LGBTsのこころと労働環境をケアする社外相談窓口「レインボーコール」 。五十嵐ゆりさんが一人ひとりの声に耳を傾ける理由とは?

レインボーコールの五十嵐ゆりのインタビュー

福岡にてダイバーシティ&インクルージョン(多様性と包摂)社会の実現を目的としたNPO法人『Rainbow Soup』発足をはじめ、企業のLGBTs施策支援に取り組むNPO法人スタッフなどを通じてアライな社会を目指し、献身的に活動してきた五十嵐ゆりさん。企業へのSOGIE/LGBTs研修・セミナーやコンサルティングを軸とした『レインボーノッツ合同会社』を東京で設立したのは2018年だった。

2020年6月から、いわゆる「パワハラ防止法」により大企業に設置が義務化されたばかりの社員相談窓口(※中小企業は2022年4月から義務化予定)。SOGIハラ(性的指向や性自認に関わる差別的言動や嫌がらせ)とアウティング(本人の許可なく性的指向や性自認を他人に暴露すること)もパワハラにあたると位置付けられているものの、相談窓口が社内に設置されるケースに対して「アウティングの可能性がゼロではない」「社内に自身のセクシュアリティを知っている人がいることが不安」「ハラスメントを受けているが、自身のセクシュアリティなどをカミングアウトしないと説明しようがない」といった懸念も指摘されている。レインボーノッツでは昨年から第三者機関としてSOGIE/LGBTs向け社外相談窓口「レインボーコール」のサービスをスタートさせている。

今回は、代表・五十嵐さんご自身のセクシュアリティへの気づきや、マイノリティとして経験した社会の生きづらさも反映された「レインボーコール」に込めた思いを伺った。

――ハラスメントに対する意識が低かった2000年代初期。LGBTsである自身の将来を見据え、民間団体を発足!

初めて人を好きになるという経験をしたのは中学二年生の時。同じ女子バドミントン部に所属していた一つ下の後輩でした。「同性の女性が気になる」。そんな違和感は、次第に大きな悩みとして自分一人では抱えきれないほどのものに。押し潰されそうになる寸前、意を決してその気持ちを母へ打ち明けることにしたんです。すると、母は「気にしないで良いから。大丈夫」と驚くこともなく、ただただ私の話に耳を傾けてくれました。話を終えると肩の荷がすっと降り以前のような不安な気持ちは無くなったものの、依然として「他人には知られてはいけないこと」だという認識は変わらなかったため、その後も彼女に思いを告げることはありませんでした。

それから数年後に手にした『別冊宝島64 女を愛する女たちの物語』(宝島社)には、「レズビアン」という女性を愛する女性が私以外にもいること、そんなセクシュアルマイノリティの方たちが「新宿二丁目」という街に集まること、サークルやコミュニティで友達が作れること…高校生だった私には新鮮な情報ばかりが記されており、食い入るように何度も何度も読み返しました。

「女の子が好きな女の子は私だけかもしれない」と中学生の時に抱いた不安な気持ちは薄れ、大学では初めて女性とお付き合いをして、タウン誌の編集者として新生活をスタートさせた福岡ではパートナーとの同棲生活も経験しました。

レズビアンをカミングアウトした五十嵐ゆりのインタビュー

月日を重ねるにつれて自分のセクシュアリティに対する考え方がポジティブになる中で、働き始めた2000年前後というのは、社会的にはまだまだLGBTsに対しての理解や認知はおろか、ハラスメントに対する意識も決して高いと言えるような状況ではありませんでした。飲み会では上司や同僚が社員の恋愛事情をはじめとするプライバシーに関して土足で踏み入るような言動は当たり前に飛び交っていましたし、私は私で異性愛者であることを前提に会話がなされ、時には「彼氏一人もいないなんて寂しい生活だな」なんて言われることもありました。

もちろん、同性パートナーシップ制度のようなものもありませんでしたから、私とパートナーの将来が自治体や企業の福利厚生で守られるという保障はゼロに等しい環境。そういったことを除けば、とてもやりがいのある仕事ではありましたが、5年勤めた後フリーランスのライターとして独立することに。並行してレズビアンパーティーのオーガナイザーやDJなどもやっていたのですが、気づけばそんな生活を続けて10年、30代も後半に差し掛かっていました。ふいに「LGBTsの未来って誰が保障してくれるの?」と疑問と不安が入り混じったような気持ちになる瞬間が幾度となくありました。

そういった切迫感、そして同じ立場の友人たちの協力もあって、2012年に民間団体『Rainbow Soup』を設立。LGBTsのコミュニティに属し15年ほど福岡に住んでいたこともあり、広いネットワークは構築できていたので活動もコンスタントに行うことができました。その後、2015年にSOGIE/LGBTsに関する課題の見える化を進め、支援の輪を広げながら、ダイバーシティ&インクルージョン(多様性と包摂)社会の実現を目指すNPO法人として再出発しました。

レズビアンをカミングアウトしたレインボーコールの五十嵐ゆり

継続的な活動が目に留まったのか在福岡米国領事館の方にお声がけいただき、アメリカ国務省主催のLGBTs研修プログラムを受講するために3週間ほど渡米。全米で同性婚が合法となった直後の2015年のことでした。実際に足を運んでみると、確かに大都市では至る所にレインボーフラッグが掲げられていましたが、アメリカ南部や西部の保守的な地域では、LGBTsへの正しい理解・認知が広がりをみせているとは言えない雰囲気でした。

