女性に向けた性の解放区。歌舞伎町・SMバー「アルカディア東京」のイベント「ビアンバイナイト」で満たされる、同性間でのフェティシズム欲求

左から、ふゆさん、鉄心さん、ひなさん

新宿・歌舞伎町の区役所通りに面した雑居ビルの一室にSMバー「アルカディア東京」がある。中でも隔月で開催される女性限定イベント「ビアンバイナイト」には、多様なフェティシズムを持ったレズビアン女性やバイセクシュアル女性が集う。

今回はアルカディア東京・オーナーの鉄心さんをはじめ、「ビアンバイナイト」を企画・運営していたひなさん(現在は他の女性が運営)とスタッフのふゆさんにイベントが生まれた経緯や、その場でどのようなコミュニケーションが交わされているのかを伺った。

ーー様々な願望を抱えた女性が足を踏み入れる「ビアンバイナイト」

ーー「ビアンバイナイト」を始めたきっかけや、どのような思いを抱いた人が訪れるのか教えてください。

ひな: コロナ禍で「何か新しいことをしたい」と思い、スタッフとともに立ち上げたのがきっかけです。以前から、女性同士が男性の目を気にすることなく出会える場所を提供したいという思いがありました。

来店されるお客様が求めるのは、恋人やSMパートナーといった「相手」。もう一つは、女性に縛られたいという「プレイ」そのものに分けられると思います。話を聞いてみると男性のパートナーがいるものの、自身がマゾヒストであることを自覚していて「SMプレイは女性から受けてみたい」という人もいますね。

ふゆ:ここ数年で 、“パートナー”という言葉は生涯を共にする家族のようなニュアンスで使われるシーンも多くなりましたが、SMにおけるパートナーの定義はより広く、フェティシズムや関係性の形も様々です。

鉄心:例えば僕に関して言えば、複数人と主従関係を結び、一生を共にする一人だけの恋人はつくらないという関係性を好みます。これもまた、パートナーと呼べる関係性だと考えています。

ーー女性同士だから言える性との向き合い方

ーー女性同士でのSMプレイでは、どのようなものを得られると感じていますか。

ふゆ: 私は性別関係なくサブミッシブ(受け身、従者)な立場になることを好みますが、相手の女性が楽しそうに笑って「かわいい」と言いながらドミナント(リードする、支配する側)として振る舞ってくれると嬉しいし、楽しくなってくるんです。私と同じように、男性とのプレイとは一味違った“味わい”を見出している人は多いのではないでしょうか。

鉄心: 女性が女性に対して求めるものは、ジェンダー規範とは離れた位置にあると考えています。

「男性/女性はこうあるべき」という価値観が払拭出来ていない社会の中で、女性同士の関係性を求める方の声を聞くと、世間一般が定義する“女性らしさ”からの解放に楽しさを見出している印象があります。

ーーSMバー「アルカディア東京」は自己発見と自己探求の場でもある

ーーお店へと足を運ぶ方を大切にするために、意識していることはありますか?

ひな:入店する際には必ず性的趣向を把握するためのアンケートへの回答と、他のお客様を笑ったり、否定したりしないといいった6つの注意事項を確認いただくようにしています。人間関係や物事に対する考え方が画一的なものではないように、SMに対する受け取り方も様々。了承してもらえない場合は入店をお断りしています。

誰かがムチで打たれている姿を見て「あんな痛そうなことされて何が良いの?」と思う方もいると思います。ただ、その考えはその方の中だけで留めてもらって、誰かを否定するために発することは許されることではありません。

鉄心:自分には理解出来ない、一人ひとりのあり方を受け入れるこそが大切だと思います。日々、様々なフェティシズムを持つお客様と出会うなかで、理解が追いつかないことに直面することもたくさんあります。ただ、それを全て理解することは難しいですし、そもそも理解する必要はないんですよ。

ー最後に「アルカディア東京」を訪れたいという方に向けて、メッセージをお願いします。

鉄心: 性にまつわる話というのは、どこでも、誰にでも話せるというものではないですよね。ただ、「アルカディア東京」という空間であれば自分の本音や願望を話したとしても、変な勘ぐりや反応をされることはありません。内に秘めた正直な気持ちを誰かに話してみたい方は、きっかけづくりの意味でも一度、足を運んで損はないかと思います。

ひな:人間関係で違和感を抱いていたことが、SMをはじめとするフェティシズムを起点として、解決の糸口が見つかる可能性もゼロではないです。当たり前だと思って気づけなかったことに気づけるかもしれません。

ふゆ:「アルカディア東京」、そしてそこで開催される「ビアンバイナイト」は自らを語るための言葉を一生懸命探したり、恋愛やセックスにおける価値観を模索したり出来る場所です。フェテッシュな欲望を満たす以外にも、自身を深掘りするための手段として知ってもらえたら嬉しいです。

◆アルカディア東京
東京都新宿区歌舞伎町2-10-6 ピア新宿3F
X@ARCADIA_TOKYO
※18歳未満、高校生のお客様は入店することができません。
※営業時間や入店に関する注意事項等の詳細は公式サイト及び公式SNSをご確認ください。

取材協力/アルカディア東京
取材・文・写真/Honoka Yamasaki
編集・記事制作/newTOKYO

差別と分断によって脅かされる、マイノリティの命。LGBTQ+当事者が懸命に生きる姿を追ったドキュメンタリー映画5選

2025年7月20日(日)の第27回参院選投票日を前に、あからさまに社会的マイノリティへの差別や分断を煽る言動が強まっている。セクシュアルマイノリティ当事者やアライに対して、同性婚法制化反対やトランスジェンダー当事者の尊厳を平気で踏みにじるSNSアカウントも多く目にする。今以上に差別と分断を煽る者、それを支持する者が増えれば、個人が幸せを追求する権利がますます脅かされることになるだろう。 社会によ… もっと読む »

続きを読む >