“おなべ“がもてなすホストクラブ「ニューマリリン」の3人を追ったドキュメンタリー『新宿ボーイズ』が11/5(火)限定上映。キム・ロンジノット監督はなぜ、歌舞伎町に惹かれたのか。

1990年代の新宿・歌舞伎町に「ニューマリリン」という、おなべ(作中では性別は女性、生き方は男性の人を指している)が接客するホストクラブが人気を博した。当時は今よりもLGBTQ+という言葉が浸透していない時代。色物としてメディアで取り上げられていても、問題視する者はいなかった。
そんな中、おなべとして混沌とした歌舞伎町を生き抜く3人のホストGAISH、TATSU、KAZUKIがいた。その様子を捉えたのが、キム・ロンジノット監督によるドキュメンタリー映画『新宿ボーイズ』だ。

今はなきニューマリリンで生きる3人を見てきた、キム・ロンジノット監督に、当時の貴重な話を聞いた。本作品は、“社会の逸れ者“とされる“アウトキャスト”と呼ばれる人たちの物語を集めた「OUTCAST Film Festival」で上映される。

1990年代の新宿歌舞伎町の夜の写真
1990年代の新宿・歌舞伎町

ーー人のエネルギーで満ち溢れていた新宿・歌舞伎町

ーー1990年代の新宿歌舞伎町は、どのような街でしたか?

新宿という街には圧倒されました。まるで未来に足を踏み入れたような気分。街中のスクリーンはとてもハイテクで驚きました。
夜道もとても安心で、深夜に甚平でスーパーマーケットに行っても、誰にも干渉されることはありませんでした。

新宿大ガード西交差点から見た1990年代の新宿・歌舞伎町

酔っぱらいの男たちは、攻撃的というより、ちょっと絶望的な感じ。 ネオンだらけの超近代的な通りから、鉢に花を植えた人がいる小さな裏通り、カウンターでラーメンを食べるお店がある通りまで、さまざまな顔を見せる街でした。当時の歌舞伎町については何時間でも話せます。

「ニューマリリン」で働いていることを母に伝えるKAZUKI

ーー「ニューマリリン」のホスト3人との出会い。一人ひとりの生き方の違いを間近で撮り続けた当時の記憶

ーー歌舞伎町で生きる、おなべにフォーカスしたドキュメンタリーを制作した経緯を教えてください。

初めて日本に訪れたのは、舞踏家の花柳幻舟の人生を描いた作品『幻舟』の撮影でした。彼女は、これまでに私がスクリーンで見てきた日本の女性像とは全く違って見えて、イギリスの女性と共通する点もあると感じたのです。

また、日本が持つある種の“矛盾”はとても興味深いです。日本は先進的で新しい技術を取り入れる国でありながら、いまだに保守的で上下関係がはっきりしている。
ただ、若者世代と親世代ではその価値観が少し異なることもあります。このことは、友人のYukiko Hohkiと一緒に撮ったドキュメンタリー『The Good Wife of Tokyo』でも描かれています。

彼女のトモエとスーパーから帰るTATSU

『新宿ボーイズ』で歌舞伎町のおなべについて撮影しようと考えた理由は、本作品の前に撮影した宝塚歌劇団を題材にした『ドリーム・ガールズ』での出来事がきっかけでした。
宝塚のトップスターたちは、自由で自信に満ち溢れているように見えますが、撮影を通して親しくなった劇団員から「宝塚は外見とは全然違う」と言われ、とても残酷で厳しい環境下で過ごしていることを知りました。

そして、彼女とさまざまな話をする中で、『新宿ボーイズ』の舞台となる歌舞伎町の「ニューマリリン」を知ることになったのです。

女性客からの電話を取るGAISH

ーー「彼らが今、どんな人生を送っているのか知りたい。そして、もしー会えたらハグをしたい」。公開から約30年たった今、思うこと

ーー『新宿ボーイズ』で追った3人とは、どこで出会いましたか。

撮影クルーとニューマリリンを訪れ、私たちのことを説明し、おなべについての映画を撮りたいと伝えました。そして映画に出演してくれるかどうかを尋ねたところ、GAISH、TATSU、KAZUKIの3人が名乗り出てくれました。

私たちは撮影をする時、緊張感があったのを覚えています。彼らは、過去に日本の撮影クルーにおなべという存在を見せ物のように映し出された経験をしていたからです。
今回の撮影は彼らにとってとても勇気のいることだったので、私たちを彼らの人生に迎え入れてくれたことには感動しました。

女性客に言い寄られるGAISH

私は特にGAISHに惹かれていました。彼はとても強がった態度を見せる一方で、とても傷つきやすかった。
今何をしているのか、生きていくためにどんな人生の選択をしたのか、ぜひ話してみたいです。そして、実際に会ってハグをしたい。

キム・ロンジノット監督

ーー公開から約30年が経過しましたが、今もなお映画祭などで本作が上映されることに対して、どのように感じていますか。

この映画がOUTCAST Film Festivalで上映されると聞いて感動しました。この30年間、『新宿ボーイズ』は世界中で上映され続けています。私が好きなバンド「The xx」メンバー Oliver Simは、『新宿ボーイズ』をお気に入りの映画に選んでくれて、コペンハーゲン国際ドキュメンタリー映画祭で上映されました。

たくさんの人が本作品を好きでいてくれているようです。スクリーンで本作品を見ると、登場する人物の優しさ、誠実さ、美しさに触れられるので、日本のみなさんにもぜひ見てほしいです。

◆『新宿ボーイズ』 11月5日(月)渋谷・ユーロスペースで開催「OUTCAST Film Festival」にて13:00~、19:00~の2回限定上映(上映時間:53分)
https://madegood.com/outcast/
ストーリー/新宿歌舞伎町のおなべバー、ニュー・マリリン。そこで男性として生きることを決意した3人のホストをカメラは追った。たくさんのガールフレンドに囲まれモテモテのGAISH。時に見せる冷たい態度が女性の心をくすぐる。ホルモン注射を打ったTATSUは、どのお客さんにも分け隔てなく優しいと人気だ。そしてニューハーフのくみと暮らしているKAZUKI。カメラは、ジェンダー・アイデンティティや性的指向、セックスライフについて率直に語る彼らの姿を映し出す。 

※“おなべ”という表現は、性別は女性、生き方は男性という意で作中使用されているものとなります。

文・取材/Honoka Yamasaki
記事制作/newTOKYO

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