ボーイに対する偏見の眼差しがなくなれば…。元売り専ボーイ・望月もちぎさんが描く“ゲイ風俗のリアル”。

元売り専の望月もちぎのインタビュー

元ゲイ風俗、ゲイバーのスタッフとしての日常をポップに切り取り、エッセンスとしてゲイ、ひいてはLGBTという社会的マイノリティの現状やリアルを取り入れたキャッチーなエッセイマンガがSNSを始め多くの人たちの共感と指示を受けている望月もちぎさん。10月30日には新刊『ゲイ風俗のもちぎさん3 セクシュアリティは人生だ。』を出版した。
本作では“ゲイ風俗”にフォーカスした14エピソードに加え、新たに描き下ろした就職や母親とのエピソードも収録されている。
今回は、もちぎさんにボーイとして働いていた当時のことやこの一冊に込めた想いなどを伺った。

――売り専で働くボーイに対する誤解・ズレ・偏見を少しでもなくすために閉鎖的な“ゲイ風俗業界”を描きたかった。

“売り専”(ゲイ・バイ男性向け性風俗店の略称)で働いているというと、ゲイコミュニティの中でも偏見の眼差しを向けられることが少なくないことは以前から感じていました。それは現役ではない、いわゆる“売り専あがり”でも同じことが言えて。ゲイ風俗は稼げると思われがちだけど、サービスの内容や社会的な境遇も含めて対価に見合ったお金を稼げる職業なのかを考えてみると…決して首を縦に振れるようなものではない。そもそもLGBTが全国民の多くて10%と言われている時代で、その中でもゲイセクシュアルやバイセクシュアルのお客様をターゲットにした商売。ノンケの方たちが出入りするような女性キャストがサービスを行う性風俗店と比較するとマーケットの規模が小さいことは、そこだけ切り取ってみるだけでも分かるかと思います。

お会いした人の中には「ケツ売るだけで何百万も稼げるんだろ?」と仰られた人もいましたが、ギャラだけでそんな稼げるわけが無いし、百万円稼げるボーイでも全国に数人いれば良い程度の業界。とにかく“ゲイ風俗”への誤解や偏見によって生きづらさを感じているボーイや元ボーイが「元々ボーイやってたんだよねぇ」と、自分の職業についてライトに、せめてゲイ業界内ではもう少し話せるような社会へと進んだら良いなぁと思って描いたのが今作に収録されているエピソードになっています。売り専の中で働いているボーイとのエピソードにスポットを当てて、閉鎖的な世界で起きているリアルな事情をポップに昇華できれば、微力ですが自分なりにできる社会への貢献になるのかなと。

――否定をしない会話を心がけているもちぎさん。「良い大人よりも、良い友達でありたい」その意味とは?

ありがたいことに、これまでのSNSでの発信や書籍の刊行によって、もちぎ=相談役みたいなイメージを持っていただくことが多いのですが、別に器が大きいわけでもなければ懐が広いわけでもなく…本当、何でもないんです。当時、売り専における自分のポジションは、気付いたらよく隣に座っている奴ぐらい。多くの風俗店がそうかもしれないのですが、出勤すると指名があるまでは控え室で他のボーイと話したり、ゲームをしたり、だらだらしたり…。そんな毎日が繰り返されれば、自然と距離も近くなりますよね。週5勤務でしたし(笑)。頼りたくなる存在、というよりは「やることないし愚痴の延長線上で相談してみようかな」という感じに近かったんじゃないでしょうか。「別にお前に言っても仕方ないんだけど…」と相談してくるのは同僚だけでなくお客さんにも多くて、年齢関係なく話をしてくれましたね。

話を聞く上で大切にしていること…そうですね…。相手の考えや言葉を否定しないこと。自分の意見はもちろん言いますよ。ただ、提案的なニュアンスで話すよう意識はしています。とはいえ、自分も10代で家出をして売り専で働きはじめた身、世間の思う真っ当な生き方をしているとは言えない人間という自覚はあるので、大したことは言えないんですけど。未成年の子に「家出をしたい」と相談されても「ええんちゃう?」と言ってしまうし。良い大人ではなくて、良い友達になれたら良いなっていう気持ちで話を聞いてることが多いかも。相手の境遇やその人にしか分からないことだってあるじゃないですか。物事に対する考え方や感じ方は、他者と自分では100パーセント同じということはゼロに等しいと思っている人間なので。

