「平気じゃないけど、当事者の声が必要だから」。抗HIV薬服用を続けながら、クィアコミュニティで活動をしてきた中里虎鉄さんの1年。

HIVポジティブを公表する中里虎鉄のインタビュー

HIVポジティブをオープンに活動している中里虎鉄さんのインタビューを行ってからおよそ1年。現在はフォトグラファーやエディターとしてはもちろん、開催中である「TOKYO AIDS WEEKS2021」をはじめHIVやジェンダー、セクシュアリティ、政治、Z世代などを特集する各メディアからも注目を集め、コメンテーターとしても情報発信の場を広げている。

11月からは宮城県気仙沼市と東京の二拠点で課題解決に取り組んでいる虎鉄さん。性被害を受けた後、思いもよらなかったHIVへの感染。抗HIV薬を服用しながら活動をした1年を、気仙沼で撮影した写真とともに振り返る。

ーー「HIVウイルス量は下がっているけど…」。抗HIV薬治療を受けるためのシステムの不平等に対する疑念

抗HIV薬の服用は去年12月から服用を始めたけれど正直、どこからが薬の副作用でどこまでが体調不良による症状なのか分からなくて、薬の効果を実感する事はあまりないかも。副作用のある薬はOTC医薬品なんかでもたくさんあるし、HIV感染以前にはなかった大きな症状が出ているわけでもないですね。だから、HIVウイルス量の数値が確実に減少しているの見て、初めて薬の効果を実感するって感じ。メンタルヘルスは感染直後と比べて、安定してきています。

体質の変化で言えば、流し込むように飲んでいたお酒を体が受け付けなくなり、吐いてしまうことが多くなったこと。ただこれも、肝臓機能が低下する副作用を持つ抗HIV薬のせいなのか、単に年齢を重ねたせいなのか…絶対的な症状がないからこそ、日常的生活を送る上で過度にHIVポジティブであることを自覚させられることがないかもしれません。

実は抗HIV薬治療を受ける前、西洋医学において難病指定されている病を患いながらも、東洋医学の治療を受けたら完治したという患者さんを取材させていただいたこともあったので、HIVに対しても他に治療方法が無いのか調べてみたんです。でも、HIV治療においては、やっぱり西洋医学のケースが圧倒的な情報量を誇っていて、医師からも治療するなら早い分に越したことはないと進められたので、現在のスタンスでHIVと向き合っています。

抗HIV薬の治療費は収入に応じて負担額の割合が異なるものの原則、健康保険で7割、自己負担金が3割。自治体(国)は世帯の収入を単位にしているので、単身で収入が少ない場合には、少ない自己負担金となっていますが、もしHIVポジティブを宣告されたときに家族と同居、また同一の健康保険に加入している場合、親の収入によっては負担額の割合が大きくなるため、援助してもらうための理由としてHIVであること、同時にセクシュアリティを打ち明けざるを得ない場面に直面する可能性もゼロではない。カミングアウトが難しい場合、医療へのアクセスが難しいという現状は、変えていかなければいけない課題だといます。

ーー生き方を選べる時代へと変えていくために活動をした一年間。「矢面に立って発言することってしんどいし、平気な訳ないんです」

今年一年の活動を振り返ってみると、HIVポジティブであることやノンバイナリーというジェンダーを自認していること、政治についてもそうですけど、ある種、ラベリングのようなものを公表したことで、たくさんのメディアの方々にお声がけいただき発信の場をいただけたことは、とても感謝しています。メディアだからといってあまりかしこまらず、地元のギャル友に話をするようにしていたのですが、そのスタンスを受け入れてくれてありがたかったです。

アカデミックな話題や話し方をすれば、アカデミックな人にしか伝わらない。そうじゃなくて虎鉄は、地元で結婚して子どももいてみたいな、課題から遠くの位置で生活を送っている人たちにこそ、知ってほしいと思ってるから。その人自身の人生もそうだけど、子ども世代がより多くの選択肢の中から生き方を選べる時代を作っていく、その当事者性を強く感じてもらえたら嬉しいなって思い活動をしていました。

