですが服でも作品でも散りばめられているものでも、誰にとっても共通点が見つかる場所になっていると思います。

その一つをきっかけとして、会場に一歩、また一歩と入ってきてもらえたら嬉しいです。

川井雄仁/現代美術家
1984年生まれ。茨城県出身。 2007年チェルシー・カレッジ・オブ・アート(UAL) BA(Hons)ファインアート科卒業、2018年茨城県立笠間陶芸大学校研究科卒業。現在は茨城県にて制作を行っている。 ロンドンで現代アートを学んだのち、陶芸と出会う。ダイナミックな色と形が特徴の陶芸作品は不規則さや醜さ、グロテスクさ、脆さなど様々な表情を見せ、素材によって引き出された自己の内面を重層的に表出している。また積み上げられた土の塊は粘土と自分との対話という時間軸を反映している。

◆「クローズアップ現代陶芸~わたしがおぢさんになっても~」
会期: 11月14日(木) – 12月1日(日)
開場時間: 10:00 – 20:00 
場所 : ZeroBase神宮前( 東京都渋谷区神宮前6-4-1)
主催: anonymous art project
キュレーション : 秋元雄史(東京藝術大学名誉教授、金沢21世紀美術館特任館長、国立台南芸術大学栄誉教授、美術評論家)
協力: KOTARO NUKAGA

取材・文/芳賀たかし
写真/新井雄大
記事制作/newTOKYO

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