そんな環境の中でもLGBTsフレンドリーな社会を目指して活動する団体と交流する機会がありまして、彼らが啓発活動として行なっている、一軒ごとにお宅を訪問してLGBTsへの理解を求めるという地道な活動に感銘を受けたと同時に、「セクシュアルマイノリティを取り巻く課題は、半径1mから変えていかなければいけないことである」と再認識させられました。

帰国後はそのモチベーションをそのままに、研修を共に受けた企業のLGBTs施策支援に取り組むNPO法人代表と話し合い、そのNPO法人の東京スタッフとして『Rainbow Soup』と兼任する形でジョイン。2015年秋ぐらいから2018年の6月まで東京・福岡の2拠点でLGBTsが社会にとって当たり前の存在として認知してもらうための活動に注力していました。

――「社内」ではなく「社外」に相談したい人が潜在的にいることを知って欲しい。誰もが今より生きやすい社会づくりへの貢献。

2018年9月に新たに設立した『レインボーノッツ合同会社』のサービスとしては、SOGIE/LGBTs研修やセミナー、コンサルティングなどだけでなく、働く人たちに向けた「SOGIE・LGBTs社外相談窓口 レインボーコール」も去年からスタートさせています。これまでにたくさんの企業の方たちと研修やコンサルティングを通してお会いする機会をいただいたのですが、LGBTs施策には積極的ではあるものの、どのように進めて良いか分からないと足踏みをされている企業が数多くありました。中にはLGBTsへ向けた社内相談窓口を設置したものの、利用者がほとんどおらず機能していないというご相談を受けることも。

2020年6月から、いわゆる「パワハラ防止法」により先行して大企業に社員相談窓口の設置が義務づけられましたが、セクシュアルマイノリティである一個人としてはSOGIE/LGBTs関連の悩みを、自身の生活サイクルに大きく関与している組織内に相談するというのは、とてもハードルが高いのではないかと感じていて。私も会社員時代に自身のセクシュアリティについて「社内で知られたらどうしよう」という思いが常に頭の片隅にある中で働いていた経験がありますから、やはり同じオフィスにいる相談窓口担当の社員に悩みを打ち明けるというのは、ためらう方が多いと思うんです。

レズビアンをカミングアウトした五十嵐ゆりの顔

LGBTs関連施策の事例が少しずつ増えてはいるものの、現場で奮闘する担当者の方々の思いや取り組みが、なかなか浸透しないもどかしさもありました。相談窓口が機能していない背景として、そもそも相談しにくい職場風土にも課題があるのでしょう。いずれにしても潜在的に困っている人はいるはずだと、ずっと感じていたんです。

中学生の時、母に自身のセクシュアリティについて相談した後、スッと気持ちが楽になった当時の経験も重なり、何かできないかと考えた時に福岡で出会った「自分らしく働く社会を実現する」というミッションを掲げている、株式会社マイソル代表の福澤久さんと阿南由美さんとの出会いを思い出したんです。アウトソーシング事業の一環でコールセンターの運営をしているお二人に「SOGIEやLGBTsに関する悩みを抱えている人たちへ向けた第三者としての社外相談窓口を提供したい」と話をすると快く了承してくれ、現在までにお問い合わせを多数いただいており、成約実績もあります。相談員はいずれも公認心理師や心理カウンセラーなど有資格者かつ基礎的な知識や相談対応の実績を持っている方々で、悩みに寄り添いながらプライバシーにも配慮しますので安心してご利用いただけると思います。 

また従業員・スタッフが要望する場合、その声を相談者本人の要望に沿って、プライバシーに最大限配慮した上で企業担当者に届けることも可能です。LGBTsの方で相談するまでに至らなかったとしても当事者が社内にいることを前提とした企業の受け入れ体制の整備の一環として取り入れることで、心理的安全性の向上、仕事へのモチベーションやパフォーマンスの向上にも効果があるのではないかとも思っています。

レズビアンをカミングアウトした五十嵐ゆり

■ レインボーノッツ合同会社
「ノッツ(Knots)」=「たくさんの結び目」の名の通り、LGBTsやSOGIEを取り巻く現状を踏まえ、人と人、人と組織、あるいは組織と組織をつなぎ、諸課題の解決や改善に導くための事業を展開する。企業・一般向けの研修・セミナーの講師やコンサルティング、SOGIE/LGBTs向けの社外相談窓口「レインボーコール」、eラーニングやビデオ研修などのサービスを設け、あらゆる立場・視点からLGBTsの方を含む誰もが安心して暮らすことのできる社会づくりを目指している。
https://rainbowknots.net/
■ Twitter@rainbowknots
■ Twitter@igarashiyuri

取材/芳賀たかし
写真/新井雄大
記事制作/newTOKYO 

※この記事は、「自分らしく生きるプロジェクト」の一環によって制作されました。「自分らしく生きるプロジェクト」は、テレビでの番組放送やYouTubeでのライブ配信、インタビュー記事などを通じてLGBTへの理解を深め、すべての人が当たり前に自然体で生きていけるような社会創生に向けた活動を行っております。
https://jibun-rashiku.jp

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