でも、そのためであれば、色々な方向からボロボロに貶されることが平気かと聞かれると、やっぱり平気なわけないんですよね。ただでさえ、普段の生活の中で不平等な扱いや社会制度の中でしんどさを抱えながら生きている訳で。平気じゃないけど当事者の声が今必要とされていて、特権を持っている人達が権利を分配する行動のきっかけになればと思い、矢面に立っています。

それでも今年は、虎鉄が持つたくさんの側面を発信することで、これまで様々なシーンで先陣を切って闘い続けて下さった上の世代の方たちとの繋がりを持つことができ、実りのある年でした。表に立って発言することは決して良いことばかりではないけれど、この出会いは自分にとってとても大きなもので、これから大切にしていきたいものが一つ増えたような気持ちでいます。

ーー東京と気仙沼の二拠点で活動を本格化していく2022年。誰も傷つかない、傷つけないコミュニティ作りを目指して

東京で自分自身を取り巻く社会課題を中心に様々なアプローチをしてきた一年間だったけれど、都心部に限った活動をして変革を求めるのも無茶なのかなって思い始めているんです。東京は最高で大好き。でも、「多様性」という言葉ばかりが資本主義化されて制度や改革という点では、停滞したままなのが現状。

であれば、都心部での活動も並行しながら、前々から考えていた当事者コミュニティやイベントがゼロに等しい地方で、クィアやシングルペアレント、外国籍の人などマイノリティとされている人たちを包括的に多様性とした街づくりにチャレンジしてみるのもいいかなって。

そんな感じで11月から気仙沼にも拠点を置いて活動することにしたものの、お仕事で呼ばれてとかではないから、正直仕事なくて冷や汗かいてる(笑)。でも、なんとかなるかなぁ精神で、当分の間は続けて行こうと思っています。

元々、地方に住みたいという気持ちはあったんですよ。でも、どうしても性規範みたいなものが色濃く残っているイメージが拭えていない。そういったイメージが地方における人口流出や、IターンないしUターンの数にも影響しているんじゃないかって結論に至った時、何かできることがないかなと思ったんです。都心部と比べて命や暮らしに関わる保障が整備されていない自治体が多い中、それでも生まれ育った地元で暮らしていきたい、あるいは思い描いた理想の生活のために地方で生きていきたいと思っているマイノリティの方たちの力になることとは、どんなことなのかを思考している最中です。

今はまだまだフォトグラファーやエディターのお仕事をさせていただくことが多いけれど、来年からはディレクションもしていきたい。気仙沼を拠点とした活動にも繋がってくる話になるんですけど、一区画だけの責任を負うのではなくて、全責任を負いつつ全てを見渡せるディレクターという立場で、誰も傷つくことなく、排除することなくプロジェクトを成功させてみたいんです。フォトグラファーという職業一つとってみても、実際世の中にどういう風な出方をするか100%は分からないですよね。

もしかすると自分のポリシーに反する言葉が写真に添えられて街頭に掲出されるかもしれないし、モデルの方が傷つくような企画コンセプトのもと無自覚のまま撮影が進行してしまうなんてこともあるかもしれない。そういうことが往々にして存在するこの社会を変えていくために、信頼できる人たちと手を取り合い、誰も傷つけない、傷つかないコミュニティを実現するためのスタートを切りたいなって思ってます。

◆ 中里虎鉄
フリーランスのフォトグラファー・エディターとして雑誌、ウェブマガジン問わず活動中。近年は様々なメディアでコメンテーターとしても活躍の幅を広げ、ジェンダーや政治などのトピックスについて親しみのあるギャル口調で等身大の見解を述べるスタイルが注目を集めている。
Instagram@kotetsunakazato

写真/中里虎鉄
取材/芳賀たかし
記事監修認協力/認定NPO法人ぷれいす東京
記事制作/newTOKYO

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