悪魔はなぜ悪魔なのか。映画「プラダを着た悪魔2」で問われる、ジェンダーと権力のリアル。

映画ライターのよしひろまさみちが、
今だからこそ観て欲しい映像作品をご紹介するコラム
「まくのうちぃシネマ」第80回目

この20年、マジで何度観たか数え切れない『プラダを着た悪魔』。仕事でモチベ激減したときや、何も考えずにエンジョイしたいときなどに繰り返し流してきたプラダ。しかも、スタンリー・トゥッチ演じるナイジェルのおかげで、クィア映画としても傑作でしたのよね。そんな傑作の続編『プラダを着た悪魔2』がついに!

パワハラ、モラハラ、マウント取りなんて言葉がなかった時代に、それを映像で全部見せ、今のハラスメント撲滅のための教科書のような役割にもなっている前作から20年。きっちり伏線も回収しているの。

前作のミランダがパリコレ中に夫との離婚危機に陥り「報道を最小限にしないと。(ルパート・)マードック(というメディア王。実在します)にギャラ請求すべきよね」といったあのセリフ。あれが続編のきっかけになるんですよ。報道はおろかメディアのあり方が激変した現代、ミランダの悪い噂は光の速さで拡散する一方、雑誌というメディアも危機的状況。おまけにファッションビジネスのあり方も変わってしまったから、ランウェイ編集部は大ピンチ。そこで報道記者として成長したアンディが、事態回収のためにランウェイの編集者として招かれる、ってお話。

ここでクィアな視点ね。前作でも語られていたのが「ミランダが男だったら、彼女の働き方に文句を言う人はいない」ってこと。仕事一筋、自分にも他人にも厳しいけど、仕上がりと影響力は最強、というのがミランダです。部下に子どもや犬の世話をさせるモラハラはダメとは思うものの、キャバの領収書を接待費で会社に回す男上司はおとがめなし、と考えるとどっちもどっち。ジェンダーと仕事の質の間には壁はないはずなのに、じつは見えない壁があるってことを描いているシリーズなんですよ。

しかもだ。今回もあからさまにゲイ好みのネタが大量に投下。まずアンディが昔座ってた第2アシスタントの席には、超ビッグサイズの男子のチャーリー(明言されないけどおそらくゲイ。ヴェンティサイズを飲んでトイレ我慢してます)。ドルチェ&ガッバーナは本人登場どうもどうも。そして、あるシーンではエミリーとドナテッラ・ヴェルサーチ本人がイタリア語でお茶! ほら、お好きでしょ? あ、主題歌の「Runway」を担当したガガ様も本編に出てきますよ、どことは言いませんが。

んで、続編でも登場、ナイジェルねー。20年間変わらず、ミランダの右腕(前作の時点で業界18年って言ってるので、キャリア38年!?)。「ロードアイランドで6人兄弟のなか育ち、サッカーの練習と偽って裁縫部に通って、毛布に隠れてランウェイを読んだ」ナイジェル少年は、劇中では明言されてないけどゲイ、もしくはクィア。スタンリー・トゥッチってこの役があたったせいか、イケオジゲイの役をこのあともやってます(『バーレスク』や『スーパーノヴァ』など)。しかもしかーも、ナイジェルは今回の影の主役! ということで、これらを全ておさらいのうえ、劇場で続編を楽しんで下さい、ザッツ・オール。

プラダを着た悪魔2
ストーリー/ファッション誌『ランウェイ』の名物編集長ミランダ(M・ストリープ)がSNSで大炎上。そこで、20年前に彼女のアシスタントだったアンディ(A・ハサウェイ)がフィーチャーズエディターとして着任。彼女はナイジェル(S・トゥッチ)と共に指針を模索し、彼女の元同僚で今は『ランウェイ』誌の広告クライアントである一流ブランド責任者となったエミリー(E・ブラント)に連絡を取ることに。

監督:デヴィッド・フランケル/原作:ローレン・ワイズバーガー(『Revenge Wears Prada: The Devil Returns』)/出演:メリル・ストリープ、アン・ハサウェイ、エミリー・ブラント、ジャスティン・セロー、ケネス・ブラナー、スタンリー・トゥッチ ほか/配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン/公開:5月1日より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー © 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.
https://www.20thcenturystudios.jp/movies/devil-wears-prada2

文/よしひろまさみち Twitter@hannysroom
イラスト/野原くろ Twitter@nohara96


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