2023年12月8日(金)よりシネスイッチ銀座、新宿武蔵野館ほか全国にて公開中のフランス映画『Winter boy』のスペシャルトークイベントが9日(土)に開催され、テレビ番組出演やSNSなどで人気を集める精神科医・藤野智哉さんがゲストとして登場。
思春期の葛藤や、愛する人の死に直面したとき、その悲しみをどのように受け入れていいのかなど、映画と実際の話を交えながら語った。
ーー“喪に服す”ということをリアルに捉えた映画。まずは自分の心をどうやったら守ることができるのか、一番に考えよう。
本作は、メガフォンを取ったクリストフ・オノレ監督の自伝的要素を多く含んだ青春ドラマ。
若い頃に父との死別を経験したオノレ監督自身の体験をもとに描かれている。まず映画を観た感想について藤野は「この映画を観て何を感じるかで、自分の死への向き合い方を見せてくれるという意味で、一つの指標になる大変リアルな作品だと思う」と、映画を見終えたばかりの観客に静かに語り始めた。
主人公のモノローグを主軸として進む点について、実際的に言葉にすることで良い効果があるのかを問われると「混沌とした感情の中にいると自分がどういう状態にあるのか全く整理ができないものです。それを自分自身で言語化することで、状態をハッキリとさせる効果があります。現実を見つめて進む一つのキッカケになる」と、感情の整理の重要性を挙げた。
父の死と兄の同居人への恋愛を経験しながら、常に苦しみ続ける思春期のリュカの心の状態が、医師として正解なのかどうなのかを問われると「人それぞれの生き方によって違いますし、他人が口を挟めるような部分ではないと思います。ただ、それをどう考えるかで、私たちがどういうふうに生きてきたかが見えてくる。つまり、どんなふうに死を捉えているのかという写し鏡になっている作品」と、冒頭と同様、死から現在の生と自分自身を見つめることの重要性を語った。
リュカの周りではクラスメイトや母、兄、その同居人など様々な人がリュカを支え続ける。
実際に喪失を抱え暗闇の最中にいる人にどう接したらいいのかを問われた藤野は「つい早く立ち直れるように助けなくてはと思いがちですが、そうではないんですね。本人が喪に服すということが必要で、介入することによってその時間を邪魔してしまう可能性があるんです。
勿論、他人の支えやアドバイスが必要なこともありますが、多くは“待ってあげる”ということが必要と思います。ただし、待つということはとても辛いものですね。この映画がまさにそうですが、観ていてとても歯がゆい。リュカをなんとかしてあげたいという気持ちにはなります。が、ちょっと自分の経験を踏まえて見てほしいのです。誰かから背中を押されるという行為が、自分を焦らせなかったか」と、自身の過去を改めて思い起こしながら接してほしいと語った。
父の死後、自身がどう思われていたのかを思い悩むリュカについても、まさに実際に起こることと頷きながら「理不尽な後悔をしてしまう人がいます。もっとこうすればよかったなど、実際とは違うことを考えてしまうものです。また、理不尽な死への怒りなのか、それとも故人自身への怒りなのか、そこがすり替わってしまうことも多いです。そこを確認してほしいのです。
事実関係を誤認してしまうことが多々あり、他人が何か伝えられるとすれば、それに関しては事実と違うよ、とキチンと言ってあげること。亡くなった方とはもはや会話ができないから、考えすぎてしまう方がとても多いのです。だから客観的に事実だけを見るようになれると本当は良いのです。が、それが出来るようであれば人間関係の悩みの8割くらいは解決しちゃいますね」と、ユーモアを込めて優しく語った。
様々な人に触れることで徐々に再生への道を踏み出していくリュカだが、こういったときに他人との繋がりはやはり大事なものなのか問われると「他人と関わっていることによって考えたくないことから自然と目を逸らすことが出来るので、他人と関わることは大事。ただし、喪に服すという時間も同じように大事なんです。だから、他人と関わる時期と、一人で喪に服す時期、そのタイミングを計る必要がありますね」と、アドバイスした。
最後に、実際にそういった状況に陥った場合について「まずは自分の心をどうやったら守れるかを一番に考えてほしいと思うんです。他人から何か言われても、結局それを言った相手は責任は持ってくれません。もっと自分にも愛を与えてほしいです。みなさんがそういう気持ちを持ってくれれば、僕らの仕事が減るかなと思うんですね」と優しい微笑みで語り掛けた。
ーー26歳で作家デビューし、自身のセクシュアリティをオープンに表現。俊英クリストフ・オノレ監督、自伝的な物語を映画化
「カイエ・デュ・シネマ」に映画評を寄稿し、その後映画監督となり、舞台の演出なども手掛ける多才なクリストフ・オノレ。自身のセクシュアリティやパーソナリティを強い信念のもと真正面から表現し、観る者に勇気を与え続けている。
本作はオノレの少年時代を描いた自伝的な物語。愛する者の死に直面したとき、その苦しみをどう乗り越えていけばいいのか。どんな絶望の底にも差し込む希望の陽に、優しく心身を温められる感動作。
主人公リュカ役を演じた新星ポール・キルシェは、“新たなスター誕生”とメディアからも絶賛され、第70回サン・セバスティアン国際映画祭主演俳優賞を受賞。名匠クシシュトフ・キェシロフスキ監督の『トリコロール/赤の愛』で鮮烈な輝きを放ったイレーヌ・ジャコブを母に持つ。リュカの母親役には『トリコロール/青の愛』『真実』などの名優ジュリエット・ビノシュ。息子を支える母親を熱演した。
ストーリー/冬のある夜、17歳のリュカは寄宿舎からアルプスの麓にある家に連れ戻される。父親が事故で急死したのだ。大きな悲しみと喪失感を抱えるリュカ。葬儀の後、はじめて訪れたパリで、兄の同居人で年上のアーティスト、リリオと出会う。優しいリリオにリュカは心惹かれるが、彼にはリュカに知られたくない秘密があった。そして、パリでの刺激的な日々が、リュカの心に新たな嵐を巻き起こすーー。
■Winter Boy
2023年12月8日(金)よりシネスイッチ銀座、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
https://www.winterboy-jp.com
素材提供/セテラ・インターナショナル
記事制作/newTOKYO
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