障がい者やピンクリボン支援、フードパントリーなど、お寺の枠にとらわれずに多岐な活動に取り組む『最明寺』(埼玉県川越市)。2020年から同性結婚式が挙げられる仏教寺院としても注力し、多様な社会実現を目指してきた。そんな寺院で今月6日、一組目となるLGBTウェディングが執り行われた。
結婚式を挙げたのは、ライス・ヨアブさん(58歳)とヨラム・メイロンさん(68歳)のイスラエル人カップル。二人は約30年前から生涯のパートナーとして生活を共にし、日本好きが高じて仏前挙式を挙げるに至った。
今回は日本で結婚式を挙げた二人の愛あふれるエピソードと、地域に根づき、多様性を尊重する社会を目指す最明寺副住職・千田明寛さんの想いをご紹介。
ーー「人を愛することに違いはない」。好きな人とただ家族になりたいという想いを叶える。
しだれ桜の花びら舞う暖かな春の日差しに包まれた当日。紋付羽織袴姿の二人は、副住職に先導され入堂。それから御本尊・阿弥陀様に見守られながら、厳かな雰囲気の中で誓いの言葉を読み上げた。
二人に授与された念珠は、レインボーフラッグ仕立ての腕輪念珠で、「念珠の輪のように心を丸く幸せになってほしい」という想いが込められたもの。最後は参加者に囲まれてのフラワーシャワー、笑顔たっぷり仲睦まじい姿が目に焼きつく光景だった。
親日家の二人は今回が7度目の来日。
日本の文化や人が好きだと語り、二年前にTIME誌のウェブ記事で最明寺の取り組みを知ったことから、日本人にとって神聖な場所である仏教寺院での結婚式を望んでいたそうだ。そして、境内のやさしい雰囲気と副住職・千田明寛さんのおもてなしの心も相まって、コロナの収束を待ち晴れて夢を叶えることができたと嬉しそうに話してくれた。
イスラエルはLGBTQ+先進国のひとつ。1990年代にはさまざまな差別が禁止され、その後同性パートナーシップ法や養子縁組などが認められた。同性愛がタブー視されるユダヤ教国家にも関わらず、「LGBTフレンドリー」を謳う異色の国である。それでも同性婚は法的に認められていない。敬虔なユダヤ教の間で法制化への反対が根強いためだ。しかし、同性婚ができる国で結婚し、帰国したカップルには婚姻関係が認められている。
二人は2014年にアメリカ・ニューヨーク州で結婚。この日は2度目となる式に臨んだ。
ライスさんは、「30年近く人生を共に歩んでいますが、今回日本で式を挙げたことで改めて二人の関係性を見直すことができました」と喜びをコメント。
ヨラムさんは、「法の下でも、家族であることをちゃんと認められたかった。私たちと他の人々は何が違うのでしょうか。みんな同じで、何も変わらない。人を愛する権利は、すべての人に公平にあるべき」と訴えた。
そして、こうして30年も一緒に連れ添う秘訣について聞くと、二人は「お互い歳も重ね、以前と比べると見た目も性格も変わった部分のほうが多い。愛の形はやはり同じではなく、多少なりとも変わっていくもの。だけれど、友達のような関係性でいられることが一番のポイントなのではないでしょうか。僕たちはお互いに最良のパートナーであると共に、ベストフレンドなんだよ!」と笑顔いっぱいに教えてくれた。
ーー寺院ができること。人に地域に寄り添った「まちづくり」から、新しい可能性を生み出すために。
埼玉県川越市が2020年5月からパートナーシップ宣誓制度を導入したのを機に、最明寺でも受け付けを開始したLGBTウェディング。「多様性のある社会を実現するため、どんな人にも寄り添う仏教の精神から、すべての人に幸せを届けたい」と願う副住職・千田明寛さんは、時代にあわせた寺院のあり方について、さまざまな角度から積極的に取り組んでいきたいと意欲を示す。
千田さんは、仏教の見識を広めるために2016年にインドに留学。島国の日本と違い、異なる生活スタイルや宗教の人たちが共に暮らす姿から、「人は自分と違って当たり前」と、多様性を受け入れるインドの土壌に憧れを持つようになった。帰国後は培った経験を活かし、性別や言葉、年齢、障がいのあるなし問わず、誰もが気軽に訪れることのできる寺院づくりに役立て、その取り組みのひとつにLGBTウェディングを掲げた。
ーー国内での同性婚の法制化に関する問題は兼ねてより話題に上がってましたが、結婚式をあげること自体は法律で禁じられていません。仏教の教えには、「誰しも差別せずあらゆる人を広く受け入れる」という稀有な考え方があります。「すべての人に幸せを」をテーマに、最明寺でも幸せの門出を祝福すると共に、川越市の目指す多様性なまちづくりにも貢献できればと考えております。
最明寺の取り組みは実に面白い。
LGBTQ+施策やさまざまな支援はもちろんのこと、華やかな花手水やプロジェクションマッピング、ワークショップにアート展など多岐にわたる。千田さんはこれからの時代、寺院が持つ役割についても模索していかなければいけないと先を見据えた視点を持つ。
ーーかつて寺院は、地域の人びとが生活で何かあった際に気軽に訪れることができる「地域の人と人を繋ぐハブ」のような存在でした。時代が変わるにつれて、その存在は死後の葬儀やお墓の管理にシフトしていき、日本人の仏教離れも急速に加速しております。若い世代が寺院に来る機会は滅多にありません。
ですが、仏教の本質は「抜苦与楽(苦しみを除いて、安楽を与えること)」です。自殺率の高さや幸福度の低さなどから鑑みる日本人は多くのストレスを抱えていると思います。仏教にどっぷり漬からなくても良いので、若い世代にもその良さや面白さに少しずつ気づいてもらうべく、エンタメとも取れるポップな入口を作るようにして、間口を広げられるように心がけています。
そして、寺院本来の役割である「地域の一部として人びとに必要とされる場所」として機能するために、積極的にまちづくりに参画しています。必要な手助けが必要とする方々に届くように、何ごとも一歩ずつ進んでいけたらと思っております。
ーー同性同士の婚姻が法的に認められていない日本。各自治体による「同性パートナーシップ制度」の普及が続くも、あくまで様々なサービスや社会的配慮を受けやすくする制度であり、法的な効力があるものではない。ライスさんとヨラムさんの「ただ好きな人と家族になりたいだけ」という願いのように、近い将来、日本もLGBTQ+が暮らしやすい社会になることを願う。
■瑶光山・最明寺
所在地|埼玉県川越市小ケ谷61(川越水上公園に隣接)
https://www.saimyouzi.com
https://saimyouji-wedding.com
写真/EISUKE
記事制作/newTOKYO