アムステルダムでの現地取材をもとに、LGBTQ+にまつわるアレコレを紹介する不定期連載企画「アムステルダムって、どこ?」。ちなみに、アムステルダムは世界で初めて同性婚が合法化されたオランダの首都なので、覚えておいて損はないよ。
第6回目はアムステルダム公共図書館にてLGBTQ+関連の書物をアーカイブしているIHILIAと、クィアにまつわるアートや文化を話し合うイベントQueer Currentsを訪ねた。
ーー日本を代表するゲイ雑誌「薔薇族」も。LGBTQ+の歴史を後世に伝えるため、世界中から書物をコレクションするIHILIA。
1978年、アムステルダム大学のホモスタディ学部にて前身となる団体が創立されて以来、44年間に渡って世界中のLGBTQ+に関する書物をアーカイブしているIHILIA。
アムステルダム公共図書館に移設してからは15年目を迎える。今回お話を伺うティア・シベルさんやゲリット・ウェッセルさんのような正規スタッフにボランティアスタッフをあわせて40人ほどで運営されている。
保管点数はおよそ20万点。書籍やマガジン、グレイリテラチャー(論文やパンフレット、年次報告書類のほかプライドイベントでの配布物)に至るまで、150カ国60言語のアイテムが保管されており、中には日本のゲイ雑誌『薔薇族』も。
アーカイブのほとんどが寄付だというが、最近はより多様な観点を広めるためにトランスジェンダーやインターセックスなどにまつわる専門書を積極的に購入しているそうだ。
またデジタルコレクション(紙のスキャンデータ)は、東ヨーロッパと南ヨーロッパのLGBT組織と協力してコレクションしたもので、職業と閲覧理由を記入した上で閲覧申請をすればほとんどの人が見ることができるとのこと。
取材当時は1998年にアムステルダムで行われたゲイゲームズの貴重な資料の展示も行われており、図書館を訪れた人たちが足を止めていた。
「日本のものは言語の違いや物理的な距離もあって、なかなか収集できていないの。特にレズビアンをテーマとした書籍が少ないので手に入れたいわ。海外からの寄付も受け付けているから、もし気が向いたら送ってね!」と話すのは、ティア・シビルさん。
続けて彼女にIHILIAで働く理由を尋ねると「自分が所属するコミュニティの歴史を知ることは、とても大切なこと。その上で必要不可欠なアーカイブを提供できることにやりがいを感じているの。大前提として、LGBTQ+コミュニティの一員として働けている充実感があるわ」と話してくれた。
ゲリット・ウェッセルさんは「世界中から集められたコレクションから新しい知識を吸収できることが楽しいんだ。それにアムステルダム公共図書館内で年に4回展示を開催しているんだけど、コミュニティ以外の人に対して知識や歴史に触れられる機会を与えることができる喜びがあるよ」と、IHILIAで働くことが自身の学びにも繋がっているそう。
ーー今、手元にあるプライドのパンフレットやクラブイベントのフライヤー、配布グッズなどが数十年後、歴史を辿る上で大切な資料になると考えると、保存しておいて損はなさそう。何ならIHILIAへ寄付することで新たな価値を提供することだってできる。終わったものだから…と捨てるのではなく、後世にLGBTQ+の歴史を残す意味でも手元に残す選択をしてくれたら幸いだ。
ーー「ただ楽しいではなく、PRIDE AMSTERDAMにもシリアスな話をするイベントがあるべき」。アートと文化を通じて多様な生き方を発信するQueer Currents
続いて訪れたのは、クィアにまつわるアートや文化を話し合うイベント「Queer Currents」。代表のカイス・ストークさんはアートやデザイン、ファッションなどのパブリッシャー・キュレーターとして活躍している。
彼がこのイベントを始めたのは2019年。フェスティバルの色が強かった当時のPRIDE AMSTERDAMに、シリアスなテーマを議論するトークイベントも加えるべきという意向でスタートさせたもの。
会場となるTHE STUDENT HOTELのラウンジには、彼が理事会メンバーを務めるプライドフォトアワードへの応募作品が展示されていたほか、別室ではトランスジェンダー団体が制作したVR映像体験やトークイベントが行われていた。
アムステルダム中央部から少し離れた場所にあるのにも関わらずたくさんの人で賑わっていた理由の一つとして、PRIDE期間中はTHE PRIDE HOTELと名称を変更するほど、このホテルがオープンな立ち場を表明しているセーフティーゾーンであることも大きく関わっているようだった。
展示されている写真の一部が、黒いスプレーで塗り潰されていることに気づく。そのことを彼に尋ねると「極少数のグループが、イタズラな気持ちでこのような行為に及ぶことがあるんだ。そのもの自体を写真に収めて展示している。心が傷むことだけど暴力を可視化することも必要なこと。自由で寛容というイメージのあるオランダでもこのような事実があると伝えることで、異性愛規範の撲滅について話すきっかけが生まれてほしい」と解説をしてくれた。
続けて「アートには、物事を再認識させる作用があると思うんだ。それは、見た人のこれまでの人生やバッググラウンド、痛みであったり…忘れ去っていた気持ちを開ける鍵にもなり得る」と語る。
ーー言葉で伝えるには限界を感じざるを得ない、LGBTQ+当事者の気持ちをエモーショナルに表現してくれるアートの力は、やはり偉大だ。
■IHILIA LGBT Heritage
https://ihlia.nl/en/
Instagram@ihlia_lgbtiheritage
■Queer Currents
https://www.queercurrents.com/
Instagram@queercurrents
取材・文/芳賀たかし
写真/EISUKE
通訳/桑原果林(ソウ・コミュニケーションズ)
協力/駐日オランダ王国大使館、ダッチ・カルチャー
記事制作/newTOKYO
※本取材は駐日オランダ王国大使館が実施するビジタープログラムの一環として行いました。