世界一のゲイタウンで知られる新宿二丁目。毎年お店が入れ替わり、新旧入り乱れながらも、僕たちに寄り添ってきたこの街は、いつから生まれ、今のようなゲイタウンになったのだろうか。
今回7年ぶりの新刊となる作家・伏見憲明さんの「新宿二丁目」では、この聖地をゲイの街にしたひとりの人物から始まったと明かす。そして、「この本が自身の代表作になるのではないか」とつぶやくほど、関係者への丹念な取材を積み重ね、知られざる歴史を浮かび上がらせる。
◆身近な存在だからこそ「知ること」はとても大切!
皆さんは、自分が興味を持っていることについて、どれくらい理解していますか?
例えば「風水」。
黄色や金色でヘビ革の財布が金運を招くとか、春に新調すると中身が「張る」のでお金が入ってくるとか、聞いたことありますよね。
でも本当の風水は「墓や家を建てる際に地形や地脈を読む地相学」。なので、星占いや手相と同じで、実は財布の運気なんて占えなかったりするんです。
風水で色は重要な要素だけど、金運=金色ってのはあからさまだし、ヘビが金運を呼ぶというのは日本の土着信仰から派生した「縁起担ぎ」みたいなもので、「受験に勝つ」でかつ丼を食べるのと同じようなものになります。
いえ、占いや幸運アイテムを否定しているわけではないんです。
ちゃんとした占いをしてくれる占い師だってたくさんいるし、縁起担ぎが招く幸運もたくさんあるのも事実です。「あなたが信じているもののこと、ちゃんと理解していますか?」という例え話です。
◆「新宿二丁目」を知ろう。
さて、LGBT当事者が「新宿二丁目」と言われて真っ先に思い浮かぶキーワードは「世界一のゲイタウン」じゃないでしょうか。
新宿の中でも特に小さな区画である「二丁目」にぎっしりひしめくLGBT関連のバーは、300件~400件以上あるとも言われており、LGBT関連のバーやハッテン場がある区画としては世界最大規模となっております。
でもただ単にここを「ゲイタウン」と言い切るのは微妙かも。実際は昔から住んでいる人も多く、昼間はオフィスや学校が多い普通の街なんですよね。
朝方にお客さんがその辺に投げ捨てたゴミをきれいに掃除しているのはこの街を利用するゲイ当事者ではなく、各テナントのスタッフさんだったり、地域に住んでいる方や定期的に開催されているお掃除のボランティアだったりもします。
ほらね。自分たちが「ゲイタウン」「自分たちの街」と信じている場所なのに、それを陰から支えてくれているLGBT当事者じゃない地元の方々の存在なんて、考えたこともないでしょ。
◆歴史を振り返り「新宿二丁目」の全貌を描いた一冊
これまでに数多くのLGBT関連著書を世に送り出した、伏見憲明さんが膨大な参考資料と取材をもとに、約20年の歳月をかけてまとめた著書「新宿二丁目」は、新宿二丁目に興味がある人はもちろん、実は新宿二丁目のことをよく知らない、めったに行かない人が読んでも「あらまあ、そんな歴史が!」と楽しく読める一冊です。
ただの歓楽街としての新宿二丁目ではなく、自分たちの文化を繁栄させてきた街を知るのは私たちのルーツを知ることでもあると言っても過言ではありません。
当時のLGBTを取り巻く社会的環境から、新宿二丁目にLGBTが集まるようになったいきさつ、陰から支えた功労者の方々。
この「新宿二丁目」を読まずして新宿二丁目を語るなかれ。自分たちのアイデンティティを知るための一冊をぜひ。
◆著者・伏見憲明さんからのメッセージ
「新宿二丁目」をテーマに本を書こうと取材を始めて二十数年。この度やっと一冊の作品とすることができました。著者として、二丁目を愛するすべての人に読んでいただきたく願っております。
新宿二丁目
著者・伏見憲明/新潮新書/2019年6月20日発行/820円(税抜き)/ISBN978-4-10-610818-1
伏見憲明/1963(昭和38)年、東京都生まれ。作家。慶應義塾大学法学部卒業。『プライベート・ゲイ・ライフ』をはじめ著書多数。小説『魔女の息子』で第40回文藝賞受賞。2013年より新宿二丁目にてゲイミックスバー「A Day In The Life」をオープン。
写真/EISUKE
記事作成/みさおはるき
(イラストレーター/漫画家 /コラムニスト/ たまに通販番組の出演者)
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