ゲイは強制収容所で最下層。同性愛者7人の証言をもとに、ナチ党支配下を描くドキュメンタリー映画「ナチ刑法175条」が3/23(土)より公開。

ドイツでかつて施行されていた同性愛者を差別する「刑法175条」により、特にナチ支配下で男性同性愛者が弾圧されていた事実を、6人のゲイと1人のレズビアンによる証言を通して描いたドキュメンタリー映画『ナチ刑法175条』が3月23日(土)より公開される。

監督は『ハーヴェイ・ミルク』のロブ・エプスタインと、同作のスタッフだったジェフリー・フリードマン、ナレーションは自らもゲイであることを公表しているイギリス人俳優、ルパート・エヴェレットだ。
2000年ベルリン国際映画祭最優秀記録映画賞を始め多数の映画賞を授与された本作。今回の公開は新たに開発されたデジタル・リマスター版による上映となる。

ーー黄金の20年代とも称された性に寛容な時代は、ナチ党の支配により終焉。

本作が描き出すのは、性に寛容であった1920年代からナチ党が政権につき男性同性愛者への弾圧を激化させた影響を受けて、ナチ党終焉後も自らの経験を恥じ、長らく語ることさえできなかった人々の姿。

ある人は当時を語る難しさについて話す一方、またある人は「同性愛者の天国」として知られたベルリンのクラブで踊っていた頃を懐古する。
当時は自然、友情、人間の肉体を讃えることを支持する青年運動が盛んだったが、ヒトラーが権力を握ると状況は一変したのだ。

ーー男性同性愛者を“ドイツ国民を堕落させ、弱体化させる危険な病”とみなしたナチス。

強制収容所における同性愛者に対する方針は「再教育」であり、ユダヤ人でない者の多くがガス室を免れたが、3分の2は死亡。酷い扱いを受け何人かは去勢された。

当初レズビアンも対象とするべく検討したが「一時的で治癒可能な状態」とみなし、最終的には対象から外された。しかし、多くのレズビアンがドイツを去る、あるいはゲイと結婚する人生を選択した。アネッテ・アイクは本作で証言している唯一のレズビアンだ。

ーー強制収容所での聞くに堪えない、非人間的で凄惨なゲイ男性への扱い。

強制収容所ではユダヤ人が上着の背中に黄色いダビデの星を、同性愛者はピンクの三角印(ピンク・トライアングル)だった。そして、強制収容所内のヒエラルキーでは最下層がゲイであり、暴行やレイプは当たり前だったとの証言も。

終戦に至った後も175条で迫害された人々は犯罪者とみなされ、ナチスの犠牲者として法的な承認を受けた者は長らくいなかった。
本作におけるクラウス・ミュラーによるナチス・ドイツ下での同性愛者の扱いに関する調査結果は、ワシントンD.C.にあるアメリカ・ホロコースト記念博物館の常設展示の一部となっている。

ーー刑法175条により約10万人が捕まり1万〜1,5万人が強制収容所に送られ、強制労働や医学実験など非人道的な扱いを結果、生存者はおよそ4000人、本作製作時に生存が確認出来たのはわずか10名に満たなかったという。また同性愛を理由に逮捕され、いきなり収容所に1年半拘置された者や、中にはナチドイツ占領下のフランスでも収容所に送られた者もいたという。

ナチ党政権下を生き抜いた同性愛者7人による貴重な証言の数々で構成された本作。LGBTQ+コミュニティの権利保障が未だにされない日本で生きる人々にとって、同性愛者差別の歴史の一端から目を逸らさずに観てほしいドキュメンタリー作品の一つだ。

◆ナチ刑法175条 3月23日(土)〜新宿K’s cinemaにてロードショー、全国順次公開
http://www.pan-dora.co.jp/paragraph175/

監督:ロブ・エプスタイン(『ハーヴェイ・ミルク』)+ジェフリー・フリードマン 原題:Paragraph 175 米国/1999年/英語・ドイツ語・フランス語/カラー/81分/日本語字幕付き 日本版字幕:川口隆夫 宣伝デザイン:潟見陽 パブリシティ:スリーピン 参考文献 「ピンク・トライアングルの男たち」 (1997年/パンドラ発行/現代書館発売

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記事制作/newTOKYO