自分から誰かに相談するということは、これまでにあまりなかったかもしれません。話すのは大好きなので、友達と飲みに行ったついでに近況報告はしますけど、嫌なことや悩みごとがあったとしても寝たら忘れるタイプ(笑)。そもそも悩むという経験をしたことが人生で数えるほどしかないかもしれません。悩まなすぎて、今日のようなライフスタイルに至りました(泣)。

――「悩みは大人になるまで大事に抱えて」アウティングされた過去を振り返り、今思うこと。

新たに書き下ろしたページでは、ゲイ専用の出会い系サイトに登録していることをアウティングされるところから退職に至るまでの経緯を描いています。当時は自身のセクシュアリティがバレて嫌になった、というよりはセクシュアリティによって働く場所を奪われてしまう現実に落胆しました。売り専を辞めて、4年間大学へ通い“新卒”という肩書きを手に入れ、ようやく真っ当な生き方ができると思った矢先の出来事でしたので、他者によって描いていた未来を奪われてしまったことに対するショックの方が大きかったです。

アウティングされた直後は、やっぱり“新卒”という肩書きが惜しくて理不尽な態度を取られたり窓際族になったりしても、居座ってやると思っていたのですが「この環境で何十年も過ごすのは無理やな」と入社4ヶ月で退職しました。「今の時代、SNSがあるから…」「世間的にLGBTがフィーチャーされているから…」と、過去と比べて若者は生きやすくなったなどと言われることも多いですが、全員が全員そういうわけではないし、「若い」ということが「生きやすい」に繋がるとは思わないんですよね。みんな生きている場所も世界も悩みも全て同じなんてことはないし、学生に至っては自分の居場所なんて学校、バイト先、家ぐらい。自分一人の力では現状を変えることが難しい狭い世界で、それぞれ悩みを抱えて生きている。

ただ、色々な悩みを抱えていた時代も経験と年月を積むに連れて、不思議とすごく小さい事に思えてくるのだなというのは、自分やお客さんの経験を通じて感じることはあって。例えば、新宿二丁目に出たての時なんかは「なんでこんなに良い男おるのに、一人のノンケのことを想って悩んでたんやろ!世界広いっ!」とかなりましたもん(笑)。自分が大きくなって相対的に悩みが小さくなるというか。過去の自分を愛おしく思えたり悩みが時を経て、大切な思い出になることってあるんだなと振り返ることが多くなりました。なので今、悩みを抱えている人がいたら、その悩みを放ったり無理に解決しないといけないと思うんじゃなくて、悩みが思い出に思えるようになるまで大事に抱えていて欲しいです。

今作品はゲイ風俗で出会ったボーイたちにスポットを当てたものですがセクシュアリティやジェンダー、セックスワークに関するリアルな世界を描きつつも、エッセイマンガでポップに誰でも読みやすいようまとめた一冊になっています。ゲイ風俗業界で働く人たちの姿を通して、少しでも多くの読者の彼らに対する見方・考え方が良い方向へと転換することを願っています。

■ プロフィール/望月もちぎ
10代での家出を機にゲイ風俗やゲイバーのスタッフなど、ゲイ業界に身を置いて生きてきた、ギリギリ平成生まれの学生作家。2018年1月よりスタートさせたTwitterアカウントのフォロワー数は60万人に迫る勢い、その気取らないキャラクターと他者に寄り添う姿勢がセクシュアリティ問わず幅広い年代に指示を受けている。飼っている猫が可愛い。
Twitter@omoti194
YouTube@もちぎ【ネチコヤンとゲイ作家】
note:望月もちぎ
■ 著書/ゲイ風俗のもちぎさん3 セクシュアリティは人生だ。(発行/KADOKAWA株式会社)

漫画・イラスト/もちぎ
写真/EISUKE
取材・インタビュー/芳賀たかし
記事制作/newTOKYO